6月に始まった「逃亡犯条例」改正案に反対するデモに端を発する香港の反政府抗議活動は、約6カ月経っても収拾の見込みが見えない状況が続いています。

区議会選挙結果への反応が鈍い香港政府

11月24日には区議会議員選挙が実施され、過去に例を見ないほどの高い投票率である71.23%(前回の2015年は47.01%)を記録するなど、いかに世論の関心が高かったかをうかがわせます。

投票の結果は、民主派が263議席増の388議席を獲得して大躍進しました。これは、全議席の85.8%に当たります。一方で、親中派は240議席も減らして59議席の獲得にとどまりました。民意は、香港政府の対応にNoを突きつけたと言えるでしょう。マジョリティは、平和で自由な生活と民主的な統治を求めていると筆者は感じます。

ただ、香港政府の対応は大変鈍く、お粗末でさえあります。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、「耳を傾ける」と発言しましたが、民主派の主張を聞き入れる素振りを見せていません。香港社会が分断されている状況を改善する機会をうまく活かさなければ、事態がさらに長期化・泥沼化することを回避できないでしょう。

香港取引所でアリババが上場を果たす

一方で、資本市場ではとても大きな動きがありました。電子商取引では中国最大手のアリババ・グループ・ホールディング社(アリババ)が、11月26日に香港取引所に上場を果たしたのです。アリババは、既にニューヨーク証券取引所に上場をしていますので、セカンダリー上場ということになります。

具体的には、アリババは新株5億株を発行し、1株当たり176香港ドルで公募しました。応札がどれくらいになるか注目されましたが、個人投資家向けでは応募倍率は42.4倍にも達するほどの人気を博したようです。それほどの「応募超過」に、当初1250万株としていた個人投資家向け発行予定株数を5000万株に引き上げたようです。

香港情勢を考慮して上場自体を懸念する声すらありましたが、終わってみれば、今回の売り出しによりアリババは約876億香港ドル(約1兆2200億円)もの資金を集めました。香港取引所での新株発行としては、2010年以来最大の規模でした。

なお、アリババは2014年に香港取引所への上場とニューヨーク証券取引所への上場を検討していました。しかし、多くの中国民間企業に見られるように株式所有の構造が特殊であるため、ガバナンス(企業統治)への懸念が払拭できないことを理由に、香港当局がアリババの上場を認可しませんでした。

そのため、最終的にはニューヨーク市場への上場を選択せざるを得ませんでしたが、この敗北は香港取引所にとっては苦渋の記憶です。それから5年。この間に香港取引所は、株式の新規公開ではニューヨーク証券取引所との激しい首位争いを繰り広げ、いわゆる種類株上場に関する制限も撤廃するなどして、環境を整えてきました。

国際金融での香港の存在感は健在

前回の記事にも書きましたが、中国企業にとっては、香港上場は資金調達面での懐の深さと中国本土の投資家による売買が容易になるという大きなメリットがあります。これは、上海や深センでは得られないメリットなのです。

アリババにとっても、5年前に果たせなかった香港上場は悲願でした。その香港上場の希望をついに果たしたのです。実際に、取引開始時の上場セレモニーでは、アリババの幹部が香港政府の高官らと居並び、アリババの張勇(ダニエル・チャン)CEOは、「われわれは香港に戻った」と述べています。

香港取引所の李小加(チャールズ・リー)CEOは、「上場を待つ列はまだ非常に長い」と強気で、「巨額の資金を必要とし、大規模な拡張戦略を描くビジネスプランを持つ企業は多く、現在懸念されているほど影響はない」と発言。香港政府、中国政府にとっても、今回の上場を成功させたことは溜飲を下げる「勝利」と評価していると思います。

アリババ上場は、香港情勢の混乱の影響から厳しい逆風に晒されてきた今年の香港取引所をはじめ、香港金融界にとっては大きな成功です。そして、今回の上場は、香港がこれからも国際金融の世界で高度で優位な金融機能を果たす市場であることを印象付けたと言えるでしょう。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一