休日に仕事のことを「考えただけ」でもストレスは跳ね上がる

あなたの「適職」はどこにある?

 仕事がもたらすストレスは大きいものだ。仕事内容、業務量、勤務時間、上司や同僚との人間関係など、その種類も多岐にわたる。ストレスに耐えかね、心身に不調が出ている人や、転職を考えている人も増えているのではないか。

 発売後1週間足らずで5万部突破となった話題書『科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方』の著者であり、10万本の科学論文を読破してきたサイエンスライター・鈴木祐氏は、「仕事がもたらすストレスには『良いストレス』と『悪いストレス』がある」と言う。一体どういうことか、鈴木氏に解説してもらった。

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楽な仕事は死亡率を2倍に高める

 誰でもハードな仕事は嫌なものです。できるだけ負担が少ない仕事を選びたくなるのが人情でしょう。月の残業が80時間を超すようなハードワークの弊害は言うまでもなく、仕事のストレスが大きい人は脳卒中や心筋梗塞などにかかりやすく、そのせいで早死にのリスクも高いことも多くのデータでわかっています。

 仕事が楽でストレスがなければリラックスして作業に取り組めますし、パフォーマンスが上がりそうな気もしてくるでしょう。

 しかし、これは「幸福度」という点から見れば大きな間違いです。ストレスが体に悪いのは確実なものの、その一方では「楽すぎる仕事」もまた、あなたの幸福度を大きく下げてしまいます。

 事実、過去に行われた複数の研究が、会社内で高いポジションに就いたエグゼクティブほど健康で幸福度が高い事実を示してきました。彼らは周囲の部下よりもあきらかに仕事の量が多いにもかかわらず、風邪や慢性病などにかかりにくく、日中の疲れを感じずに活動できていたのです。

 さらに3万人の公務員を対象にしたイギリスの研究によれば、組織内で地位のランクがもっとも低い人は、ランクが高くより重大な仕事を行う人に比べて死亡率が2倍も高かったのだとか。

 これは人間以外の種族にも見られる現象で、ケニアのサバンナで暮らすバブーン(ヒヒ)を調べた研究でも、仕事の少ない個体ほどストレスホルモンの量が多い傾向が確認されています。どうやら、仕事の負荷が低いからといって必ずしも精神的に楽になれるわけではないようです。

 それでは、ハードワークで体を壊す人がいる一方で、大量の仕事をこなすことで逆に幸せになれる人がいる理由は、どこにあるのでしょうか?

適度なストレスは仕事の満足度を高める

「船荷のない船は不安定でまっすぐ進まない。一定量の心配や苦痛は、いつも、誰にでも必要である」

 このショーペンハウアーの名言は、楽すぎる仕事が体に悪い理由の一端を示しています。ストレスは必ずしも悪いものではなく、私たちが幸福に暮らすためには欠かせない要素だからです。

 たとえば、アメリカで軍事戦略のリサーチなどを行うランド研究所は、過去に出た大量のストレス研究をレビューした上で、「適度なストレス」がもたらすメリットを3つ挙げています。

・仕事の満足度を高める
・会社へのコミットメントを改善する
・離職率を低下させる

 ほどほどのストレスであれば、なんの問題もないどころか、逆にあなたの幸福感を高めてくれる、というわけです。この現象を視覚化したのが図表1〈別図版〉です。

ほどほどのストレスは仕事にいい効果をもたらす

 あまりに自分の能力を超えた仕事は不安につながり、あなたの健康を損ないます。逆になんの負荷もない仕事は退屈感を生み、やはり幸福度の低下をもたらします。

 いわば、ストレスが私たちにもたらすメリットとは、「バイオリンの弦」のようなものです。弦がピンと張りつめすぎれば甲高い音しか響かず、ゆるすぎれば濁った音しか鳴りません。良い音を奏でるには、適度な張りに調整する必要があります。

 要するに、組織内のランクが高い人ほど幸福なのは、ランクが低い人よりもストレスの張りを調整しやすいからです。

 当然ながら、会社で上の地位に就く人ほど仕事の裁量権が増え、作業を自由にコントロールできるようになるでしょう。仕事が難しいと思っても、おおむね自分の好きなペースで行えますし、無理をして嫌な人と付き合わねばならないリスクも減る場合が多いはずです。

