会社を辞めるとき、「退職したのだから、住民税の支払いもこれで終わり」と考える人は少なくありません。ところが、住民税は前の年の所得をもとに計算され、退職したあとにも納める分が残ります。

副業を始めた人にも、似た勘違いがあります。所得税では、副業の所得が20万円以下なら確定申告が不要な場合がありますが、住民税には同じ扱いがありません。ここを取り違えると、申告の漏れにつながります。

本記事では、東京都主税局や名古屋市、横浜市などの公式ページ、国税庁のタックスアンサーをもとに、退職したときの住民税の扱いと、副業をしている人の住民税の申告と納め方を整理します。制度の適用は個別の事情や自治体で異なるため、実際の判断は、お住まいの市区町村の税務担当窓口に確認してください。

1. 退職しても住民税は残る:前年の所得をもとに、翌年6月から納める仕組み

横浜市の案内では、市民税・県民税・森林環境税の年税額は、前の年の所得を基準に算出され、翌年の6月から翌々年の5月まで、12回に分けて納めるとされています。給与から天引きされる場合も、この期間で分けて差し引かれます。

つまり、ある年の途中で退職しても、その時点までの税額がすべて終わっているわけではありません。前の年に稼いだ所得に対する税金が、退職後の月にも残っている場合があります。

この残りの税額を、どう納めるかが、退職時期によって変わります。会社が給与から天引きする特別徴収ができなくなるためです。次の章で、退職時期ごとの扱いを確認します。

齊藤 慧
会社員のうちは、給与から住民税が自動で引かれるので、いくら払っているのか意識しにくいものです。退職して収入が減ったところに、納付書が届いて驚いたという声は、珍しくないように感じます。あらかじめ仕組みを知っておくだけで、気持ちの余裕がずいぶん違います。

2. 退職の時期で扱いが変わる:1月〜4月、5月、6月〜12月の3パターン

東京都主税局の特別徴収の手続きの案内によると、退職などで特別徴収できなくなった場合の扱いは、退職した時期によって3つに分かれます。ここでは、会社が従業員の住民税を天引きして納めていた場合の扱いです。

1月1日から4月30日までに退職した場合は、特別徴収できなくなる残りの税額を、5月31日までに支給される給与や退職金から、一括して差し引きます。従業員の申し出がなくても、一括で差し引く扱いです。

ただし、残りの税額が、5月31日までに支給される給与や退職金を超える場合や、死亡による退職の場合は、この扱いになりません。5月に退職した場合は、最終月分として、特別徴収で納入されます。

6月1日から12月31日までに退職した場合は、残りの税額は、普通徴収に切り替わります。普通徴収とは、本人が自治体から届く納付書などで直接納める方法です。従業員が特別徴収を希望して申し出た場合は、給与や退職金から一括して差し引くこともできます。

退職した時期ごとの、住民税の残りの扱い

前提条件:会社が給与から住民税を天引き(特別徴収)していた人が退職した場合。東京都主税局の案内による
退職した時期 残りの住民税の扱い 本人の申し出
1月1日〜4月30日 5月31日までに支給される給与や退職金から一括して差し引く 不要(条件あり)
5月 最終月分として特別徴収で納入 不要
6月1日〜12月31日 普通徴収に切り替わり、本人が納付書などで納める 希望すれば一括で差し引くことも可能

出所:東京都主税局「特別徴収にかかる手続きについて」を基にLIMO編集部作成

2.1 【退職した時期ごとの、住民税の残りの扱い】

  • 1月1日〜4月30日に退職した場合:5月31日までに支給される給与や退職金から、一括して差し引きます。従業員の申し出は不要です(条件あり)
  • 5月に退職した場合:最終月分として、特別徴収で納入されます。従業員の申し出は不要です
  • 6月1日〜12月31日に退職した場合:普通徴収に切り替わり、本人が納付書などで納めます。希望すれば、一括して差し引くことも可能です

この表は、東京都主税局が事業者向けに示している扱いです。自治体によって細かい運用が異なる場合があるため、実際の手続きは、お住まいの市区町村や勤務先の給与担当に確認してください。

3. 試算:退職した月によって、残る住民税はいくら違うのか

ここからは、退職した月で残りの税額がどう変わるかを、仮の金額で確かめます。仮に、年税額が24万円で、6月から翌年5月まで、毎月2万円ずつ12回に分けて天引きされる人がいたとします。

実際の月々の額は、自治体や年度によって、必ずしも均等ではありません。ここでは、比べやすいように、12回で均等に割った単純な例で考えます。あくまで仕組みのイメージをつかむための試算です。

