仕事中のケガや病気で働けなくなったとき、「休業補償給付で給料の8割が出る」と聞いて、少し安心した人もいるかもしれません。ただ、この8割は休業4日目からの話で、最初の3日間は労災保険からは出ません。しかも、業務災害か通勤災害かによって、その3日間の扱いも変わります。
労災に絡む精神障害の請求も増えています。厚生労働省が2026年7月15日に公表した令和7年度の状況では、精神障害の請求は4958件で、前年度より1178件増えました。長く休むことになった場合の期間や、うつ病などでの対象のなりかたも、あらかじめ押さえておきたい点です。
本記事では、厚生労働省と労働局の公式情報をもとに、休業補償給付の基本、最初の3日間の扱い、給付が続く期間、休業が長引いたときの累計額の目安、精神障害の認定の考え方までを整理します。なお、労災に当たるかどうかや給付の可否は、所轄の労働基準監督署が個別に判断します。
1. 休業補償給付は「休業4日目から」給付基礎日額の80%が目安
厚生労働省は、休業補償給付を「業務上の負傷や疾病による療養のため労働できず、賃金を受けていない」場合に、休業4日目から支給するとしています。休業1日につき、給付基礎日額の60%の保険給付に、休業特別支給金20%が加わり、合計で80%になります。
給付基礎日額は、原則として事故発生日の直前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った額です。賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は、含まれません。
厚生労働省の計算例では、月給20万円で直前3か月の暦日数が92日の場合、給付基礎日額は約6522円です。給付と特別支給金の合計は、1日あたり5217円です。端数は、給付基礎日額は1円未満を切り上げ、給付額の計算では1円未満を切り捨てます。
日給や時給で働いている人には、最低保障の考え方もあります。福井労働局の案内では、賃金総額を実際に働いた日数で割った額の60%と、通常の計算による額を比べて、高いほうを平均賃金とする例が示されています。勤務日数が少ない月がある人は、通常の計算より有利になる場合があるため、勤め先に確認してみてください。
なお、通勤中のケガや病気の場合は「休業給付」という名前になります。金額の考え方は同じですが、後ほど見るように、最初の3日間の扱いが異なります。請求書の書き方は、労災保険「休業補償給付」の支給要件と給付基礎日額の計算方法でも整理されています。
2. 最初の3日間は労災保険から出ないが、業務災害なら会社に補償の義務がある
休業の最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、労災保険からの給付はありません。ここまでは広く知られていますが、見落とされやすいのは、その3日間の扱いが災害の種類で異なる点です。
福井労働局の案内によると、業務災害の場合は、事業主が労働基準法に基づき、待期期間中の休業について1日につき平均賃金の60%を補償する義務があります。一方、通勤災害や複数業務要因災害では、事業主に補償の責任はないとされています。
つまり、業務災害では「最初の3日間は会社が60%」「4日目から労災が80%」と、二階建ての形で補償が続きます。通勤災害では、最初の3日間は補償の主体がなく、その間の収入は空白になりかねません。
2.1 【業務災害と通勤災害での休業の補償の違い】
- 給付の名称:業務災害は「休業補償給付」、通勤災害は「休業給付」です
- 請求書の様式:業務災害は様式第8号、通勤災害は様式第16号の6です
- 最初の3日間:業務災害では事業主が平均賃金の60%を補償する義務があり、通勤災害では事業主の補償責任はありません
- 4日目以降:どちらも給付基礎日額の80%が目安です
月給30万円で直前3か月の暦日数が92日の場合、給付基礎日額は9783円です。業務災害で事業主が60%を補償すると、3日分でおよそ1万7600円です。この金額は、平均賃金を給付基礎日額と同じと仮定した目安で、実際の平均賃金の計算とは端数の扱いなどが異なる可能性があります。
事業主の補償が実際にどう支払われるかは、勤め先ごとに異なる場合があります。法令に関わる部分ですので、勤め先の担当部署と所轄の労働基準監督署に確認してください。
3. 【編集者の視点】
