ここ最近、業界内では「インテルが7nm世代の投資を前倒しで行う」との噂が広まっていた。しかし、同社の現況は10nm世代の立ち上げ途上であり、投資回収もまだまだこれからという状況だ。こうしたなかで、7nm投資前倒しに対して疑問を投げかける関係者も多く存在した。

 これに対して、一定の答えが見えてきたのが、同社が発表した2020年の設備投資計画だ。14/10nmといった既存プロセスの生産能力を増強する一方、7/5nmなどの次世代プロセスにも資金を投じていくという。そして、この7nm世代を最初に採用する同社の製品は主力のCPUではない。AIやディープラーニングなどのHPC(High Performance Computing)分野で欠かせないGPUだ。

米エネルギー省のスパコンに搭載

 GPUは昨今、AIやディープラーニングなどのアクセラレーターとして存在感を強めており、NVIDIAやAMDなどを筆頭に市場が大きく拡大している。インテルはクラウド分野におけるCPU分野では圧倒的な市場シェアを有しているが、成長領域であるアクセラレーター市場では地位が弱かった。

 こうしたなかで、同社はかねてディスクリートGPU製品の開発を進めており、19年にディープラーニング専用のGPU製品「Ponte Vecchio(開発コードネーム)」を発表。7nmプロセスを採用していることに加え、次世代パッケージ技術「Foveros」なども取り入れている。

「Ponte Vecchio」は米エネルギー省のスパコンに搭載される

 同GPUは米エネルギー省の国立研究所に設置されるスーパーコンピューターに搭載される予定で、同社では21年末に出荷を開始する。CPUもそれに続くかたちで、22年以降は7nmを採用していく計画だ。

EUV露光装置の発注も加速

 こうしたGPU製品の立ち上げなどに伴い、10nmと並行して7nm世代の設備投資も本格化する見通しだ。同社は2020年設備投資として過去最高の170億ドルを計画。うち、半分以上を7/5nm用装置、ならびにファブスペースの拡張に充てるとしている。GPUはCPUに比べて微細化が比較的容易であり、今後適用ノードに開きが出てくることが想定される。同社ではCPUとGPUを別チップで製造し、これをパッケージング(EMIBなどを活用)して1つのシステムとして提供していくことになりそうだ。

 7nm世代は同社として初めて、EUVリソグラフィーのプロセスを導入する。10nm世代まではArF液浸にマルチパターニング技術を組み合わせることで延命を図ってきたが、7nm世代からいよいよEUVを導入することになる。ASMLは19年10~12月期に9台のEUV露光装置を受注。この半分以上がインテルからの発注だったとみられ、21~22年の量産タイミングを見据えて、準備を進めていることがうかがえる。

供給問題解消のため既存世代も増強

 一方で、同社は18年夏以降、パソコン向けCPU製品を中心に供給問題を起こしている。過去2年この問題を解消すべく、積極的な設備投資を行っており、19年も162億ドルの設備投資を実施し、生産能力(ウエハー換算)を約25%増強。PC向けCPU製品の供給量も、19年下期には上期比で2桁台の増加を達成した。

 しかし、依然として需給環境がタイトであるため、20年もウエハー投入能力の増強を中心に積極投資を実施する。パソコン向け出荷量としては20年に前年比1桁台後半の増加を目指し、問題解消に努める。

サーバー用10nmは20年後半から出荷開始

 クライアント向けCPU製品は現在、10nmを採用した「Ice Lake」の出荷を行っているが、20年後半から同プロセスのアップグレード版である10nm+を採用した「Tiger Lake」の出荷を開始する。サーバー向けは20年上期に14nm世代の「Cooper Lake」が中心となるが、20年後半から、10nmを使った「Ice Lake」の出荷が始まる見通し。

 データセンター(DC)向け事業の好調などにより、20年通年の売上高見通しは前年比2%増の735億ドルを計画する。DC向けは1桁台後半の増加を見込む一方、PC向けは1桁台前半の減少を予想している。上期は強い需要が続くものの、モデム事業撤退に伴う減少分に加え、「Windows 10」の買い替え需要の一服に伴うパソコン市場の落ち込みなどを想定する。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