3月末に退職した場合、6月から3月までの10回分にあたる20万円は、すでに天引きされています。残りは、4月分と5月分の2回分にあたる4万円です。この4万円は、5月31日までに支給される給与や退職金から、一括して差し引かれます。

9月末に退職した場合は、6月から9月までの4回分にあたる8万円が、天引きされたあとです。残りは、8回分にあたる16万円で、普通徴収に切り替わります。この16万円を、本人が納付書などで納めることになります。

12月末に退職した場合は、6月から12月までの7回分にあたる14万円が、すでに天引きされています。残りは、5回分にあたる10万円で、こちらも普通徴収です。同じ年税額24万円でも、退職した月によって、残りは大きく変わります。

退職した月ごとの、残る住民税の試算(年税額24万円の場合)

前提条件:年税額24万円を、6月から翌年5月まで月2万円ずつ12回で均等に納めると仮定した編集部試算。実際の月々の額は自治体・年度で異なる
退職した月 すでに天引きされた額 残る額 残りの納め方
3月末 20万円 4万円 給与や退職金から一括して差し引く(1月〜4月の退職は本人の申し出不要)
9月末 8万円 16万円 普通徴収(本人が納付)。本人が申し出れば、給与や退職金からの一括徴収も可能
12月末 14万円 10万円 普通徴収(本人が納付)。本人が申し出れば、給与や退職金からの一括徴収も可能

出所:横浜市「退職後の住民税は…」の12回に分ける考え方と、東京都主税局「特別徴収にかかる手続きについて」の退職時期別の扱いを基にLIMO編集部試算

3.1 【退職した月ごとの、残る住民税の試算(年税額24万円の場合)】

  • 3月末に退職した場合:すでに天引きされた額は20万円、残る額は4万円で、給与や退職金から一括して差し引きます
  • 9月末に退職した場合:すでに天引きされた額は8万円、残る額は16万円で、普通徴収(本人が納付)です。本人が申し出れば、給与や退職金からの一括徴収も可能です
  • 12月末に退職した場合:すでに天引きされた額は14万円、残る額は10万円で、普通徴収(本人が納付)です。本人が申し出れば、給与や退職金からの一括徴収も可能です

この試算で分かるように、退職後の手取りが減る時期に、まとまった額の納付が重なることがあります。退職金や貯蓄の使い道を考えるときは、住民税の残りの額を、先に見積もっておくことをおすすめします。

齊藤 慧
退職の月が数か月ずれるだけで、手元に残る税額が10万円単位で変わることがあります。転職までの間が空くかどうかで、納め方も変わってくるので、退職日を決めるときは、給与や退職金の入金の時期とあわせて考えておくと安心です。気になる方は、早めに勤務先の担当者へ尋ねてみてください。

4. 【編集者の視点】

退職時の住民税は、「いつ辞めたか」で、残りの額も、納め方も、大きく変わる仕組みです。しかも、自治体からの通知は、退職してしばらくたってから届くことが多く、金額に気づくのが遅れがちです。

先ほどの試算のように、仮の数字に置き換えて考えてみると、退職前に準備しておくべき額の見当がつきます。正確な金額は、前年の所得や自治体によって異なるため、勤務先の給与担当や、市区町村の税務担当窓口で確認してください。

5. 普通徴収に切り替わったら:納税通知書や納付書で、自分で納める

名古屋市の案内では、退職して特別徴収ができなくなり、一括で差し引くこともない場合、市税事務所から送付される納税通知書や納付書によって納めます。これが普通徴収です。

納期の回数や時期は、自治体によって異なります。名古屋市のページでは、具体的な納期の詳細は確認できませんでした。届いた納税通知書や納付書に書かれた期限を、必ず確認してください。

再就職した場合は、扱いが変わります。名古屋市の案内では、新しい会社に就職して、引き続き給与から差し引く特別徴収を申し出た場合は、普通徴収を避けられるとされています。転職先が決まっている人は、入社時に相談してみてください。

なお、東京都主税局の案内によると、従業員が特別徴収への切り替えを申請すれば、普通徴収から特別徴収に戻すことも可能とされています。ただし、すでに納期限が過ぎた分は対象外です。

6. 退職の翌年に届く納税通知書:退職した年の所得に対する税金

退職後に届く住民税の通知には、2種類の税金が混ざりやすいため、整理しておきます。横浜市の案内では、退職時に一括で納める税金は、前年度の所得に対する残りの税額だと説明されています。これは、これまで説明してきた残りの分にあたります。

