公正証書遺言を作るには、公証役場に出向くか、公証人に自宅や病院まで来てもらう必要がありました。2025年10月1日からは公正証書の手続きがデジタル化され、条件を満たせばウェブ会議で公正証書遺言を作れるようになっています。
富裕層や法人のお客さまの資産運用のご相談を受けていた経験からお伝えすると、資産をどう引き継ぐかは、手続きの方法とかかる費用を先に並べて、早めに確かめておきたいテーマです。ここでは、公正証書遺言をウェブ会議で作るための条件と流れを整理します。
あわせて、改正後の公証人手数料令で遺産の額ごとの手数料を試算し、法務局の自筆証書遺言書保管制度とも比べます。
※手数料は、公証人手数料令の別表(目的の価額ごとの額)と遺言の加算1万3000円をもとに計算しています。遺産4200万円は、国税庁「No.4152 相続税の計算」の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)で、法定相続人が2人の場合の額です。
1. 公正証書遺言はウェブ会議で作れる?2025年10月1日から、遺言者が希望し公証人が相当と認めれば、公証役場に行かずに作成できる
法務省「公正証書に係る一連の手続のデジタル化について」によると、公証人法の改正により、書面と対面を前提としていた公正証書の手続きが2025年10月1日からデジタル化されました。公正証書には遺言も含まれます。変わった点は次の4つです。
- 【嘱託(申請)】公証役場に出向かず、マイナンバーカードなどで電子署名をしてメールで嘱託できる
- 【陳述・内容の確認】嘱託人が希望し、公証人が相当と認めるときは、ウェブ会議を利用できる
- 【原本の作成・保存】公正証書は原則として電子データで作成・保存し、押印は不要になる
- 【正本・謄本の受け取り】電子データでも受け取れる。書面での交付も引き続き選べる
日本公証人連合会「2 遺言」でも、遺言者が公証役場に行かず、ウェブ会議で公証人と面談する方法で公正証書遺言を作成できる場合があるとしています。ただし、本人確認や遺言の意思の確認に支障がないと公証人が認めることが前提です。
2. 公正証書遺言をウェブ会議で作る条件は?申出があること・ほかの嘱託人に異議がないこと・公証人が相当と認めることの3つで、パソコンと電子サインの機器も必要
日本公証人連合会「公正証書の作成手続がデジタル化されます!」では、ウェブ会議で作る方式を「リモート方式」と呼び、利用の要件を次の3つとしています。
- 【1】嘱託人または代理人から、リモート方式を利用したいという申出があること
- 【2】嘱託人・代理人のリモート参加について、ほかの嘱託人に異議がないこと
- 【3】公証人が、嘱託人・代理人のリモート参加を相当と認めること
相当かどうかは、リモート参加の必要性と許容性(リモートでの本人確認、真意の確認、判断能力の確認のしやすさなど)を総合的に考えて判断されます。法務省の資料では、全国で統一的な運用となるよう、通達で基準を定めています。
リモートで参加するには、次の機器などが必要です。
- 【パソコン】ウェブ会議に参加できるもの。スマートフォンとタブレットは使えない
- 【電子サインの機器】タッチ入力ができるディスプレイ、またはペンタブレットと電子ペン
- 【メールアドレス】そのパソコンで使えるもの(ウェブ会議の招待と電子サインの依頼を受け取る)
法務省の「指定公証人の一覧」(2026年11月2日現在)では、全国の法務局・地方法務局の管内で、公正証書の作成について指定を受けた公証人がいます。ただし、ウェブ会議で作れるかどうかは事案ごとに公証人が判断するため、作成を頼む公証役場で前もって確かめておくと安心です。