eMaginはCFレスで有機EL高輝度化へ

 eMaginがマイクロ有機ELで進めているのが、さらなる高輝度化だ。拡張現実(AR)ヘッドセット用ディスプレーには2000cd/㎡以上の高輝度が不可欠であり、LCOSなど他のディスプレーでは輝度やコントラストが不足すると述べている。また、特に軍事用ヘルメットにLCOSを搭載した場合、「Green glow」と呼ばれる問題が起きる場合があり、視認性が悪化するケースがあるため、有機ELに優位性があるとも主張する。

 同社は現在、マイクロ有機ELのラインアップとして、輝度200ニットまでの「XL」、800ニットまでの「XLS」に続き、最大3000ニットまで対応可能な「XLE」を開発している。XLEは、輝度が同じであれば寿命がXLSの3倍以上あり、SVGA+のプロトタイプ評価サンプルを2019年7~9月期から出荷し始めた。20年内に顧客認定を取得する計画だ。

 これに続き、ダイレクトパターニングと呼ぶ独自の有機EL成膜技術を用い、従来は必要だったカラーフィルター(CF)を使用しない「ULT」の開発を進めている。有機EL層で発光した光の約80%を吸収してしまうCFが不要になるため、輝度7000ニット以上が実現できる見込み。ダイレクトパターニングの詳細については「インクジェットではなく、ファインメタルマスクも使わない」と説明するにとどめ詳細を明らかにしていないが、有機ELスタック内の電荷キャリア輸送層は従来と共通で、薄膜封止(TFE)などの後続プロセスはすべて標準だという。緑と赤は燐光発光材料、青は蛍光発光材料を使う。

 このダイレクトパターニング技術を用いて、20年7~9月期には輝度1万ニットのエンジニアリングサンプルを出荷する予定。米軍が2.5万ニットまでの高輝度化を求めており、3年以内にこれを実現するため、並行して開発資金の調達も進める。また、ダイレクトパターニング技術で製造したディスプレーを民生用AR/VR(仮想現実)機器向けに19年12月末からデザインインし始めたことも明らかにしている。

Kopinはダブルスタック構造で高性能化

 有機ELでは後発のKopinも、高輝度化と高精細化を急ピッチで進めている。その1つが、1月に開催された「CES2020」に展示したダブルスタック構造のマイクロ有機ELマイクロディスプレーだ。ダブルスタック構造の詳細については明らかにしていないが、有機ELの発光層を2層以上に複層化して、高輝度化や長寿命化を図っているものと想像される。複層化技術は、テレビ用有機ELディスプレー「WOLED」を量産している韓国のLGディスプレーも採用している。

 Kopinは、マイクロ有機ELで世界最大サイズの解像度2560×2560(2.6K)の1.3インチをパナソニック、中国江蘇省常州に工場を持つLakesideと共同開発した。高速CPHY/DPHY MIPIインターフェースとダイナミックレンジ(HDR)を実現する10ビットカラー制御を統合。ダブルスタック構造で輝度1000ニット以上、コントラスト比1万対1以上、色域NTSC比70%を実現した。

 このほかに、ダブルスタック構造のマイクロ有機ELマイクロとして、解像度2048×2048(2K)の0.99インチと、解像度1280×720で0.49インチの高輝度グリーン720pも開発した。前者は輝度1000ニット超、コントラスト比1万超、NTSC比70%を実現。後者は2万ニットを超える超高輝度で、消費電力をわずか130mWに抑えた。

Kopinのマイクロ有機ELモジュール

 Kopinはファブレス企業であるため、シリコンバックプレーンを自社で設計し、有機ELの成膜工程はLakesideのほか、中国FPD最大手のBOEとの合弁会社であるKunming BOE Display Technology、および中国雲南省のOLiGHTEKの3社に製造委託している。米中貿易摩擦が激しさを増すなか、今後も米中のパートナーシップを維持しつつ商品展開を進めていけるのか懸念されるが、Kopinはパナソニックの案件がBOEの生産能力を活用する最初の契約になるとの見通しを示している。