半導体テスター大手のアドバンテストが2020年1月、米国に本社を構えるEssai社を買収した。アドバンテストは近年、事業の裾野を広げるためのM&Aを積極的に行っており、今回のEssai買収もその一環と見られている。アドバンテストだけでなく、半導体テスト業界では近年、企業買収が相次いでいる。スケールメリットの追求だけでなく、需要サイクルの異なるものを手中に収めることで、事業のボラティリティー(変動性)を抑える狙いがある。

通期業績を2度上方修正

 アドバンテストは主力の半導体テスターが5G商用化の波を受けて、大きく伸長している。第3四半期(19年10~12月)決算発表にあわせて、通期の売上高予想を2700億円(前回予想2470億円)、受注高を2700億円(同2350億円)、営業利益を560億円(同450億円)にそれぞれ引き上げた。通期業績の上方修正は今期2度目。好調なSoCテスターに加え、DRAMを中心としたメモリーテスターや、システムレベルテスト(SLT)関連の受注が好調に推移したため。

 5Gの商用化によって、スマートフォンに搭載されるチップも高度化・複雑化が進んでおり、テスト時間も大きく伸びている。4Gチップに比べて、5Gチップのテスト時間は3倍に伸びるとされており、必要なテスター台数は単純計算で3倍に増える。スマホ各社の5G対応端末の投入を控えて、携帯電話基地局などのインフラ向けのテスト投資も活発化。半導体テスター市場は空前の盛り上がりを見せた。

 19年の半導体テスター市場は年初段階で27億~28億ドルと前年比で減少するとみられていたが、SoCテスター市場が予想以上に盛り上がりをみせたことで、結果的に前年と同水準の36億ドル規模になったとみられる。20年はSoCテスターが引き続き好調に推移するほか、メモリーもDRAM、NAND双方でテスター需要が回復しており、38億ドル規模になると見られている。

M&A投資枠1000億円を設定

 こうした好調な事業環境にあって、アドバンテストは中長期経営計画(18~20年度)において、M&A投資枠として約1000億円を設定。テスターなど既存の事業領域を強化する一方で、半導体テスト工程の前後にある評価・設計工程(上流)や、SLT分野(下流)への進出を積極的に行っていく姿勢だ。18年にはAstronics社のシステムレベルテスト(SLT)事業を1.85億ドルで買収(一定の売上水準を達成すると追加で費用が発生するアーンアウト条件も盛り込まれている)することを発表した。

 さらに、半導体テスターは顧客の新規設備投資に需要が大きく左右されることから、事業の変動性を抑える意味でも、リカーリングビジネスへの傾注も強める。具体的には、テストソケットやプローブカードなどの消耗材分野を指していると見られ、半導体テストのターンキービジネス強化をこれまで以上に強く意識している。

インテルから表彰

 こうした方針のもと、買収を行ったのが先述のEssaiだ。同社は米国シリコンバレーのカリフォルニア州フリーモントに本社を構える企業。03年にCEOを務めるNasser Barabi氏が立ち上げ、ファイナルテスト用テストソケットや「ステーション」と呼ばれる、サーマルコントールユニットなどを手がける。アドバンテストによれば、Essaiの年間売上高は約1億ドル。

19年度第3四半期決算説明会資料から抜粋

 実はEssaiは今、半導体世界最大手に返り咲いたインテルの大口受注によって、急激に事業を拡大させている。周知のとおり、インテルはパソコン用CPUを中心に供給問題を抱えており、これを解消すべく生産能力増強を急ピッチで進めている。前工程能力の増強がクローズアップされがちだが、このテスト工程の増強も大きな課題となっており、インテルはテストサプライヤーに対して、大幅な増産要請を行っている。

 EssaiのNasser Barabi CEOはもともとインテルと近しい人物とされており、Essaiの現状の売り上げも大半がインテル向けを占めるとされている。18年にインテルが優秀なサプライヤーを表彰するアワードにおいて、EssaiはASMLやフォームファクター、JSR、東京応化工業といった錚々たる企業と並んで「Supplier Achievement Award(SAA)賞」を受賞するなど、業界での知名度もここ数年向上していた。この企業をアドバンテストが買収したことは、先述の「リカーリングビジネス」の拡大に加えて、顧客戦略でも大きな意味を持つと考えられる。

旧ヴェリジー系テスターに依存

 アドバンテストのSoCテスターは大きく、旧ヴェリジーの「V93000」とアドバンテストの「T2000」の2つのプラットフォームで構成されている。昨今のSoCテスターの拡大によって、同社の業績も好調だが、この多くを「V93000」に依存しているのが実情。「V93000」はエヌビディアやハイシリコンなど海外の大手ファブレス顧客から採用されており、台湾や中国などアジア系OSATにはこの「V93000」が大量に導入されている。

 一方、T2000はもともと、「インテルのために作った」といえるほどの機種で、同社が主要顧客の1社であった。しかし、数年前からインテルはテスト戦略に対して、内製装置を使うという大きな方針転換を図っており、それ以降、新規装置の受注はほぼゼロに近い状態であったとみられている。

 「T2000」によってつながっていたインテルとの関係性が、ここ数年絶たれていた状況であったが、今回のEssai買収はこの流れを大きく変える可能性もある。すぐさま、「T2000」を再度採用するという流れは考えにくいが、新たな事業機会が巡ってくることも十分に想定される。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