4. IR資料から読み解く「成長加速」地域
アシックスは個人投資家向けの情報発信にも力を入れており、「ASICS IR BOOK」で会社の歴史や地域戦略を説明しています。
沿革を見ると、1950年に最初に発売したのはバスケットボールシューズでした。2005年からは海外売上高比率が50%を超えています。業績の推移では、2020年に営業赤字となった後、2021年以降は売上と利益が伸び続けており、資料には「更なる成長に向けてアシックスは止まらない」という見出しが付いています。
同社は地域を「成長加速」と「安定成長」に分けています。売上が最も大きい欧州と、オセアニアは「安定成長」で、「成長加速」にはアシックスジャパン、北米、中華圏、東南・南アジアが入っています。
2025年度の地域別営業利益率では、アシックスジャパンが30.0%と最も高く、北米は売上高1,411億円に対して11.3%と最も低い水準でした。泉田氏は北米について、マーケットは大きいものの、ナイキもあればランニングシューズでは「ブルックス」もあるとして、競争の厳しさを挙げています。
東南・南アジアの2025年度の売上高は497億円です。同年度の連結売上高8,109億円に対して約6%にあたり、まだ小さな地域です。
泉田氏は、靴の形という面からも東南アジアとの相性に触れました。
「足の形ってアジア人とヨーロッパの人が全然違ってて、日本人って横に広いじゃん。ナイキのスパイクとかだと結構キツイんだよね。やっぱりアシックスの方が幅広い」
インタビュワーは、日本人の足に合うなら東南アジアとも相性がよさそうだと受け止めていました。会社は全国8都市で「体験型IR説明会」を開くなど、個人投資家をファンにしたい姿勢も見せています。
5. まとめ
アシックスは、売上の約8割を海外で稼ぎ、利益の約半分に相当する額をランニングシューズが生む会社です。泉田氏は市場の広がりを人の数より生活水準で見ており、会社も一人当たりGDP5,000ドルを目安とする仮説のもとで東南アジアを成長ドライバーに挙げています。
投資判断に活かすなら、東南・南アジアの売上が全体に占める比率を追うのが手がかりになると考えられます。2025年度は497億円で全体の約6%でした。会社の仮説どおり一人当たりGDP5,000ドルを超える国が増え、東南アジア6か国のスポーツウェア市場でのシェア2.1%が伸び始めれば、この比率が上がっていくと考えられます。比率が横ばいのままなら、成長はまだ欧州・北米などの既存市場が支えている段階と読めます。
一方で、この記事では東南アジアの国ごとの売上や、競合ブランドの現地での動きまでは扱っていません。5,000ドルという目安は会社の仮説であり、実際の購買行動がそのとおりになる保証はありません。また、ランニングシューズは技術やトレンドの変化でシェアが入れ替わりやすく、連結営業利益の約半分に相当する額をこのカテゴリーが稼ぐ構造は、強みであると同時に集中のリスクでもあります。
参考資料
- 株式会社アシックス「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月14日)
- 株式会社アシックス「2026年12月期第2四半期(中間期)決算説明資料」(2026年8月14日)
- 株式会社アシックス「第14回インベストメントデイ 東南アジア戦略」(2026年4月13日)
- 株式会社アシックス「ASICS IR BOOK 2026」(2026年3月)
- 株式会社アシックス「第140回 個人投資家向けIRセミナー」(2026年8月29日開催)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
各資料の入手先: 株式会社アシックス IRライブラリ
※リンクは記事作成時点のものです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日