親の介護を一人で担ってきたのに、遺産はきょうだいで等分にと言われる場面があります。そこで関わる民法の「寄与分」ですが、最高裁判所「令和7年 司法統計年報(家事編)」では、家庭裁判所の遺産分割8399件のうち寄与分の定めがあったのは119件、約70件に1件でした。

寄与分は、介護をしたというだけで決まるものではありません。条文が求める条件があり、話し合いでまとまらなければ家庭裁判所が決めます。

ここでは、民法の条文と最高裁判所「司法統計年報(家事編)」で、寄与分が認められる条件と、家庭裁判所で寄与分が定められた件数を確かめます。介護報酬を目安にした計算の考え方で、遺産の取り分がどう変わるかも試算します。あわせて、相続人ではない子の配偶者などが使える「特別寄与料」の期限も確かめます。

※件数は、最高裁判所「令和7年 司法統計年報(家事編)」の、家庭裁判所の遺産分割事件のうち認容・調停成立となった8399件をもとにしています。

1. 親の介護をした子は遺産を多くもらえる?寄与分は「特別の寄与」が要件で、親子として通常期待される世話では認められにくい

民法904条の2は、相続人のうち、親(亡くなった人)の財産の維持や増加に「特別の寄与」をした人に、法定相続分とは別に寄与分を認めています。条文の主な中身は次のとおりです。

  • 【対象】相続人のうち、事業の手伝い、財産の提供、療養看護などで、亡くなった人の財産の維持または増加に特別の寄与をした人
  • 【決め方】相続人どうしの話し合い(協議)で決める。まとまらないときは家庭裁判所が、寄与の時期・方法・程度、遺産の額その他一切の事情を考えて決める
  • 【上限】遺産の額から遺贈の額を引いた残りを超えられない

ポイントは、介護の大変さではなく、介護によって親の財産が維持されたか、増えたかで見ることです。たとえば、介護サービスを使う代わりに子が介護をして、その費用が親の財産から出ずに済んだ場合などが考えられます。

一方、民法は親子などの直系血族に、互いに扶養する義務を定めています(877条)。このため、親子の間で通常期待される程度の世話は「特別の寄与」にあたりにくいとされています。

2. 寄与分は家庭裁判所でどのくらい定められている?遺産分割の約70件に1件で、多くは遺産の30%以下

寄与分の割合別件数1/3

寄与分の割合別件数

出所:最高裁判所「令和7年 司法統計年報(家事編)」をもとにLIMO編集部作成

最高裁判所「令和7年 司法統計年報(家事編)」で、家庭裁判所の遺産分割事件のうち認容・調停成立となった8399件を見ると、寄与分の定めがあったのは119件でした。約70件に1件の割合です。

  • 【寄与分の定めがあった事件】119件(遺産分割の認容・調停成立8399件の約1.4%)
  • 【寄与分が認められた人】子97件、配偶者8件、その他14件
  • 【遺産に占める寄与分の割合】10%以下43件、20%以下25件、30%以下10件、50%以下8件、50%超6件、不詳27件

割合が分かる92件のうち、遺産の30%以下が78件です。寄与分が定められても、遺産の大部分が介護した人に移るケースは多くありません。

なお、この件数は家庭裁判所の手続きで決まったものだけです。相続人どうしの話し合いで、介護した人の取り分を多くしてまとまった相続は含まれていません。

3. 寄与分を介護の値段で見るといくら?介護報酬なら毎日1回の身体介護で1年に約141万円(計算の一つの考え方)

介護による寄与分の額を考えるときの一つの考え方に、介護の仕事に支払われる介護報酬を目安にする方法があります。厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会の資料(2026年6月)によると、訪問介護の身体介護の基本の報酬は次のとおりです。

  • 【身体介護 30分以上1時間未満】387単位(1単位10円なら1回3870円)
  • 【毎日1回、1年間】約141万円

ただし、家庭裁判所は、寄与の時期・方法・程度や遺産の額など一切の事情を考えて寄与分を決めます。介護報酬で計算した額が、そのまま寄与分として認められるとは限りません。

※試算の前提:1単位を10円(地域による上乗せがない場合)として計算。加算や、生活援助などほかのサービスは含めていません。

4. 寄与分が認められると遺産の取り分はいくら変わる?子3人なら介護報酬1年分で約94万円増える

子3人の遺産取り分の比較(試算)2/3

子3人の遺産取り分の比較(試算)

出所:e-Gov法令検索「民法」、厚生労働省「訪問介護」(社会保障審議会介護給付費分科会 第259回 資料1)をもとにLIMO編集部作成

寄与分が認められると、遺産から寄与分を先に引き、残りを法定相続分で分けたうえで、介護した人に寄与分を足します。遺産5000万円を子3人で相続し、そのうち1人が介護していた場合は次のとおりです。