「休業補償は8割」という説明は正しい一方で、最初の3日間が対象外になる点は、多くの解説で軽く触れられる程度です。実際には、業務災害と通勤災害でこの3日間の性質が変わるため、自分がどちらに当たるのかを最初に確認することが、家計の見通しの出発点になります。
特に通勤災害では、3日間の収入がゼロになりうることを知っておくと、貯蓄や有給休暇の使い方を前もって考えられます。
4. 給付が続く期間は「賃金を受けない限り」。療養開始から1年6か月で扱いが変わる
厚生労働省の案内によると、休業補償給付は、業務上の負傷や疾病による療養のため労働できず、賃金を受けない期間について、休業4日目から支給されます。期間の上限が決まっているわけではなく、要件を満たす限り続きます。
ただし、療養を始めてから1年6か月が経過した時点で、負傷や疾病が治っておらず、傷病等級表の等級に当たる程度の障害が残っている場合は、傷病等級に応じた別の労災給付に切り替わります。この切替の詳細は、本記事では立ち入りません。
1年6か月を過ぎても等級に当たらない場合に、休業補償給付がどう扱われるかは、確認できた公式資料に記載がありません。療養が長引きそうな場合は、所轄の労働基準監督署に、いつ、どの給付に移るのかを早めに確認してください。
また、療養開始後1年6か月を経過した場合は、給付基礎日額に年齢階層別の最低・最高限度額が適用される、と厚生労働省は案内しています。
このため、「何か月までもらえる」という上限を前提に家計を組むのではなく、療養開始から1年6か月という節目を意識して備えるのが現実的です。節目の前後に、給付の種類や金額の見通しがどう変わるのかを、労働基準監督署に早めに聞いておくと、生活費の計画を立てやすくなります。
なお、療養の必要性や休業の期間そのものは、主治医の診断と労働基準監督署の判断によって決まります。自己判断で通院を止めたり、仕事に戻ったりすると、給付の対象から外れる場合もあるため、状況が変わったときは早めに相談してください。
5. 休業が長引くと、累計はいくらになるか。月給30万円の試算
ここでは、休業が長引いた場合の受取額の累計を試算します。前提は、直前3か月の暦日数が92日、月給は毎月30万円で賞与なし、1か月を30日と数え、休業の最初の3日を除いた日数分を、1日7825円で受け取るというものです。
1日7825円は、給付基礎日額9783円の60%にあたる5869円と、特別支給金20%にあたる1956円の合計です。厚生労働省の端数処理に従って計算しています。
5.1 【月給30万円で休業が長引いたときの労災の受取額(累計)】
前提条件:直前3か月の暦日数92日・月給30万円で賞与なし・1か月30日換算・最初の3日を除く・スライド制と限度額は考慮しない2/2
出所:厚生労働省「休業補償給付・休業特別支給金の計算について」の計算方法を基にLIMO編集部試算
- 1か月(30日)休業の場合:対象は27日、累計は21万1275円で、同期間の月給の70.4%です
- 3か月(90日)休業の場合:対象は87日、累計は68万775円で、同期間の月給の75.6%です
- 6か月(180日)休業の場合:対象は177日、累計は138万5025円で、同期間の月給の76.9%です
- 18か月(540日)休業の場合:対象は537日、累計は420万2025円で、同期間の月給の77.8%です
月給が20万円や40万円でも、同じ計算方法なら割合は変わりません。1か月(27日分)の受取額は、20万円で14万859円、40万円で28万1718円で、どちらも月給の約70%です。月給の水準にかかわらず、最初の1か月は7割強、という目安になります。
この表から分かるのは、休業が長引くほど、割合が80%に近づいていくことです。最初の3日間が対象外という影響が、期間が長いほど薄まるためです。一方で、休業の初月は、月給の約7割にとどまります。
この試算は、スライド制や、療養開始後1年6か月を経過してからの限度額を考慮していません。18か月の欄は、限度額の適用で金額が変わる可能性があります。実際の給付額は、労働基準監督署が決定します。
6. 一部だけ働いた日は、差し引いた額の80%になる
療養の途中で、所定労働時間の一部だけ働く日が出てくることがあります。厚生労働省のQ&Aによると、その日は、給付基礎日額から実際に働いた分として支払われた賃金の額を差し引いた額の80%が支給されます。
