中国の7-9月期実質国内総生産(GDP)成長率は+6.0%と、当社予想の通りとなり、市場予想の+6.1%をわずかに下回った。世界第二位の経済大国である中国の経済成長は、大規模な景気刺激策が打ち出されない中にありながらも、比較的良好さを維持している。当局は、十分な流動性を確保するための措置を講じる一方、既に高い不動産価格が更に高騰する事態を回避するため、大規模な刺激策は控えている。

対照的に、世界の他の主要中央銀行は、自国経済への下方圧力の増大を緩和するため、新たな金融緩和策に着手している。欧州中央銀行(ECB)は11月に新たな債券購入プログラム(月額200億ユーロ)を開始する。また、米連邦準備制度理事会(FRB)は、米国経済の減速懸念を抑えるため、7月と9月に政策金利を引き下げたのに続き、10月にはさらに今年3度目の利下げに踏み切った。

景気回復の表れ

中国の実体経済は、活気ある国内消費支出に支えられ、外部ショックに対する抵抗力を強めている。実際、9月の鉱工業生産の伸び率は前年同月比+5.8%となり、市場予想を上回るとともに8月の+4.4%から上昇が加速した。コンピューターおよび電子機器、電気機械の生産が大きく伸び、自動車生産の落ち込みを相殺した。

9月の自動車販売台数は前年同月比-2.2%であったが、前月の-8.1%減からは改善している。9月の小売売上高を見ると、市場予想通り前年同月比+7.8%となり、伸び率は8月の+7.5%を上回った。

生産性の伸びが鈍化する中で、7-9月期の実質GDP成長率は過去最低を記録したが(四半期GDP統計は1992年から算出開始)が、そもそも経済規模は1992年当初の約33倍となっている点を忘れてはならない。世界銀行の統計によると、中国の経済規模は1992年の4,269億米ドルに対して2018年は14.1兆米ドルに達している。

当社では、現在の経済成長率の減速は、過去20年間に「ホッケーのスティック」のような急カーブの上昇が見られた後の、安定化局面を示すものと見ているが、経済に下方圧力が働いていることもまた事実である。それでも現在、景気が底を打つ兆候も表れている。最新の李克強指数(注)やOECD景気先行指標などのデータは、中国経済の回復または安定化を示している。

(注)中国経済の実体を示す指標で「電力消費量」、「鉄道輸送量」、「銀行融資」の3指標から算出される。

緩和を緩める動き

一方、当局による緩和策は、積極的な金融緩和や信用刺激策ではなく、主に信用の伸びに焦点を当てている。当局は、10月に市場の期待に反して貸出金利を据え置き、より中立的な金融政策スタンスを採用する可能性が高いというシグナルを市場に送った。当局は、金融政策の市場への伝達には自信を抱いており、将来の必要性に備えて政策手段を残しておきたいように思われる。

市場は、9月の小幅な1年物最優遇貸出金利(LPR)引き下げに続き、1年物および5年物のLPR引き下げを期待していたが、金利は据え置かれている。結局のところ、中国人民銀行からの銀行の借入コストの尺度であり、LPR設定の際に参照される預金基準金利または中期貸出ファシリティ金利の引き下げがなければ、LPRが低下する余地は限られるということだろう。

明らかなのは、当局は、インフレ率上昇と景気減速の同時進行を受けて、政策のジレンマに直面しているため、金利操作よりも、金融機関に対する窓口規制などの量的手法を選好しているということだ。9月の消費者物価指数(CPI)は、豚肉価格の69%の急上昇により、前年同月比+3.0%に加速している。

10-12月期に入り、当社では、中国当局の継続的な景気支援策と米中通商交渉の改善に期待している。中国経済は今後も6.0〜6.5%の目標範囲に維持される一方、製造業と労働市場からの下方圧力が現れ始めることが見込まれる。2020年の経済成長は、投資と貿易が伸び悩み、この範囲を下回る可能性がある。IMFは、中国の経済成長率が今年の+6.1%から+5.8%に低下すると予想している。