相続放棄は、借金などの負債を含めて、被相続人(亡くなった人)の財産を一切受け継がない手続です。家庭裁判所に「申述」をして受理されると、その人は「初めから相続人とならなかった」ものとして扱われます。
最高裁判所の令和7年司法統計年報(家事編)によると、家庭裁判所が令和7年に終えた相続の放棄の申述事件は32万3524件でした。2026年の今も、相続放棄は多くの人が向き合うことになる手続です。 期限は「3か月」とよく言われます。ただ、この3か月がいつから数え始め、何をすれば間に合ったことになるのかは、意外とあいまいなまま語られがちです。民法の条文と、裁判所の案内を読むと、見落としやすい細部がいくつも見えてきます。
この記事では、裁判所、水戸家庭裁判所、民法(e-Gov法令検索)、国税庁の公表資料(2026年10月時点)をもとに、期限の数え方、手続と書類、放棄が連鎖するときの影響、兄弟姉妹が相続人になる場合、放棄の前後で気をつけたい点を整理します。相続放棄をするかどうかや、受理されるかどうかは、個別の事情で変わります。迷ったときは、家庭裁判所や弁護士、司法書士に確認してください。
1. 相続放棄とは:「3択」のうちの1つで、初めから相続人でなかったことになる
相続が始まると、相続人は3つの選択肢から1つを選べます。裁判所の案内では、「単純承認」「相続放棄」「限定承認」の3つです。
単純承認は、土地などの権利も借金などの義務も、すべて受け継ぐことです。相続放棄は、権利も義務も一切受け継がないことです。限定承認は、被相続人の債務がどの程度あるか分からず、財産が残る可能性もあるときなどに、相続によって得た財産の限度で債務を受け継ぐ方法です。
放棄と限定承認は、家庭裁判所に申述しなければなりません(民法938条など)。何もしないまま期間が過ぎると、単純承認をしたものとみなされます(921条2号)。「手続をしなければ、何も受け継がない」のではなく、逆の結果になる点に注意が必要です。
放棄をした人は、民法939条により、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」とされています。つまり、放棄をした人は、遺産分割の話し合いにも加わりません。この「初めから」という言葉が、後の章で出てくる、放棄の連鎖を生みます。
2. 「3か月」の正体:手続の完了期限ではなく、家庭裁判所に申述する期限
民法915条は、相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に」、単純承認、限定承認、または放棄をしなければならないと定めています。この期間は、熟慮期間と呼ばれます。
裁判所の案内も、「申述は、民法により自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならない」と書いています。つまり、3か月で求められているのは、家庭裁判所に「申述をすること」です。受理の通知が届くまでの期限ではありません。
起算点は、「亡くなった日」とは限りません。条文が書いているのは、「自己のために相続の開始があったことを知った時」です。疎遠な親族の死亡を何か月も経ってから知った場合などは、人によって起算点が変わりえます。
日付に置き換えると、次のようになります。たとえば2026年10月7日に「亡くなったこと」と「自分が相続人であること」を知った場合、民法140条(初日は算入しない)と143条2項(月で定めた期間は、起算日に応当する日の前日に満了)の数え方で、編集部が計算した期限は2027年1月7日です。10月7日から数え始めるのではなく、翌日の10月8日から数え始める点が違いです。
この日付は編集部の計算で、家庭裁判所が個別に示す期限ではありません。期限の末日が休日にあたる場合の扱いや、起算点の判断は、事情によって変わります。迷ったときは、申述先の家庭裁判所に確認してください。
ただし、どの日が起算点になるかは、事情によって判断が分かれます。水戸家庭裁判所の案内では、債権者から届いた通知書や督促状のコピーのうち、最初に受け取ったもの(それによって初めて被相続人に負債があることを知ったときのもの)の提出が求められています。この書類が、「いつ知ったのか」を説明する材料になるためです。
3. 起算点が人によって変わる3つのケース:再転相続・未成年・後順位
民法は、起算点が変わる場面を、条文で個別に決めています。
1つ目は、相続人が承認も放棄もしないまま亡くなった場合です。916条は、その人の相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から起算するとしています。たとえば、祖父の相続について、父が何も決めないまま亡くなったときは、子が祖父の相続の開始を知った時から数えます。
