本記事の3つのポイント
- 5G通信の普及を前に、基地局用アンテナ市場が活況を呈している。成長市場を前にコネクター最大手のTEコネクティビティも取り組みを強化
- アンテナ接続に対する技術ニーズは大きく、①高速設計②コンパクト設計③堅牢性の3つがポイント
- 日本法人のタイコ エレクトロニクス ジャパンでは、5G時代のアンテナの進化を受けて、コネクターのみならず、周辺部材の進化も精力的に推進
第5世代移動通信システム(5G)の到来で活性化する市場がある。データセンターと連動する基地局用のアンテナ市場だ。大容量/高速伝送を背景に、高付加価値市場に進化する。
当然、アンテナ内部接続用のコネクターやケーブル、アセンブリー部品群も付加価値が引き上げられ、ビッグ市場を形成する。この市場動向を受け、接続部品コネクター最大手のTEコネクティビティ(本社スイス、日本法人はタイコ エレクトロニクス ジャパン合同会社)も5G対応のアンテナ市場攻略に向けて動き出した。
5Gアンテナ市場
スマートフォンなどモバイル情報機器の加入者数は、世界規模で2017年に78億人。これが23年には89億人に達する。このうち、5Gの通信環境を享受できる加入者は10億人強で、全データ通信量の20%を占めることになる。
地域別では北東アジア域を筆頭に、北米、西欧州が世界市場をリード。とりわけ北東アジア域は、加入者の34%が5Gユーザーになる見通しだ。
この市場成長に対応するため、5Gを焦点とするインフラが、21~22年にかけて顕著に動き出すと推定される。その核となるアンテナが、MIMOアンテナRFシステムである。MIMOとは大規模複数入出力の意味。つまり、1つのアンテナユニット内に、64~128にも及ぶアンテナエレメントを搭載。5Gにおける通信容量の大容量化に応える。
市場はすべてのアンテナがMIMOに代わるのではなく、既存アンテナにMIMOタイプが追加されるかたちで市場規模を拡大する。
MIMOタイプを周波数帯で見ると、6GHz以下(サブ6GHz)と6GHz以上に分かれる。後者はミリ波を活用する。技術的にはミリ波/6GHz以上に注目が集まるが、実市場はサブ6GHzが中心となる。市場構成はサブ6GHzが65%を占める。このため、タイコエレクトロニクスもまずは「サブ6GHz市場を徹底攻略していく」(データアンドデバイスアドバンスドテクノロジー本部長の白井浩史氏)方針である。
アンテナ接続へのニーズ
アンテナ接続へのニーズは大きく3ポイントある。この3ポイントをより高いパフォーマンスで同時に満足させるとともに、コスト抑制も重要な課題となる。
①高速設計
高速設計は5G対応にかかわらず、既存アンテナにも要求される普遍的なニーズ。約30年前のアナログ伝送時代と比較すると、5G突入で伝送速度は10万倍に高速化されたことになる。今後もこのトレンドは継続されるものであり、永遠の開発テーマとして取り組んでいく必要がある。
②コンパクト設計
データセンターでもそうだが、伝送信号のデジタル処理が端末に近いところ、いわゆるアンテナヘッドで処理されるようになってきた。このためコンパクトで、高性能な接続が不可欠になってきている。もちろん、アンテナのみならず、コネクターやケーブル、アセンブリー技術などにもコンパクト設計が要求される。
③堅牢性を持つ設計
今後をにらむと、電子機器は屋内のみならず、屋外での設置が増加する。アンテナも堅牢性を確保し、現状の数倍の信頼性を獲得する必要がある。また、モビリティーへの搭載を考慮すると、堅牢性に加え、耐振動性や温度対策も付加される。
アクティブアンテナシステムの台頭
既存のアンテナシステムは、リモートラジオユニット(RRU)。通信信号は基地局サーバーから光ファイバーでRRU内のリモートラジオヘッドにデジタル送信。その先は、RFのアナログ送信でアンテナに送信される。
5Gの大容量化を迎えると、MIMOの複数入出力数をさらにスケールアップした、マッシブMIMOが導入される。外観はRRUと同じだが、内部にデジタル処理システムが内蔵されている。従来はアンテナから離れたところに設置されていたが、複雑で大容量の5G信号を処理するため、アンテナヘッド近くに内蔵したかたちとなる。このマッシブMIMOも含め、様々な機能をアンテナユニットに一体化させた、アクティブアンテナシステム(AAS)が5G時代の主流アンテナとなる。
AASではコンパクト設計のほかに、EMI(電磁妨害)干渉シールドや放熱性、あるいは多基板間の同時接続など、様々な技術課題をクリアしなければならない。
タイコエレクトロニクスの取り組み
タイコ エレクトロニクス ジャパン合同会社では、5G時代のアンテナの進化を受けて、コネクターのみならず、周辺部材の進化も精力的に推進中である。
同社は5G対応AASを焦点に、アンテナと無線のRF基板対基板接続コネクターおよびRF基板対フィルター接続コネクターを市場に投入。両コネクターとも、一体型圧縮設計により、使い勝手と低コスト化を徹底追求している。
ハイスピードケーブルも、内部スイッチング速度と連動させ、現状の28Gbpsから56Gbpsへと移行中。22~23年ごろには112Gbpsへ、さらにその3~5年先には800Gbpsの領域に達するロードマップを描いている。「112Gbpsまでは56Gbpsの技術延長で対応可能。製品的には56Gbps品は市場投入しているが、112Gbps品はサンプル供給」(白井氏)で顧客ニーズに応えている。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司
まとめにかえて
半導体・電子部品市場にとって、大きな成長機会となる5G通信。新たな需要が生まれるのはスマートフォンなどの携帯端末だけでなく、今回取り上げている基地局用途も有望市場の1つです。5G通信は高速通信や多接続性が特徴である一方、直進性の強さなどの従来の周波数帯に比べて弱点もあり、これを補完する役割として小規模基地局を多く設置する「スモールセル」や「マクロセル」が必要とされており、これが部品業界にとって大きな成長機会とも言われています。TEコネクティビティの取り組みもこうした流れに基づくものといえます。
電子デバイス産業新聞