 ところが、地位が低い人は好きなように締め切りを動かせず、仕事の内容を自分で選ぶわけにもいきません。コントロールの範囲が狭いぶんだけストレスも調整できず、結果として幸福度は下がります。

「昇進」といえば、まずは「給料アップ」というメリットが頭に浮かびますが、実際にあなたの幸福度を左右するのは「裁量権」のほうなのです。

幸福感を鍛えるには良いストレスが欠かせない

 このように、ストレスは諸刃の剣であり、私たちの幸福度を上げる方向にも下げる方向にも働きます。ブラック企業のように慢性的なストレスが延々と続く状況は論外ですが、楽すぎる仕事もまたあなたを不幸へ追い込むのです。

 良いストレスと悪いストレスには、大きく分けると図表2〈別図版〉のような違いがあります。

ストレスには良いものと悪いものがある

 悪いストレスが免疫システムの働きを狂わせて脳の働きまで低下させるのに対し、良いストレスは仕事に取り組むモチベーションを高め、身体の疲れも取り除く働きがあるわけです。ストレス学説の生みの親であるハンス・セリエは言います。

「ストレスを避けてはいけません。それは食べ物や愛を避けるようなものです」

 体を鍛えるためには、筋トレやランニングで適切な負荷を与えねばならないのと同じように、私たちの幸福感も適度なストレスがなければ成長しないのです。

ワークライフバランスの崩壊には要注意

 とはいえ、ストレスはストレスでも、その「種類」に気をつけなければならないのは前述のとおりです。

 組織行動学者のジェフリー・フェファーが手がけた大規模な研究によると、「従業員に悪影響をおよぼす労働条件」として「時間の乱れ」が挙げられます。さらに、その中でもっとも人体への害が大きかったのは「ワークライフバランスの崩壊」でした。プライベートに仕事を持ち込む働き方のことで、その悪影響は受動喫煙のダメージをはるかに上回ります。

 具体的なデータも多く、およそ2600人を5年にわたって追跡したリサーチでは、プライベートと仕事を切り分けずに働き続けた人は、うつ病にかかる率が166%に達し、不安障害の発症率も174%にまで上昇していました。

 約2000人を対象にした別の研究でも、帰宅後も仕事を続ける人は幸福度が40%下がる傾向が認められています。

 ワークライフバランスの崩壊が体に悪い理由は自明でしょう。人体が満足に働くためには必ず休憩が必要であり、仕事がプライベートを侵食すれば、当然ながらストレスは激増します。

筆者の鈴木祐氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

休日仕事のストレスは本人でも気づけない

 が、さらに問題なのは、プライベートで仕事のことを「考えただけ」でも私たちの幸福度が激減してしまう点です。

 イギリスで行われたワークライフバランスの研究を見てみましょう。チームは金融関係の仕事をするビジネスマンに「普段からどれくらい仕事をプライベートに持ち込んでいるか?」を尋ねた後、専用の計測器でストレスを記録するように指示しました。

 その後、2カ月にわたってデータを集めて浮かび上がったのが次の事実です。

・休日や退社後に少しでも仕事について考えた人は有意にストレスレベルが増える
・仕事について考えたストレスは運動やマッサージなどの対策では軽減できない
・大半の人は、体にはストレス反応が出ているにも関わらず、「私はストレスを感じていない」と回答した

 一番恐ろしいのは最後のポイントでしょう。たとえば日曜日に「そう言えばあの書類どうなったかな……」と少し思っただけでも、あなたは自分のストレスに気づけないまま心身を削り取られてしまうのです。

 本人の性格の問題も大きいため、一概には言えないところではありますが、仕事を選ぶにあたっては、少なくとも「休日に上司が普通に連絡してくる会社」や「休暇中の仕事が当たり前な文化を持つ企業」は避けるべきでしょう。

 

■ 鈴木 祐(すずき・ゆう)
 新進気鋭のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。著書に『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。

鈴木氏の著書:
科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方

鈴木 祐

参考記事

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新進気鋭のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。
10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。
著書に『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。