2つ目は、相続人が未成年者または成年被後見人の場合です。917条は、その法定代理人が、本人のために相続の開始があったことを知った時から起算するとしています。親が代わりに申述するため、数え始めるのは「親が知った時」です。
3つ目は、先の順位の相続人が放棄をした結果、自分が相続人になる場合です。水戸家庭裁判所の案内によると、第二順位(父母・祖父母など)と第三順位(兄弟姉妹)の人は、先の順位の人の相続放棄が受理されていないと、申述できません。後順位の人にとっては、先順位の人の放棄が、自分に回ってくる出発点になります。
この場合に、何を起算点として数えるかは、事情ごとに異なります。迷うときは、早めに家庭裁判所に確認して、期間の伸長の申立ても検討します。
4. 3か月で決められないとき:期間の伸長を家庭裁判所に申し立てる
財産や借金の全体像が分からないまま3か月がたちそうなときは、期間を延ばす手続があります。裁判所の案内によると、3か月の熟慮期間内に相続財産の状況を調査しても、単純承認、限定承認、放棄のどれにするか決められない場合に、家庭裁判所が、申立てによって期間を伸ばせます。
申立てができるのは、利害関係人(相続人を含む)と検察官です。申立先は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で、費用は収入印紙800円分(相続人1人につき)と、連絡用の郵便切手です。申立ては、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要があります。
つまり、期間を延ばす申立ても、もとの3か月の中に出さなければなりません。「そろそろ3か月だから、延ばしてもらおう」と気づくのが遅れると、申立ての機会そのものを失うおそれがあります。
民法915条2項は、「相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる」と定めています。調査をしても決められないときが、伸長を考える場面です。相続財産の調べ方は、財産の種類ごとに異なるため、専門家に相談するのが近道です。
5. 申述の手続:被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、申述書と戸籍を出す
申述先は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。申述人は、相続人本人です。相続人が未成年者や成年被後見人の場合は、法定代理人が代理して申述します。未成年者と法定代理人が共同相続人の場合などは、特別代理人の選任が必要です。
費用は、収入印紙800円分(申述人1人につき)と、連絡用の郵便切手です。郵便料は、裁判所ごとに異なります。水戸家庭裁判所の案内では、110円切手を5枚、合計550円分とされています。
窓口に直接出す場合は、認印と身分証明書(運転免許証、パスポート、健康保険証など)が必要です。水戸家庭裁判所の案内に、「必ずご自身の認め印と身分を証する書類をお持ち下さい」とあります。収入印紙は、あらかじめ郵便局などで買っておきます。
戸籍は、「謄本」または「全部事項証明書」を取ります。抄本や個人事項証明書は使えません。水戸家庭裁判所は、戸籍等は3か月以内に発行されたものを出すよう案内しています。入手できない戸籍が申述前にある場合は、申述後に追加で出しても差し支えないとされています。
戸籍の代わりに、法定相続情報一覧図の写しを出せる場合もあります。申述する家庭裁判所に、先に確認してください。
6. 順位別の必要書類:配偶者は少なく、兄弟姉妹は出生から死亡までの戸籍が要る
必要な戸籍は、被相続人との関係(相続順位)で変わります。共通で必要なのは、被相続人の住民票の除票または戸籍の附票と、申述人の戸籍謄本です。
配偶者は、被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本を加えます。子や孫などの第一順位は、同じく被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本が必要で、孫・ひ孫などが代襲して相続人になる場合は、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本も要ります。