もう1つが、退職後に納税通知書で届く税金です。横浜市の案内によると、これは、退職した年の1月から退職した月までの給与所得に対する、翌年の課税分にあたります。つまり、退職した年に働いた期間の所得にも、あとから住民税がかかります。

たとえば、9月末に退職した人は、その年の1月から9月までの給与が、翌年の住民税の計算に使われます。翌年は収入が少なくても、前の年に働いた分の税金が、翌年6月から請求される仕組みです。

横浜市のページでは、この通知書が令和8年6月から納める分として送付されると案内されています。年度ごとの具体的な金額や納期は、お住まいの市区町村から届く通知書で確認してください。

7. 会社側で行う手続き:給与所得者異動届出書が出される

従業員が退職したときには、会社が自治体へ届け出る手続きがあります。東京都主税局によると、退職や休職、転勤などで従業員に異動があった場合には、給与所得者異動届出書が必要です。

この届出書は、事由が発生した日の翌月10日までに、従業員が居住する区市町村へ提出します。提出されると、特別徴収から普通徴収へ、自動的に切り替わる扱いです。

従業員本人が届出書を書くわけではありませんが、退職時に、勤務先がきちんと手続きをしているかを、念のため確認しておくと安心です。届出が遅れると、納付書が届く時期も遅れる可能性があります。

8. 副業の住民税:所得が20万円以下でも、申告が必要になる

次に、副業をしている人の住民税を見ていきます。国税庁のタックスアンサーNo.1900では、給与以外の所得が20万円以下の場合、所得税の確定申告は不要と案内されています。ただし、この記述は所得税の確定申告についてのものです。

住民税は、扱いが異なります。名古屋市の案内では、市民税・県民税には、所得税のような申告の省略範囲はなく、原則としてすべての所得を申告する必要があると説明されています。給与以外の所得がある場合は、金額の多少にかかわらず、申告が必要です。

横浜市の案内も同様で、確定申告をしなかった場合は、住民税の申告をする必要があると説明しています。所得税の確定申告を行う場合は、改めて住民税の申告を行う必要はないとされています。

まとめると、給与以外の所得が20万円以下のとき、確定申告は不要でも、住民税の申告は必要です。「20万円以下だから何もしなくてよい」という理解は、住民税については当てはまりません。

齊藤 慧
副業の所得が20万円以下なら申告不要、という話は、広く知られています。だからこそ、住民税は別扱いだと知らない人が多いのだと思います。少額でも所得があれば、一度、お住まいの市区町村の案内を確認してみることをおすすめします。

9. 副業分の納め方:令和6年分以降は、確定申告書では選べなくなった

副業の所得に対する住民税は、給与から天引きされるのか、自分で納めるのかという、徴収方法の問題もあります。横浜市の案内によると、令和6年分以降の所得税の確定申告書を作成する場合、主たる給与以外の所得にかかる住民税の徴収方法を選択できなくなりました。

これは、e-Taxや国税庁の確定申告書等作成コーナーで、確定申告書を作る場合の話です。以前は、確定申告書の欄で選べたものが、選べなくなっています。

自分で納付する普通徴収を希望する場合は、住民税の申告書を提出する必要があります。横浜市の案内では、申告書表面の右下にある「自分で納付(普通徴収)」の欄にチェックをして提出するとされています。

副業の徴収方法が、勤務先にどう伝わるのか、副業が勤務先に知られるのかという点は、今回確認した公式ページの範囲では、確認できませんでした。気になる場合は、お住まいの市区町村の税務担当窓口に、直接確認してください。

10. 所得税の確定申告と、住民税の申告:どちらを出せばよいか

副業のある人が迷いやすいのは、所得税の確定申告と、住民税の申告のどちらを出せばよいのかという点です。名古屋市の案内では、所得税の確定申告を行う場合は、改めて市民税・県民税の申告を行う必要はないとされています。

一方で、所得税の確定申告が不要な場合は、住民税の申告が別に必要になります。順番に考えると、まず所得税の申告が必要かを確かめ、不要なら住民税の申告を出す、という流れです。

所得税の確定申告が必要になる目安として、国税庁のタックスアンサーNo.1900は、給与を2か所以上から受けていて全額が源泉徴収の対象になっている場合を挙げています。年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得や退職所得を除く各種の所得金額の合計が20万円を超える人は、確定申告が必要です。

名古屋市の案内には、令和8年度の市民税・県民税の申告書を、お住まいの区を担当する市税事務所あてに提出するという記載もあります。提出先は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村の案内で、申告書の入手先と提出先を確かめてください。

