半導体システム開発企業の㈱TRIPLE-1(福岡市博多区)は、AI分野に参入する。最先端の5nmプロセスを用いたディープラーニング(DL)専用AIプロセッサー「GOKU」を開発中で、2021年中の量産開始を目指す。また、すでに開発済みの仮想通貨マイニング用ASIC「KAMIKAZE」の次世代版も開発しており、最先端ロジック分野でさらなる事業拡大を図る。
7nm ASIC開発成功で商社とも連携
同社は16年11月に設立され、17年2月に7nmプロセスを採用したビットコインのマイニング用ASIC「KAMIKAZE」の開発に着手。18年2月にテープアウト(設計完了)して、世界最大の半導体ファンドリー(受託生産事業者)である台湾のTSMCを通じて製品化に成功し、マイニングマシンのリファレンスデザインを提供している。
19年3月には富士通エレクトロニクス㈱とKAMIKAZEに関する販売特約店契約を締結した。富士通エレのグローバル展開力とTRIPLE-1の最先端プロセス開発力を掛け合わせ、世界市場で拡販を図る。長期的なパートナーシップを構築し、マイニング用ASICにとどまらず、今後HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)をはじめとする様々な分野・用途向け最先端製品の開発・展開でも連携する方針だ。
DL用は最先端5nmで開発
開発中のGOKUは、TSMCの5nmプロセスを採用し、設計ターゲットを消費電力100W、ピーク性能(半精度)1ペタFLOPS(=1000テラflops)、電力効率(半精度)10テラFLOPS/Wに置いて開発を進めている。年内にテストチップを完成させ、21年早々にもチップ化する考えだ。
TSMCの5nmは20年上期に供用開始予定の最先端プロセスであるため、TRIPLE-1はKAMIKAZEの開発で培った設計技術を駆使し、手配置・手配線でレイアウトに工夫を凝らし、徹底した省電力化に取り組む。現在のところ、競合他社が製品化済みの既存DL用プロセッサーは12nmプロセスを用いたものが最新であるため、5nmのいち早い採用によって性能面で大きくリードする方針だ。
マイニング用はASICブースト初搭載
一方、KAMIKAZEの次世代版「KAMIKAZE Ⅱ」も性能を大きく向上させる。初代から「電力効率を2倍にする」ことを設計ターゲットに置いており、チップあたりの電力効率が52W/THs(テラハッシュ)だった初代KAMIKAZEに対して、KAMIKAZE Ⅱは28W/THsを実現する計画だ。
KAMIKAZE Ⅱは、初代には非搭載だったASICブーストを搭載していることが最大の特徴。コア数の増加によってダイサイズや消費電力は初代より大きくなる見込みだが、初代の7nmプロセスではなく7nm改良プロセス(いずれもTSMC)を採用するとともに、電源電圧を初代の0.3V以下からさらに低電圧化し、ハッシュレートを初代の23GHsから240GHsへ高めるつもりだ。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