「通勤時間が長い人」は太って離婚しやすくなる

あなたの「適職」はどこにある?

 キャリアの多様化が進み、終身雇用も崩壊した現代では、転職を考えている人も増えているだろう。職を選ぶにあたっては、仕事内容はもちろんのこと、オフィスの環境や人間関係など、考慮すべき点は無数にある。

 発売後1週間足らずで5万部突破が決まった話題書『科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方』の著者で、10万本の科学論文を読破してきたサイエンスライター・鈴木祐氏は、「職場選びの際には、労働時間・通勤時間などの『時間』がもたらす影響を必ず考慮すべき」と言う。一体どういうことか、鈴木氏に解説してもらった。

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週3のシフトワークで体内時計が破壊される

 組織行動学者のジェフリー・フェファーが手がけた大規模な研究によると、「従業員に悪影響を及ぼす労働条件」として「時間の乱れ」が挙げられます[1]

「時間の乱れ」は、働く時間の混乱が原因で健康リスクが増大するパターンです。やたらと労働時間が長かったり、出勤時間がコロコロ変わったり、プライベートを過ごす時間がなかったりと、労働のタイミングに問題がある状態を指します。

 さらに、「時間の乱れ」は次のサブカテゴリに分かれます。

・シフトワーク
・長時間通勤
・長時間労働
・ワークライフバランスの崩壊

 いずれも心身には悪影響がありますが、まず考慮しておきたいのが「シフトワーク」です。これは、不特定なタイミングで深夜や早朝に働かねばならない仕事のこと。2万人の労働者を調べた2014年のメタ分析によれば、9時~5時で働く人と比べた場合、週に3回以上のペースでシフトワークを行う人は糖尿病の発症リスクが42%上がり、コレステロールや血圧も激増していました[2]

 また別の研究では、年に50日以上のシフトワークを続けた人は、脳機能のスコアが大きく低下しており、この数値を年齢に換算すると、同年代の人に比べて平均で6.5歳ほど脳が衰えた計算になります[3]

 かくもシフトワークが体に悪いのは、「体内時計のリズムを破壊するから」です。私たちの体は、日の入りとともに睡眠をうながすホルモンを分泌し、適切に体を休めてコンディションを調整するように設計されています。にもかかわらずシフトワークで人体のリズムを乱すと、睡眠の質が下がり、メンタルと体の両方に甚大な悪影響を及ぼすのです。

 シフトワークは社会のインフラに関わる職種が多く、その意味で社会的に貢献度の高い働き方ではあるものの、一方では人体に避けがたいダメージを与えるのも事実です。仕事を選ぶときには、必ず考慮すべきポイントといえるでしょう。

[1] Joel Goh, Jeffrey Pfeffer, Stefanos A. Zenios (2015) The Relationship Between Workplace Stressors and Mortality and Health Costs in the United States
[2] Guadi M, Marcheselli L, Balduzzi S, Magnani D, Di Lorenzo R (2016) The impact of shift work on the psychological and physical health of nurses in a general hospital: a comparison between rotating night shifts and day shifts
[3] Jean-Claude Marquie et al. (2013) Chronic effects of shift work on cognition: Findings from the VISAT longitudinal study

通勤時間が長いと太って離婚しやすくなる

 長時間の通勤が好きな人はいないでしょう。すし詰めの電車にゆられて過ごす時間はストレス以外の何ものでもありませんし、ここ数年のデータも「通勤時間が長くなるほど人生が不幸になる」との結果を示しています。

 有名なのは経済学者のブルーノ・フライが発表した論文で、1985~2003年にかけて行われた幸福度調査を分析し、「長時間の通勤がもたらすストレスの高さは年収が40%アップしないと割に合わない」との結論を導き出しています[4]

 たとえば、長時間の通勤に耐えながら年収400万円をもらう人がいた場合、その苦痛は年収が560万円に上がらないと埋め合わせることができない、というわけです。

 同様にカリフォルニア大学が10万人の健康データを分析した調査では、通勤時間が長い人ほど肥満が多い上に、離婚率まで高いとの傾向も出ています[5]。長時間通勤は、あなたの体型と結婚生活にまでダメージを及ぼすわけです。

 このような結果が出たのは、長時間の通勤には、私たちのライフスタイルをむしばむ作用があるからです。ブラウン大学の研究チームは、通勤時間が1分増えるごとに次のような健康リスクが起きると推定しています[6]

・運動時間が0.0257分ずつ減る
・睡眠時間は0.2205分のペースで少なくなる

 日本人の通勤時間の平均は往復1時間17分なので、おおまかに換算すると年間で約63時間も睡眠時間が消えていることになります。海外と日本では通勤事情が異なるものの、東京の通勤ラッシュは世界的に悪名が高いことを考えれば、事態はより深刻なのかもしれません。

 いったん遠い会社に勤めてしまったら、そう簡単に引っ越すわけにもいかないため、これもまた必ずチェックしておきたいポイントです。

[4] Bruno S. Frey (2004) Stress That Doesn't Pay: The Commuting Paradox
[5] Javier Lopez-Zetina (2006) The link between obesity and the built environment. Evidence from an ecological analysis of obesity and vehicle miles of travel in California
[6] Thomas James Christian (2009) Opportunity Costs Surrounding Exercise and Dietary Behaviors: Quantifying Trade-offs Between Commuting Time and Health-Related Activities

筆者の鈴木祐氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

週41時間以上の労働で脳卒中のリスクが上がる

 働きすぎが体に悪いのはもはや常識。いまや「過労死」も世界に通じる言葉になったように、働きすぎのストレスがあなたの幸福を破壊するのは間違いありません。具体的な数値を挙げると、長時間労働と健康リスクの関係は次のようになります。

・週の労働時間が40時間までなら目立った問題は出ない
・週の労働時間が41~48時間になると脳卒中が起きるリスクが10%高まる
・週の労働時間が55時間を超すと、脳卒中リスクが33%、心疾患リスクが13%、糖尿病リスクが30%高まる

 以上の知見は、ヨーロッパ、アメリカ、日本などから約22万人分のデータを集め、およそ8年にわたる追跡調査を行って明らかになった事実です[7]

 データの傾向は世界中で一致しており、週の労働が40時間を過ぎたあたりから体が壊れ始め、週55時間を超えると確実にあなたの心身は崩壊に向かい始めます。厚労省は週80時間を超す残業を「過労死ライン」に定めていますが、この基準よりもかなり下の段階から早期死亡リスクは高まるようです。

 この問題ばかりは、いかに普段からストレス対策をしていようが、防ぎようがありません。職選びの際には、くれぐれもご注意ください。

[7] Mika Kivimäki et al. (2014) Long working hours, socioeconomic status, and the risk of incident type diabetes: a meta-analysis of published and unpublished data from 222 120 individuals

 

■ 鈴木 祐(すずき・ゆう)
 新進気鋭のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。著書に『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。

鈴木氏の著書:
科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方

鈴木 祐

参考記事

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新進気鋭のサイエンスライター。1976年生まれ、慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。
10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演なども行っている。
著書に『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)他多数。