父母・祖父母などの第二順位と、兄弟姉妹などの第三順位は、書類が増えます。被相続人の出生時から死亡時までの、すべての戸籍が必要です。兄弟姉妹の場合は、さらに、被相続人の直系尊属(父母・祖父母)の死亡の記載のある戸籍も求められます。
先順位の人が提出済みの書類は、後順位の人は出さなくてよいとされています。ただ、何を出すかは家庭裁判所の判断に左右されます。提出前に、管轄の家庭裁判所に問い合わせて確認します。
6.1 【相続放棄の申述:相続順位別の主な戸籍書類】
前提条件:裁判所・水戸家庭裁判所の案内(2026年10月7日確認)。共通=被相続人の住民票除票または戸籍附票と、申述人の戸籍謄本1/2
出所:裁判所「相続の放棄の申述」、水戸家庭裁判所「相続放棄ガイダンス」を基にLIMO編集部作成
配偶者・第一順位
- 配偶者:被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本を出します。その他は共通書類のみです
- 子・孫など(第一順位):被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本を出します。代襲の場合は、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本も必要です
第二順位・第三順位
- 父母・祖父母(第二順位):被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本が必要です。先順位の放棄が受理されていることが前提です
- 兄弟姉妹・おいめい(第三順位):出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本に加え、父母・祖父母の死亡の記載のある戸籍が必要です。先順位の放棄が前提です
7. 放棄は連鎖する:子が放棄すると、親や兄弟姉妹に相続が回る
相続放棄で最も見落とされるのは、「自分が放棄すると、誰に何が回るのか」です。民法939条により、放棄をした人は初めから相続人でなかったことになります。すると、残りの人たちの順位と相続分が、組み直されます。
民法889条によると、被相続人に子がいなければ、直系尊属(父母・祖父母)が相続人になります。直系尊属もいなければ、兄弟姉妹です。配偶者は、890条により、常に相続人です。子が全員放棄をすると、「子がいない」状態になり、順位が次に移ります。
その結果、法定相続分も変わります。900条は、配偶者と子なら各2分の1、配偶者と直系尊属なら3分の2と3分の1、配偶者と兄弟姉妹なら4分の3と4分の1としています。
8. 編集部の試算:借金1200万円が、放棄のたびに配偶者と親族へ回る
連鎖のイメージを、数字で見てみます。被相続人に、借金1200万円だけがある場合を考えます。相続人は、配偶者、子1人、被相続人の母(存命)です。
全員が受け継ぐなら、配偶者と子が各2分の1で、法定相続分で按分した目安は各600万円です。子が放棄すると、子は初めからいなかったものとなり、配偶者と母が相続人です。配偶者が3分の2で800万円、母が3分の1で400万円になります。
母も放棄すると、直系尊属がいなくなり、次は兄弟姉妹です。被相続人の兄弟姉妹が1人いる場合、配偶者が4分の3で900万円、兄弟姉妹が4分の1で300万円です。兄弟姉妹も放棄すると、配偶者だけが残り、1200万円全額が配偶者に残ります。
これは、法定相続分で単純に割った目安です。実際の債権者との関係や、遺産分割の内容、保証債務などで、結果は変わる可能性があります。また、配偶者が放棄をすれば、さらに結果が変わります。自分の場合にどうなるかは、弁護士や司法書士に確認してください。
大切なのは、放棄をする人が、「次に回る人」への影響を知っておくことです。放棄した本人は負担から離れても、次の順位の親族が、突然相続人になります。次順位の人に、事前に事情を伝えておくと、その人が期限内に動けます。
8.1 【放棄が連鎖したときの法定相続分と、借金1200万円の按分の目安】
放棄がない場合・子が放棄した場合
- 放棄した人がいない場合:相続人は配偶者と子で、法定相続分は各2分の1、借金の按分の目安は各600万円です
- 子が放棄した場合:相続人は配偶者と母で、配偶者が3分の2、母が3分の1、借金の按分の目安は配偶者800万円・母400万円です
放棄がさらに連鎖した場合
- 子と母が放棄した場合:相続人は配偶者と兄弟姉妹で、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1、借金の按分の目安は配偶者900万円・兄弟姉妹300万円です