  • 【寄与分が認められない場合】3人とも約1667万円(法定相続分どおり)
  • 【寄与分が介護報酬の1年分(約141万円)の場合】介護した子 約1761万円(約94万円増)、ほかの子 各約1620万円
  • 【寄与分が遺産の10%(500万円)の場合】介護した子 2000万円(約333万円増)、ほかの子 各1500万円

介護した子の取り分の増え方は、子3人なら寄与分の3分の2、子2人なら2分の1です。遺産の10%にあたる500万円は、介護報酬で見ると約3.5年分です。

※試算の前提:遺産5000万円は、司法統計で最も多い遺産の価額の区分(1000万円超5000万円以下、42.3%)の上限。親の配偶者はすでに亡くなっており、相続人は子3人。遺言・遺贈や生前贈与(特別受益)はないものとしています。

5. 親の介護をした子の配偶者は請求できる?2019年7月からの特別寄与料で、家庭裁判所に求められるのは知った時から6か月・相続開始から1年まで

特別寄与料の請求期限3/3

特別寄与料の請求期限

出所:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」をもとにLIMO編集部作成

寄与分を主張できるのは相続人だけです。子の配偶者など相続人ではない親族が親の介護をした場合のために、2019年7月1日から「特別寄与料」の制度が始まりました(民法1050条)。

  • 【請求できる人】亡くなった人の親族で、無償で療養看護などをして、財産の維持または増加に特別の寄与をした人(相続人などを除く)
  • 【請求する相手】相続人。各相続人は法定相続分に応じて負担する
  • 【家庭裁判所に求められる期限】相続の開始と相続人を知った時から6か月以内、かつ相続開始の時から1年以内
  • 【対象の相続】2019年7月1日以降に開始した相続

たとえば、子の配偶者の特別寄与料が介護報酬1年分の約141万円と決まれば、子3人がそれぞれ約47万円を負担します。話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所の「特別の寄与に関する処分調停」を使えます。期限が短いので、相続が始まったら早めに動くことになります。

6. 寄与分の主張に期限はある?相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、原則として主張できない

民法904条の3により、相続開始の時から10年を過ぎてから行う遺産分割では、原則として寄与分を主張できません。生前贈与(特別受益)の考慮も同じです。

  • 【原則】相続開始から10年を過ぎた遺産分割は、法定相続分(または遺言で指定された相続分)で分ける
  • 【例外】10年を過ぎる前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求していた場合など

遺産分割の話し合いが長引いているときは、寄与分を主張したい人にとって、この10年が一つの区切りになります。

7. 【検証】試算から見えること:寄与分は「介護の大変さ」ではなく「財産への影響」で決まる

今回の確認からは、3つのことが読み取れます。1つは、寄与分が家庭裁判所で定められるのは遺産分割の約70件に1件と、多くはないことです。条文が求めるのは、親の財産の維持や増加への「特別の寄与」だからです。

2つ目は、寄与分が認められても、取り分の差は寄与分の額ほどには開かないことです。子3人で寄与分が約141万円なら、介護した子の増え方は約94万円で、ほかの子はそれぞれ約47万円減ります。

3つ目は、介護報酬で計算した額は、あくまで目安の一つだということです。毎日1回の身体介護を1年続けた場合の約141万円も、家庭裁判所が事情を考えて増やしたり減らしたりすることがあります。

寄与分を話し合うときは、介護の内容や期間、介護サービスの利用を抑えられた分など、親の財産への影響を示せる材料が手がかりになります。介護をした人と、しなかった人のどちらが正しいかを決める手続きではない点も押さえておきたいところです。

相続人どうしの話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所の「寄与分を定める処分調停」を使えます。申立てには、遺産分割の調停や審判とあわせて進めるなどの決まりがあるため、早い段階で弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。

8. まとめ

親の介護をした子の遺産は、民法の寄与分が認められれば多くなります。ただし、寄与分は「特別の寄与」が条件で、家庭裁判所で定められたのは遺産分割の約70件に1件でした。子3人で寄与分が介護報酬1年分の約141万円なら、介護した子の取り分は約94万円増える計算です。

子の配偶者などが介護した場合は特別寄与料の制度があり、家庭裁判所に求められるのは知った時から6か月・相続開始から1年までです。話し合いが難しいときは、家庭裁判所の調停や、弁護士などの専門家への相談を考えてみましょう。

※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。実際の寄与分や特別寄与料の額は、家庭裁判所が寄与の時期・方法・程度、遺産の額その他一切の事情を考えて定めるもので、試算の額が認められるとは限りません。具体的な手続きは、家庭裁判所や弁護士などの専門家にご確認ください。

参考資料