申告を忘れていた場合の扱いや、申告しなかったときにどうなるかについては、今回確認した公式ページの範囲では、確認できませんでした。心当たりがある方は、早めに市区町村の税務担当窓口に相談するのが確実です。

11. 退職や副業のあとに、確認しておきたいこと

退職した人は、まず、退職した時期と、勤務先が住民税をどう扱うかを確認します。1月から4月の退職なら一括、6月から12月の退職なら普通徴収が基本ですが、自治体や個別の事情で異なる場合があります。

次に、届いた納税通知書や納付書の期限を、確認しておきます。金額は、前の年の所得で決まるため、退職して収入が減っても、税額は変わりません。納付が難しいときは、自治体の窓口に早めに相談してください。

副業をしている人は、所得の金額にかかわらず、住民税の申告が必要かどうかを、確認します。確定申告をする場合は、住民税の申告を別に行う必要はありません。しない場合は、住民税の申告書を出します。

なお、住民税が課税されるかどうかの基準は、世帯や所得の状況によって異なります。基本は、住民税非課税世帯とはで確認できます。

齊藤 慧
住民税の通知は、退職や転職、副業といった生活の変わり目に、突然届くように感じられるものです。慌てないためには、納付書が届く前に、いつ、どのくらい納めることになりそうかを、自分なりに見積もっておくことだと思います。分からないときは、ためらわず窓口へ聞いてみてください。

※本記事は、編集部が東京都主税局、名古屋市、横浜市、国税庁が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。

12. 【編集者の視点】

退職も副業も、「収入が変わったときは、住民税も変わる」と思いがちですが、住民税は、前の年の所得をもとに、あとから請求される税金です。収入が変わった時点と、税金の負担が変わる時点にずれがあることが、戸惑いの原因になります。

だからこそ、退職や副業の前後に、いつ、いくら、どう納めるのかを、一度整理しておく意味があります。本記事の内容は一般的な目安です。実際の手続きは、お住まいの市区町村の税務担当窓口で、必ず確認してください。

13. まとめ

住民税は、前の年の所得をもとに、翌年6月から12回に分けて納める仕組みです。そのため、退職しても、残りの税額があります。1月から4月の退職は、給与や退職金から一括して差し引かれます。6月から12月の退職は、普通徴収に切り替わります。

仮の年税額24万円の試算では、3月末の退職で残りは4万円、9月末で16万円、12月末で10万円と、退職した月で大きく変わります。再就職して特別徴収を申し出れば、普通徴収を避けられる場合があります。

副業の所得は、20万円以下でも、住民税の申告が必要です。令和6年分以降は、確定申告書で副業分の徴収方法を選べません。普通徴収を希望する場合は、住民税の申告書の欄にチェックして提出します。具体的な扱いは、市区町村に確認してください。

14. よくある質問

14.1 Q. 退職したら、住民税はもう払わなくていいですか?

いいえ。住民税は前の年の所得をもとに計算されるため、退職後も残りの税額があります。納め方は、退職した時期によって異なります。

14.2 Q. 1月から4月に退職した場合は、どうなりますか?

残りの税額は、5月31日までに支給される給与や退職金から、一括して差し引かれるのが基本です。従業員の申し出は不要です。条件があります。

14.3 Q. 6月から12月に退職した場合は、どうなりますか?

普通徴収に切り替わり、納付書などで本人が納めます。希望すれば、給与や退職金から一括して差し引くこともできます。

14.4 Q. 退職して、すぐ再就職した場合は?

新しい会社で特別徴収を申し出れば、普通徴収を避けられる場合があります。入社時に、給与担当へ相談してみてください。

14.5 Q. 普通徴収の納期は、いつですか?

自治体によって異なります。届いた納税通知書や納付書に書かれた期限を確認してください。

14.6 Q. 副業の所得が20万円以下なら、住民税の申告は不要ですか?

不要ではありません。所得税の確定申告は不要な場合がありますが、住民税は、金額にかかわらず申告が必要とされています。

14.7 Q. 確定申告をした場合、住民税の申告は別にいりますか?

所得税の確定申告をした場合は、改めて住民税の申告をする必要はないと、自治体は案内しています。

14.8 Q. 副業分を自分で納めたいときは、どうしますか?

令和6年分以降は、確定申告書では徴収方法を選べません。住民税の申告書の「自分で納付(普通徴収)」の欄にチェックして提出します。

14.9 Q. 副業が会社に知られることはありますか?

今回確認した公式ページの範囲では、確認できませんでした。お住まいの市区町村の税務担当窓口にご確認ください。

参考資料

齊藤 慧