シャープ㈱と親会社の鴻海精密工業グループが出資している液晶ディスプレーの生産会社、堺ディスプレイプロダクト㈱(SDP、大阪府堺市)の2019年度(19年12月期)業績は、売上高が前年度比10%減の999億円、営業損益は72億円の赤字(18年度は178億円の赤字)、純損益は196億円の赤字(同285億円の赤字)となり、2期連続で最終赤字に終わった。
テレビ用液晶の価格下落で減収止まらず
SDPは堺市の第10世代(10G=2880×3130mm)マザーガラスを用いた工場で主にテレビ用液晶パネルを生産している。09年4月にシャープディスプレイプロダクト㈱として設立され、シャープから大型液晶事業を譲り受け、要素技術の開発、企画設計、資材調達、生産までを単独で運営する体制を構築して、12年7月に現社名に改称した。
鴻海によるシャープの子会社化後、鴻海はSDP 10G工場をフル活用して、主に中国市場でシャープ製液晶テレビを大量販売する「天虎(Sky Tiger)計画」を展開し、17年にはシャープ製テレビのシェア向上やSDPの黒字転換に成功した。
だが、18年は中国テレビブランドの価格攻勢でシャープ製テレビの販売が鈍化し、安価に大量販売する戦略を見直して利益重視の姿勢に転換したたため、SDPの稼働率が大きく低下し収益が悪化した。19年はテレビ用液晶パネルの価格下落が継続し、赤字幅は縮小したものの、売上高の減少が止まらなかった。
サムスンへの供給を再開か
一方、20年は業績改善が見込めそうだ。新型コロナウイルスの感染拡大、東京オリンピックなど大型スポーツイベントの延期などで需要減退が懸念されるが、サムスンディスプレー(SDC)とLGディスプレー(LGD)という韓国のライバル2社がテレビ用液晶からの生産撤退を表明。これで過剰だったテレビ用液晶パネルの需給バランスが改善し、パネル価格の上昇が見込める。
なかでも、サムスンに対して、シャープはテレビ用液晶の供給を再開するのではとみられている。調査会社Display Supply Chain Consultants(DSCC)によると、20年7~9月期から量産供給を開始し、年内だけで300万枚を供給する計画という。
鴻海はかつて、天虎(Sky Tiger)計画を展開するため、それまでテレビ用液晶パネルの顧客だったサムスンへの供給を停止した。サムスンは、液晶パネルの顧客であると同時に、テレビ市場では競合だったためだ。これに対して、サムスンはシャープに対して損害賠償を求め、テレビ用液晶パネルを急遽、ライバルのLGから調達することになった。これによりシャープとサムスンの取引は16年から途絶えていたが、19年の液晶価格の激しい下落によって、そのLGも20年内にテレビ用液晶パネルの生産から撤退することを表明した。
シャープからサムスンへの供給再開が実現すれば、SDPの工場稼働率や売り上げの向上につながるだろう。
JDIの設備取得で単独上場も視野
また、シャープは21年度までに液晶事業を分割し、単独上場することも検討中と報じられている。加えて、ジャパンディスプレイ(JDI)が稼働を停止した白山工場を取得する可能性も浮上しており、すでにJDIは先ごろ、アップルとみられる主要顧客に白山工場の製造設備を約215億円で売却した。この取得にシャープが関わるなら、20年は中小型液晶ビジネスの拡大にもつながる可能性がある。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