4人に1人が繰上げ受給開始を、5人に1人が繰下げ受給開始を希望
2019年のサラリーマン1万人アンケートで、はじめて「希望する公的年金受給開始年齢」を聞きました。その平均値は64.9歳。65歳で受給を開始したいと回答した人は、回答者全体11,812人のうち52.7%と集中していました。
その一方で、60歳受給開始を希望する人は20.6%で、61-64歳までを合計すると24.8%に達しました。現役サラリーマンの4人に1人は、公的年金の繰上げ受給を希望しているわけです。
一方で、70歳まで受給を遅らせたいという人は8.6%、さらに制度が許せば71歳以降に受給を開始したいという人も9.2%あり、合計すると17.8%となりました。66歳以降の繰下げ受給希望者は合計では22.3%です。
思った以上に、公的年金の繰上げ受給、繰下げ受給への希望は多いことに驚きます。
年収、資産規模はほとんど影響しない
繰上げ・繰下げを希望する人たちの特徴を分析するため、主だった属性データとクロス分析をしてみました。
個人年収帯でみると、年収で1,500万円を超えると、繰下げ受給開始希望者の比率が高くなっています。年収が高いほど退職準備ができるため、繰下げ受給開始が受け入れやすくなるとみることができます。
ただ、実際には1,500万円以上の層の回答者総数が少ないことから、これだけでは断言し難いところです。充分なデータがある年収1,500万円以下の層だけでみると、実はそれほど大きな変化が無いように窺えます。
世帯保有資産別のデータでも、「多くの資産を保有している人ほど繰下げ受給希望者が多い」という関係を証明するデータにはなっていません。この点でも、退職準備ができているかどうかが公的年金の受給開始希望年齢に影響を与えているようには推計できません。
さらに確定拠出年金への加入状況、投資をしているかどうかといった点もほとんど影響していません。
若い人ほど繰上げ受給開始を希望
しかし、若い人ほど繰上げ受給開始を希望する人が多くなっているようです。
20代では60-64歳で需給を開始したいとする人の比率は32.2%と50代のそれに比べて12ポイントも高くなっています。若い人ほど公的年金への不信感が強く、少しでも早く受給を開始することを望んでいるのかもしれません。
実際、「将来、公的年金制度が廃止される」と懸念している人のうち3割が繰上げ受給開始の希望を持っています。
しかし、公的年金制度に関して、給付額も減少は避けられないものの、制度そのものは長期に持続できる設計になっており、この懸念だけから、受給額を減らすことになる繰上げ受給を求めることは、必ずしも良い面ばかりではないことが気になります。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史