個人向け国債の10月募集分の発行条件が、10月7日に発表されました。

固定3年が年2.07%、固定5年が年2.39%、変動10年が初回年2.05%。3年限すべてが2%を超えました。 9月からはそれぞれ+0.11%、+0.15%、+0.10%の上昇です。

2%という数字を見ると、これで物価に負けない運用ができそうに思えます。

ただ、受け取るまでに通る関門が二つあります。税金と物価です。

1. 財務省は税引後の利率まで発表している

意外に知られていませんが、財務省の発行条件の発表資料には、税引後の利率が小数点以下7桁まで記載されています。

1.1 回号: 適用利率/ 税引後利率

  • 固定3年 第197回債: 2.07%/ 1.6494795%
  • 固定5年 第187回債: 2.39%/ 1.9044715%
  • 変動10年 第199回債: 2.05%/ 1.6335425%

利子を受け取るときには20.315%が源泉徴収されます。所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計です。

表面の2%台が、手元では1.6%台から1.9%台になる。自分で計算しなくても、この数字は公表されています。

2. コアCPI+1.7%と並べると、上回るのは固定5年だけ

では、この税引後利率は物価上昇に追いついているでしょうか。

直近のコアCPI(生鮮食品を除く総合)は、2026年8月で前年同月比+1.7%でした。並べてみます。

2.1 税引後利率 コアCPI+1.7%との差

  • 固定3年: 1.6494795%/ ▲0.05%ポイント
  • 固定5年: 1.9044715%/ +0.20%ポイント
  • 変動10年: 1.6335425%/ ▲0.07%ポイント

上回っているのは固定5年だけです。固定3年も変動10年も、わずかですが物価に届いていません。

「3年限すべて2%超え」という見出しと、手元に残る購買力の話は、別だということになります。

3. 市場の金利は右肩上がりなのに、商品の利率は10年が最も低い

もうひとつ、発表資料を見ると目を引くことがあります。基準金利です。

3.1 基準金利/ 適用利率/ 差し引かれた幅

  • 固定3年 2.10%/ 2.07%/ 0.03%ポイント(1.4%)
  • 固定5年 2.44%/ 2.39%/ 0.05%ポイント(2.0%)
  • 変動10年 3.10%/ 2.05%/ 1.05%ポイント(33.9%)

市場の金利は3年2.10%、5年2.44%、10年3.10%と、期間が長いほど高いという普通の形をしています。ところが商品の利率は、10年がいちばん低い。

理由は差し引き方の違いです。固定型は引き算(3年は−0.03%、5年は−0.05%)ですが、変動10年だけは掛け算(×0.66)です。基準金利の3分の1が持っていかれます。

※この仕組みは「固定5年と変動10年、なぜ期間が長いほうが利率が低いのか」で解説しました。なお、変動10年の基準金利は10年固定利付国債の入札結果、固定5年と固定3年は想定利回りです。算出のもとが違うので、3つを並べても厳密な意味でのイールドカーブではありません。

4. 元機関投資家イズミダの視点

表面の利率と手元に残る利率、そして物価を引いたあとの利率。同じ商品に、三つの数字があるということになります。

日本では、長い間、この区別を意識する必要はありませんでした。利率が0.05%なら、税金を引いても物価を引いても、ほとんど何も変わらなかったからです。2%台になって初めて、三つの数字が意味を持ち始めました。

いま起きているのは、金利が戻ってきたことで、比べ方そのものを更新しなければならなくなったという変化だと思います。

そのうえで、固定3年と変動10年が物価に届いていないことを、どう受け止めるかです。

ただ、これを「だから買う意味がない」と読むのは早いと思います。預金に置けば目減りは1万7000円のまま。比較の相手が預金なら、わずかなマイナスでも改善にはなります。守るべきは絶対値ではなく、順位だという見方もできます。

もうひとつ、変動10年には固定にない性質があります。半年ごとに利率が見直されるので、長期金利がさらに上がれば利子も増えます。いまの2.05%は、10年間の数字ではありません。この点は「変動10年タイプは本当にインフレに強いのか?」で整理しました。

いま確定させたいのか、これから動く余地を残したいのか。 物価に勝っているかどうかの計算は、その判断の材料のひとつであって、答えそのものではありません。

募集期間は10月30日まで、発行日は11月16日です。

利率の決まり方そのものについては「個人向け国債は『計算式』、個人向け社債は『仮条件』から……債券の利率はどう決まるのか?」もあわせてご覧ください。

泉田 良輔