- 子と母と兄弟姉妹が放棄した場合:相続人は配偶者のみで、借金の按分の目安は配偶者1200万円です
9. 兄弟姉妹が相続人になる場合:放棄の順番と、おい・めいへの影響
「相続放棄 兄弟」と検索する人が多いのは、兄弟姉妹が突然、相続人になることがあるからです。民法889条のとおり、子も直系尊属もいなければ、兄弟姉妹が第三順位の相続人になります。
兄弟姉妹の放棄には、順番の決まりがあります。水戸家庭裁判所の案内によると、第三順位の兄弟姉妹は、先の順位の人(子や父母・祖父母)の相続放棄が受理されていないと、申述できません。先の順位の人が放棄するかどうか、まだ決まっていない間は、動けない場合があります。
放棄の連鎖が起きたときは、被相続人の兄弟姉妹に、「突然、相続人になった」という連絡が届くことがあります。債権者からの通知で初めて知る人もいます。その人にとっては、通知を受けた時が、状況を知った時になりえます。起算点は、事情に左右されるため、家庭裁判所に確認します。
兄弟姉妹が亡くなっていて、その子(おい・めい)がいる場合は、代襲が起きます。民法889条2項は、兄弟姉妹の場合にも、887条2項の代襲を準用しています。ただし、887条2項が代襲の原因として挙げているのは、死亡、欠格、廃除です。放棄は、条文に挙がっていません。
つまり、兄弟姉妹が放棄をしても、その子であるおい・めいが、代わりに相続人になるわけではありません。放棄した人の子は、「放棄したことによる代襲」を受けない、という読み方になります。個別の判断は、専門家に確認してください。
10. 【編集者の視点】
放棄の手続でいちばん手間がかかるのは、実は戸籍の収集です。特に、第二順位と第三順位は、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍が必要で、本籍を何度も移した人ほど、時間がかかります。
3か月という限られた時間で、これを集めるのは大変です。ただ、必要な戸籍が全部そろわなくても、申述後に追加で出せるとされています。まず申述をして、期限に間に合わせることを優先し、書類の追加は家庭裁判所の案内に従うのが現実的です。
戸籍の取得では、令和6年3月から、本籍地以外の市区町村の窓口でも請求できる広域交付が始まっています。
請求できる範囲には限りがあるため、マイナンバーカードで戸籍謄本もコンビニで取れる?確定申告・医療費控除との違いと、本籍地が条件になる見落としやすい落とし穴まで詳しく解説して整理 コンビニ交付と確定申告連携はまったく別々の制度。本籍地の対応状況や暗証番号など、見落としやすい条件をあわせて解説も参考になります。
11. 放棄できなくなる行為:法定単純承認の条文を読む
放棄を考えている間に、してしまうと放棄が難しくなる行為があります。民法921条の「法定単純承認」です。3つの場合が挙げられています。
1つ目は、相続財産の全部または一部を「処分」したときです。ただし、保存行為と、一定の期間を超えない賃貸は除かれます。2つ目は、3か月の期間内に限定承認も放棄もしなかったときです。3つ目は、放棄をしたあとでも、相続財産を隠したり、勝手に使ったり、わざと財産目録に載せなかったりしたときです。
裁判所の案内では、遺産の一部を処分したときは、相続を承認したものとみなされて、相続放棄は認められないとされています。ただし、処分した内容や理由などによっては、放棄の申述が受理されることもあるとされています。何が処分にあたるかは、個別の事情で判断が分かれるため、断定できません。
3つ目の「放棄をしたあとの隠匿・消費」は、見落としやすい点です。放棄が受理されたあとでも、財産を隠したり使ったりすれば、単純承認とみなされます。ただし、その相続人が放棄をしたことによって相続人となった人が、すでに承認をしたあとは、この限りでないとされています。
被相続人の財産に手を付ける前に、「それは処分にあたるか」を確認する習慣が大切です。預貯金の払戻しや、解約、売却などは、特に慎重に扱います。払戻し制度そのものは、【相続】死亡届を出しても銀行口座は凍結されない。遺産分割前にいくらまで払い戻せる?2019年7月からの制度で上限は「150万円」で整理されていますが、放棄を考えているときは、使う前に専門家に確認してください。
12. 受理後は撤回できない:取消しができる場合と、期限の違い
放棄をすると、あとから気が変わっても、元には戻せません。民法919条1項は、承認と放棄は、熟慮期間内であっても「撤回することができない」と定めています。