たとえば、給付基礎日額が6522円の人が、ある日に2000円の賃金を受けた場合、4522円の80%にあたる約3617円がその日の給付です。働いた日は、休んだ日より受取額が減ります。
復職の時期や勤務時間は、主治医の意見や職場の事情もふまえて決める必要があります。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署に相談してください。
7. 賃金水準が変わると「スライド制」で給付基礎日額が調整される
厚生労働省によると、休業補償給付にはスライド制があります。事故が起きた四半期を基準に、賃金水準が10%を超えて上下した場合、その変動率に応じて給付基礎日額が増減されます。適用は、変動した四半期の翌々四半期からとされています。
スライド率は、厚生労働省が四半期ごとに公表しています。療養が長引くほど、この仕組みが関わる可能性は高まります。ご自身に適用されるかどうかは、事故の時期や療養の期間で変わるため、所轄の労働基準監督署に確認してください。
スライドの具体的な率は、公表の時期によって変わります。最新の率は、厚生労働省の公表ページで確認するようにしてください。
8. うつ病などの精神障害でも対象になりうる。ただし「認定」が前提
労災の対象は、ケガだけではありません。仕事による強い心理的負荷で精神障害を発病した場合も、労災と認定されれば、休業補償給付の対象になります。ここで重要なのは、休んだだけでは対象にならず、認定が前提になる点です。
厚生労働省が示す「心理的負荷による精神障害の認定基準」は、2023年9月1日に改正されました。改正の主な内容は、次の4点とされています。
- 顧客や取引先などから著しい迷惑行為を受けた出来事と、感染症など危険性が高い業務に従事した出来事が追加されました
- 心理的負荷の強度を判断する具体例が拡充され、パワーハラスメントの6類型すべてで具体例が明記されました
- 精神障害の悪化について、業務による強い心理的負荷で悪化した場合に業務起因性を認める範囲が広がりました
- 専門医の意見は、特に困難な事案を除き、1名で決定できるようになりました
令和7年度の状況では、精神障害の請求は4958件で、前年度から1178件増えました。支給が決定されたのは1082件で、前年度から26件の増加です。請求の増え方に比べ、支給決定の増え方は小さくなっています。
ただし、年度内に請求された件数と、その年度に決定された件数は、対象が重なるわけではありません。前年度以前に請求した分が今年度に決定されることもあるため、請求と支給決定の件数から、認定の割合を計算することはできません。
認定の要件や、自分のケースが基準に当てはまるかどうかは、個別の事情で判断されます。必要な場合は、所轄の労働基準監督署や、労災保険相談ダイヤルに相談してください。
9. 請求の流れと時効:休業した日ごとに2年で進む
請求書は、所轄の労働基準監督署長に提出します。業務災害は様式第8号、通勤災害は様式第16号の6です。請求書の記入欄の詳しい書き方は、別の記事で整理しているため、ここでは全体の流れだけを押さえます。
請求書の記入欄のうち、だれが何を書くのか、事業主や医療機関の証明がどの欄に必要かといった細かな点は、確認できませんでした。提出前に、厚生労働省の主要様式のページで最新の様式と記載要領を確認し、勤め先の担当部署にも聞いておくと、書き直しを減らせます。
請求権の時効については、厚生労働省のQ&Aが、賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年で時効になるとしています。請求書を出した日から数えるのではなく、休んだ日ごとに数えます。
長い療養では、古い休業日の分から順に時効に近づきます。書類が整ったら、早めに提出するのが安全です。時効を過ぎた場合の扱いは、確認できた公式資料に記載がありません。心当たりがある場合は、所轄の労働基準監督署に確認してください。
健康保険の傷病手当金は、仕事以外の病気やケガで休んだときの別の制度です。仕事が原因の場合は、まず労災保険の対象になるかを確認するのが基本の考え方です。どちらに当たるか迷う場合は、勤め先の担当部署や労働基準監督署に相談してください。
※本記事は、編集部が厚生労働省・福井労働局が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
