本記事の3つのポイント

  •  新型コロナウイルスの感染拡大が続くなかで、ロボットの活躍が期待されている。ロボットが隔離エリアに物資を運ぶなど、すでに実際に医療現場で運用が始まっている
  •  京東集団が、武漢市において配達ロボットによる医療品の配送を行うなど、物流網の維持にも貢献
  •  創薬の現場でも、研究者が行っていた化合物のスクリーニング作業をロボットが人工知能を駆使して行うなど、サービスロボットは国力低下を最小限にとどめる重要ツールになり得る

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が広がり続けるなか、感染拡大を防止する措置として大型のイベントなどが相次いで中止となり、観光業をはじめ、外食業、商業施設、交通など幅広い領域に影響が出ている。また、米アップルが2020年1~3月期の売上高予想として示していた630億~670億ドルが未達になると発表するなど、エレクトロニクス業界にも大きな影響を与えている。そのなかで、新型コロナウイルスの感染拡大防止ならびに経済損失を低減するためにロボットを活用した取り組みが増えつつある。

病院内搬送などに活用

 もっとも多いのが医療関連での活用だ。例えば、広東人民病院と杭州第一人民病院では、自動搬送型のロボットを活用した運搬業務の代替が行われている。移動機能を持ったロボットが無菌エリアから、食事、薬、物品などを積んで出発し、隔離エリアに荷物を配送。そして隔離エリアからは、検体や使用済みの服やシーツなどを回収するというもので、人と接触を減らすことで院内感染の発生を低減させている。

 感染拡大を防止するという観点では、Dimer(米カリフォルニア州)の滅菌ロボット「GermFalcon」の航空機内での活用が増加。UVC(紫外線C波)を照射し、航空機内の座席や調理室などの殺菌を行うロボットで、1分間で54席を処理でき、コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどの殺菌を行っている。

 また、テレプレゼンスロボットとも呼ばれる遠隔操作型ロボットを活用し、遠隔地から非接触で患者を診断する取り組みも増えており、新型コロナウイルスの発生源となった中国のほか、米国でもワシントン州にあるプロビデンス・リージョナル・メディカル・センター・エバレットにて、遠隔操作型のロボットを活用して患者の診察を実施。ロボットに搭載された画面を通じてコミュニケーションをとり、感染者との接触を最小限に抑えている。

 そのほか、米ニューヨークのタイムズスクエアには、ロシアのPromobot製のヒューマノイドドロイドが設置され、タッチパネルで新型コロナウイルスについて質問するとアドバイスを得られるようになっている。こういったテレプレゼンスロボットは、移動機能を持つタイプも多く、移動を制限された人が、オフィス内のテレプレゼンスロボットを操作して、他の社員と話をするなど医療用途以外でも活用が進んでいる。

京東は武漢で配達ロボを活用

 新型コロナウイルスによる影響で、中国では物流網の停滞も大きな問題となっており、必要物資が出荷できないケースが出ているが、そこでもロボットの活用が進み始めている。その1つとして、中国の大手インターネット通販サイト「京東商城(JD.com)」を運営する京東集団が、武漢市において配達ロボットによる医療品の配送を実施している。

 京東は、17年に宅配用の地上配送ロボットを発表。そして20年1月に中国・長沙市およびフフホト市に中国初の「無人配送車スマート配送ステーション」を開設し、最終中継拠点から消費者までの配送、いわゆるラストワンマイル配送をロボットで自動化している。ロボットは最短配送ルートを自動で計算し、走行中は障害物を避け、信号を認識することも可能。商品の受け渡しには顔認証システムを活用することで、正確かつ安全に配送が行える。

 2月上旬から、武漢第9病院と同病院から600mの位置にある配送ステーションとのロボット配送を開始しており、既存の配送ロボットに比べて荷物の設置スペースを大型化し、様々な医薬品の配送に対応できるようにしている。各国の政府機関では「不要不急の外出を控えるように」と呼びかけている。それに伴い、インターネット通販やフードデリバリーの利用が増えており、今後こういった配達ロボットの活用がさらに増えていくとみられる。

創薬現場での利用にも期待

 今後、ロボットの活用が期待される分野としては創薬がある。現在、医薬品の開発では、様々な化合物が持つ作用をスクリーニング(ふるい分けて選別)し、候補物質を選定する作業が行われており、その作業を人工知能とロボットを組み合わせたシステムで代替する取り組みが国内外で報告されている。

 具体的には、創薬の研究者が行っている実験作業をロボットが代わりに行うとともに、AIが自ら仮説を立て、次にやるべき実験プランを作成し実行。そこで得られた結果を判断して仮説を修正し、ロボットと連動して実験を繰り返すことで、ターゲットとなる疾病に対して効果がある化合物を選択していくというものだ。現状、新型コロナウイルスでの活用事例は報告されていないが、新薬の早期開発につながるとして期待が高まっている取り組みだ。

 ここまで様々なロボットを紹介してきたが、これらのロボットのなかに日本製のものはほとんどない。本稿を読んでいる方のなかには「日本はロボット技術に強い国」「日本はロボット大国」といったイメージを持たれている方もいるかもしれないが、日本が強いのは工場などで使用される製造用ロボットであり、上記で紹介したような非製造用ロボット/サービスロボットと呼ばれる分野では、実用化や市場形成において海外の方が先行している。

 上記の事例が示すように、今回の新型コロナウイルスのような事象が起こった際に、サービスロボットは国力低下を最小限にとどめる重要ツールになり得るものであり、その重要性をしっかりと認識する必要があるだろう。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島 哲志

まとめにかえて

 新型コロナウイルスが中国国内だけでなく、世界各地に広がっている中、ロボットを活用した物資の搬送などは欠かせないものとなっています。記事にもあるとおり、こうした現場で利用されているロボットの多くは日本製ではなく、海外製であることは、日本がロボット大国であるという認識を覆すものです。こうした現状を理解して、日本のロボット研究のさらなる活性化が期待されるところです。

電子デバイス産業新聞