例外として、取消しはできる場合があります。919条2項は、総則と親族編の規定による取消しを妨げないとしています。たとえば、だまされたり、脅されたりして放棄をした場合などが、規定の対象になりえます。取消しの申述は、家庭裁判所にします(4項)。
取消権には、期限があります。3項により、追認することができる時から6か月間行使しないと、時効によって消滅します。放棄の時から10年を経過したときも、同じです。
撤回ができず、取消しも限られることから、放棄は「慎重に決めてから行う」手続だといえます。財産の全体像が分からない段階では、期間の伸長の申立てを使って、調べる時間を確保するのが、現実的な選択肢です。
13. 放棄したあとの管理義務:現に占有している財産は、引き渡すまで保存する
放棄をすれば、財産の面倒をいっさい見なくてよいのか、というと、そうとは限りません。民法940条は、放棄をした人が、放棄の時に相続財産を「現に占有している」ときは、相続人や相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自分の財産と同じ注意をもって、その財産を保存しなければならないとしています。
この義務の対象は、「現に占有している財産」です。たとえば、被相続人と同居していた家に住み続けている場合などが、考えられます。占有していない財産については、条文は管理を求めていません。
相続人全員が放棄をして、相続人がいなくなる場合は、相続財産は法人となります(951条)。家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求により、相続財産の清算人を選任します(952条)。選任したときは、相続人がいれば一定期間内に権利を主張するよう、公告をします。この期間は、6か月を下れません。
放棄をしたあとの管理の問題は、相続財産に建物や土地がある場合に特に重要です。実家などを占有しているときは、放棄の前に、その後の管理について、専門家に確認しておくと安心です。
13.1 【放棄の前後で気をつけたい民法の主な決まり】
前提条件:e-Gov法令検索「民法」の条文(2026年10月7日確認)。個別の判断は家庭裁判所・専門家に確認2/2
出所:e-Gov法令検索「民法」の第919条・第921条・第940条を基にLIMO編集部作成
撤回・取消し
- 放棄の撤回(919条1項):熟慮期間内でも撤回できません
- 放棄の取消し(919条2〜4項):追認できる時から6か月、放棄の時から10年で消滅します。取消しは家庭裁判所に申述します
処分・隠匿・管理
- 財産の処分(921条1号):全部または一部を処分すると、単純承認とみなされます(保存行為などは除きます)
- 放棄後の隠匿・消費(921条3号):放棄後でも、財産を隠したり、ひそかに消費したり、悪意で財産目録に記載しなかったりすると、単純承認とみなされます
- 放棄後の管理(940条):現に占有している財産は、引き渡すまで自己の財産と同じ注意で保存します
14. 放棄と相続税:基礎控除には数えられ、死亡保険金の非課税枠は使えない
相続放棄は、税の計算にも関わります。国税庁のタックスアンサーによると、相続税の基礎控除や、死亡保険金の非課税限度額に使う「法定相続人の数」は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数です。放棄をした人も、数に入ります。
その一方で、死亡保険金の非課税の適用は、受取人が相続人である場合に限られます。国税庁のページは、受取人が相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません)である場合、非課税限度額が「500万円×法定相続人の数」になると説明しています。相続人以外の人が取得した死亡保険金には、非課税の適用はありません。
整理すると、放棄をした人は、人数のうえでは数えられても、本人が受け取った死亡保険金には、非課税枠が使えません。同じ「放棄」でも、人数に数える場合と、非課税を使える人から外れる場合で、扱いが異なります。
実際の相続税の申告や、保険金の受取りがどうなるかは、個別の状況で変わります。放棄を決める前に、税理士や税務署に確認してください。
15. 【編集者の視点】
相続放棄の全体像は、「期限(915条)、手続(水戸家裁など)、連鎖(889条・900条)、放棄できなくなる行為(921条)、放棄後(919条・940条)」の5つで整理できます。どれも条文に根拠があるため、迷ったときは、条文と裁判所の案内に戻るのが確実です。
最も避けたいのは、期限を知らないまま3か月が過ぎることです。亡くなった連絡を受けたら、まず家族の中で、「誰が、いつ知ったか」を共有します。そのうえで、財産と借金の見通しが立たなければ、期間の伸長を検討します。
