この記事の読みどころ
- 経営再建問題に直面するタカタを巡っていくつかの動きが出始めました。
- 今振り返ると、系列に属さないオーナー企業ということ、タカタ以外への発注が難しかったことなどが、問題解決を遅らせたとも言えます。
- 経営支援に関心を寄せる企業やファンドも登場したとの報道もあります。まずは今後の展開を注視するしかありません。
タカタ問題に動きが出始めた?
この約2年間、日本の自動車業界を混乱に陥らせたのは、独立系の大手自動車部品メーカーであるタカタ(7312)による大規模リコール問題、いわゆる、一連の“タカタ問題”でした。約2年も経ちながら、この問題は未だに完全解決に至ったとは言い難い状況ですが、ここに来て、いくつかの動きが出始めているようです。
タカタは規模の大きな自動車部品メーカー
タカタは、シートベルトやエアバッグなどの安全部品を主製品としており、これら安全部品では世界有数の規模を誇っています(エアバッグは世界第2位との試算)。
2016年3月期実績の売上高は7,180億円(対前期比+12%増)、営業利益は421億円(同+28%増)であり、自動車部品メーカーとしてはかなり大きな部類に入ります。また、日本車メーカー向けの売上比率は約40%であり、世界の主要メーカーとの取引が多いことも特徴です。なお、最大の納入先はホンダ(7267)となっています。
さて、そのタカタですが、一連のタカタ問題により現在は経営再建問題に直面しています。
タカタの大規模リコール問題とは
タカタ問題とは、タカタ製のエアバッグで異常破裂が相次ぎ(特に北米地域)、米国で死亡事故が発生したことから始まった大規模なリコール問題を指します。
米国当局からの要請に応じる形で追加リコールが拡大し、それが日本やアジアにも広がった結果、リコール対象台数は1億台を突破したとも言われています。そして、そのリコール費用は▲1兆円を下らないとも推測されています。
既に一部は費用計上が住んでいますが、タカタの財務状況(純資産が約1,245億円、手元ネットキャッシュ+製品保証引当金で約650億円)を勘案すると、とても1社が支払える金額ではありません。
現在は、ホンダを始めとする自動車メーカー各社が、とりあえずという形でリコール費用の大部分を負担しており、その中でも最大の負担を強いられたホンダは、業績悪化を余儀なくされています。そして、今後はタカタとの分担配分が焦点です。
しかし、仮に自動車メーカーが費用負担を放棄するとなれば株主への説明責任に発展しますから、契約に応じた適切な分担を求めるでしょう。タカタが支援先を必要とするのは明らかです。
タカタがオーナー企業であることが解決を遅らせた一因
解決が大きく遅れている理由の1つが、タカタが自動車メーカーの資本傘下に入っていない、つまり、どこの系列にも属さない完全独立の部品メーカーということです。
実際には、ホンダが約1%出資していますが、タカタの創業家が約60%を有しています。これは、日本の自動車部品メーカーとしては、かなり特異な部類に属します。しかも、上場企業となれば、ホンダを始めとする自動車メーカー各社が、創業家の同意なしに、再建や問題解決に乗り込んで行くことは不可能です。
これが、系列に属する部品メーカーだと、自動車メーカー主導の再建が簡単に行われることになります。
日本の自動車部品産業の特徴の1つである「系列」に関しては、従前より賛否両論ありますが、今回のタカタ問題に関して言えば、マイナス面が顕在化したと言えなくもありません。
タカタの経営支援先を選定する動き
さて、そのタカタの経営再建問題に関しては、金融機関が仲介する形で(タカタは5月下旬に、米国Lazardをファイナンシャルアドバイザーに選定したことを公表済み)進む可能性が高いと思われます。
しかし、現時点の状況を見る限りは、自動車メーカー主導ではなく、企業の独立性を維持可能な外部支援を優先するように見えます。ここに至ってもなお、自動車メーカーの経営支配を受けたくないという思いが強いのでしょうか。
自動車メーカー側も事態を静観せざるを得ない事情
現時点では、自動車メーカー各社は静観の姿勢です。自動車メーカー側、とりわけ、ホンダにとっての弱みは、タカタ以外への発注先が簡単に見つからないことではないでしょうか。他社への発注に切り替えるにしても、新車の設計開発段階から行う必要があるため、少なくとも2~3年は要します(既に実施している可能性はあります)。
また、新たな発注先となる部品メーカーも、その生産能力に限界があるでしょう。ましてや既存車種になると、事実上、他社への切り替えは不可能に近いと言えます。このように、“リコール問題を起こしたタカタは切り捨てだ!”とは簡単にできない事情があり、これがこの問題の長期化を招いた一因でもあります。
昨今の報道によると、タカタの経営再建に対して、米国の投資ファンドや中国企業が関心を寄せている模様です。こうした外部支援先による経営再建は、従来の取引慣行が通用しなくなる可能性もあるため、ホンダを始めとする自動車メーカーにとって『諸刃の剣』ともなりかねない状況です。
しかし、現状の打破という観点では決して悪いことではないかもしれません。いずれにせよ、一連のタカタ問題の完全解決にはまだ時間を要しそうです。
LIMO編集部