10. 【編集者の視点】
休業補償給付は、「いくらもらえるか」だけでなく、「どの期間の、どの部分が、だれの負担で補われるか」を分けて考えると、全体像がつかみやすくなります。最初の3日間は会社か空白、4日目からは労災、長期化すれば別の給付への切替、というように、時間の流れで整理することが大切です。
そのうえで、精神障害のように認定が前提になる場面や、限度額の適用を受ける場面では、個別の事情で結果が変わります。本記事の内容は目安として受け止め、不明な点は所轄の労働基準監督署に確認するのが現実的です。
本記事の内容は、休業補償給付の全体像を理解するための一般的な目安です。労災の認定や給付の可否・金額は、個別の事情に応じて所轄の労働基準監督署が判断します。実際の手続きは、所轄の労働基準監督署または労災保険相談ダイヤルに確認することをおすすめします。
11. まとめ
休業補償給付は、休業4日目から、給付基礎日額の60%に特別支給金20%を加えた合計80%が目安です。最初の3日間は労災保険から出ません。業務災害では事業主が平均賃金の60%を補償する義務がありますが、通勤災害では事業主の補償責任はありません。
給付は、賃金を受けない限り続きます。療養開始から1年6か月が経過すると、傷病等級に応じた別の給付への切替や、年齢階層別の限度額の適用があります。月給30万円の試算では、休業が長引くほど、月給に対する割合は80%に近づきます。
うつ病などの精神障害は、労災と認定されれば対象になりますが、認定は個別に判断されます。請求権の時効は休んだ日ごとに進みます。書類が整ったら早めに請求し、迷う点は所轄の労働基準監督署に確認してください。
12. よくある質問
12.1 Q. 休業補償給付は、いつから支給されますか?
休業の4日目からです。最初の3日間は待期期間とされ、労災保険からの給付はありません。
12.2 Q. 最初の3日間は、まったく補償されないのですか?
業務災害の場合は、事業主が労働基準法に基づき、平均賃金の60%を補償する義務があります。通勤災害の場合は、事業主の補償責任はありません。実際の支払いについては、勤め先と労働基準監督署に確認してください。
12.3 Q. 業務災害と通勤災害で、給付額は違いますか?
4日目以降の給付の考え方は同じで、給付基礎日額の80%が目安です。名称、請求書の様式、最初の3日間の事業主の補償が異なります。
12.4 Q. 休業補償給付は、いつまでもらえますか?
要件を満たす限り、賃金を受けない期間について支給されます。療養開始から1年6か月が経過し、治っていない場合は、傷病等級に応じた別の労災給付に切り替わる場合があります。
12.5 Q. 1年6か月を過ぎても等級に当たらない場合は、どうなりますか?
確認できた公式資料には記載がありません。所轄の労働基準監督署に、給付の扱いを確認してください。
12.6 Q. うつ病でも、休業補償給付は受けられますか?
労災と認定されれば、対象になりえます。認定は、厚生労働省の認定基準に基づいて個別に判断されるため、休んだだけでは対象になりません。
12.7 Q. 一部だけ働いた日の給付額は、どう計算しますか?
その日の給付基礎日額から、実際に働いた分として支払われた賃金の額を差し引いた額の80%が支給されます。
12.8 Q. 賞与は、給付基礎日額に含まれますか?
3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は、給付基礎日額の算定に含まれません。
12.9 Q. 請求権の時効は、いつから数えますか?
賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年です。請求書を出した日ではなく、休んだ日ごとに数えます。
参考資料
- 厚生労働省「休業(補償)等給付の支給期間」
- 厚生労働省「休業補償給付・休業特別支給金の計算について」
- 厚生労働省「休業補償給付の請求権の時効」
- 厚生労働省「労働者災害補償保険法に基づく休業(補償)等給付に係るスライド率」
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」
- 厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」
- 福井労働局「休業補償給付」
齊藤 慧