放棄は、一度受理されると撤回できません。放棄するかどうかの判断は、時間がかかっても、納得してから行うのが基本です。専門家への相談は、時間に余裕のある早い段階で行うほど、選択肢が広がります。
※本記事は、編集部が裁判所・法務関連の公式サイトと国税庁が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
16. まとめ
- 相続放棄は、単純承認、限定承認と並ぶ3つの選択肢の1つで、家庭裁判所に申述して受理されると、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。
- 「3か月」は、手続の完了期限ではなく、家庭裁判所に申述をする期限です。起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」で、未成年者は法定代理人が知った時、承認・放棄をしないで亡くなった人の相続人は自分が知った時から数えます。
- 3か月で決められない場合は、期間の伸長を申し立てられますが、申立ても3か月以内に行う必要があります。費用は収入印紙800円分(相続人1人につき)と郵便切手です。
- 放棄は連鎖します。子が放棄すると親、親も放棄すると兄弟姉妹に相続が回り、放棄した人の子は、条文上、放棄を理由には代襲しません。借金1200万円の例では、配偶者の負担の目安が600万円から800万円、900万円と増えていきます。
- 財産の処分や、放棄後の隠匿・消費は、単純承認とみなされます。受理後の撤回はできず、現に占有している財産は引き渡すまで保存する義務があります。相続税では、放棄した人は人数に数えられても、死亡保険金の非課税枠は使えません。
相続放棄は、期限と手続の細部を知っているかどうかで、結果が大きく変わる手続です。条文と裁判所の案内を押さえておけば、「知らなかった」で選択肢を失うリスクを減らせます。
これから動く方は、まず「いつ、誰が、亡くなったことと相続人になったことを知ったか」を整理してください。そのうえで、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所と、弁護士や司法書士などの専門家に、早めに相談することをおすすめします。
17. よくある質問
17.1 Q. 相続放棄とは何ですか?
A. 被相続人の権利も義務も一切受け継がない手続です。家庭裁判所に申述して受理されると、その人は初めから相続人でなかったものとみなされます。
17.2 Q. 期限はいつまでですか?
A. 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述をします。裁判所の案内では、申述を3か月以内にしなければならないとされています。
17.3 Q. 3か月で財産が調べきれないときは、どうしますか?
A. 家庭裁判所に、期間の伸長を申し立てます。相続財産の状況を調査してもなお決められない場合に、家庭裁判所が期間を伸ばせます。申立ても、3か月以内にする必要があります。
17.4 Q. 費用はいくらかかりますか?
A. 収入印紙800円分(申述人1人につき)と、連絡用の郵便切手です。郵便料は裁判所ごとに異なり、水戸家庭裁判所の案内では550円分です。戸籍などの取得費用は別にかかります。
17.5 Q. 兄弟姉妹が相続人になるのは、どんなときですか?
A. 子も直系尊属(父母・祖父母)もいない場合です。子や親が全員放棄したときにも、兄弟姉妹に回ります。兄弟姉妹が放棄するには、先の順位の人の放棄が受理されていることが前提とされています。
17.6 Q. 放棄すると、借金は誰に回りますか?
A. 放棄した人は初めから相続人でなかったことになり、次の順位の人が相続人になります。法定相続分は民法900条で決まっていますが、債権者との関係などで結果が変わる場合があるため、専門家に確認してください。
17.7 Q. 放棄したあとで、撤回できますか?
A. 撤回はできません(民法919条1項)。ただし、だまされた場合などは、取消しができる場合があります。取消権は、追認できる時から6か月、放棄の時から10年で消滅します。
17.8 Q. 放棄をした人が受け取った死亡保険金は、非課税になりますか?
A. 国税庁のページでは、死亡保険金の非課税の適用は、受取人が相続人である場合に限られ、相続を放棄した人は含まれないとされています。個別の取扱いは、税理士や税務署に確認してください。
参考資料
齊藤 慧
