1. 「お菓子と牛乳の会社」の利益はどこから来ているのか
社名とロゴが店頭の菓子やヨーグルトに並んでいる以上、明治を食品の会社と受け止めるのは自然な連想だろう。私自身、長いあいだそう思っていた。
売上高の構成だけを見れば、その連想は間違っていない。2026年3月期の食品セグメントの売上高は9,414億円で、全体の80.2%を占める。医薬品セグメントは2,322億円で19.8%にとどまる。
ところが利益に目を移すと、景色は変わる。食品のセグメント利益(営業利益)は687億円、医薬品は304億円だった。両セグメントの利益の合計に占める医薬品の割合を試しに計算すると30.7%になる。
売上では8対2なのに、利益では7対3。このズレを生んでいるのが利益率の差だ。食品の営業利益率は7.3%、医薬品は13.1%と、医薬品のほうが1.8倍の厚みを持つ。
つまり明治は「食品の売上規模」と「医薬品の利益率」を1つの会社の中に同居させている。お菓子と牛乳の会社というラベルは売上の姿としては正しいが、稼ぐ力の姿としては半分しか語っていないことになる。
2. 医薬品の存在感はこの5期でどこまで増したのか
この構造は、昔からそうだったわけではない。2022年3月期までさかのぼると、医薬品のセグメント利益は186億円で、利益率は9.9%だった。当時の食品は759億円の利益を上げ、利益率も9.2%と医薬品に近い水準にあった。
そこから4年で、両者の歩みは逆を向いた。医薬品の利益は304億円まで6割以上増え、利益率は13.1%へ上がった。一方の食品は687億円へ減り、利益率も7.3%に下がっている。
その結果、両セグメントの利益に占める医薬品の割合は、2022年3月期の2割弱から2026年3月期の3割強へと切り上がった。明治の利益の重心は、この5期で着実に医薬品側へ寄ってきたと読み取れる。
2026年3月期単年でも、その傾向ははっきりしている。医薬品の売上高は前期比+1.1%とほぼ横ばいだったが、利益は+23.1%と大きく伸びた。売上がほとんど増えないまま利益だけが伸びた以上、製品構成やコスト面の改善が効いた期だったと考えられる。
足元の2027年3月期1Qも同じ流れの延長にある。医薬品は売上高556億円(前年同期比+13.6%)、利益84億円(同+76.3%)で、利益率は15.2%まで上がった。食品の利益151億円(同+10.9%)と合わせた利益に占める医薬品の割合は35.7%に達する。
何が医薬品を押し上げているのか。会社は1Qの取り組みとして、注射用抗菌薬やワクチンの安定供給に加え、グループで製造販売を一元化した血漿分画製剤の売上拡大に注力したとしている。新規発売品目である選択的ROCK2阻害剤「レズロック錠」や、大正製薬と共同販売する不眠症治療薬「ボルズィ」の普及にも取り組んだという。
ここで、食品業界の中での明治の位置を確かめておきたい。食料品業種の営業利益率の中央値は4.0%だ。明治の連結の営業利益率は2026年3月期で7.9%と、その倍近い水準にある。
食品メーカーの利益率は薄いという一般的な見方からすると、明治は食品会社として厚く稼いでいるように見える。だが分解すると、その厚みの一部は医薬品が支えている。食品単体の7.3%も業種の上位4分の1の境目(7.7%)に近い健闘ぶりだが、連結の数字を押し上げている主役は別にいる、というのが実像だろう。
3. 株価は昨秋から1.5倍の水準へ
こうした利益構造の変化と並行して、株価も大きく動いた。2025年10月末の終値は2,900円台で、昨秋以降の月末終値では最も低い水準だった。
そこから株価は月を追うごとに切り上がる。11月末に3,300円台、12月末に3,400円台、2026年1月末に3,600円台と上昇を続け、2月末には4,000円台に乗せた。
春先には上げ幅の一部を吐き出した。3月末は3,800円台、4月末は3,700円台まで下押しし、5月末から7月末までは3,700円台でほぼ横ばい圏の推移が続いた。2026年3月期の最終利益が減益で着地したことも、上値を抑える材料として意識された可能性がある。
再び動いたのは夏だ。8月末の終値は4,400円台と、未確定の9月を除く月末終値では昨秋以降で最も高い水準をつけた。2027年3月期1Qの大幅増益が開示された月であり、医薬品を中心とした利益の伸びが評価されたとみられる。
2026年9月時点の終値は4,300円台で、8月末からはやや下げている。それでも2025年10月末と比べれば、1.5倍程度の水準を保っている。
もっとも、株価の上昇が医薬品の稼ぐ力だけで説明できるわけではない。相場全体の地合いや、ディフェンシブな食品株への資金の出入りも絡んでいるはずだ。利益構造の変化は、株価を支える土台の1つとして捉えるのが妥当だろう。
4. 筆者コメント
なぜ明治の医薬品の稼ぎは、会社のイメージにほとんど映らないのか。
理由の1つは、目に触れる場所の違いだと私は考える。菓子やヨーグルトは毎日スーパーで目に入るが、抗菌薬やワクチン、血漿分画製剤を手に取る機会は、医療の現場にいない限りほぼない。売上の8割が生活者の視界にある以上、2割の事業の存在感が薄れるのは避けがたい。
もう1つは、利益率の差が小さかった時期が長かったことだろう。数年前までは食品と医薬品の利益率は近く、医薬品を特別視する理由は乏しかった。その差が開いたのは、ここ数年の話である。
イメージは過去の平均でできあがり、構造は足元で変わる。明治を見るなら、店頭の商品棚ではなく、セグメント別の利益率の推移に目を向けることをおすすめしたい。
5. 2026年3月期の最終減益は本業の失速ではなく減損が主因
ここからは、直近の決算にこの構造がどう表れているかを見ていく。2026年3月期の連結売上高は1兆1,736億円(前期比+1.7%)、営業利益は933億円(同+10.2%)、経常利益は965億円(同+17.7%)だった。
ところが親会社株主に帰属する当期純利益は350億円(同▲31.0%)と大きく減った。会社の説明によると、食品セグメントでは中国事業で減損損失を計上しつつ、構造改革に着手した。セグメント情報を見ると、食品の減損損失は225億円にのぼる。
営業段階では2桁増益を確保しながら、最終利益だけが沈んだ。本業の稼ぐ力が落ちたというより、中国事業の整理に伴う一時的な損失が最終利益を押し下げた期と読むのが自然だろう。
続く2027年3月期1Qは、売上高2,894億円(前年同期比+5.8%)、営業利益226億円(同+27.7%)、経常利益247億円(同+37.8%)、当期純利益152億円(同+51.3%)と、各段階で増益となった。
通期計画は売上高1兆2,120億円(前期比+3.3%)、営業利益1,000億円(同+7.2%)、当期純利益625億円(同+78.2%)だ。1Q時点の営業利益の進捗率は22.7%で、3か月分の目安となる25%をやや下回る。
会社は2027年3月期の見通しについて、原材料価格の高騰や中国経済の減速、ワクチン接種環境の変化などを織り込み、中期経営計画の当初目標を見直したとしている。増益計画ではあるが、会社自身が慎重な前提を置いていることは押さえておきたい。
一方で、1Qの営業増益率+27.7%は通期計画の+7.2%を大きく上回る。進捗率と増益率の見え方が食い違う以上、1Qだけで通期を占うのは早計だ。医薬品の伸びが下期まで続くかが、次の焦点になるだろう。
6. 利益率の高い医薬品は、資本効率でも優等生なのか
ここまで読むと、医薬品は明治の優等生に見える。だが、利益率だけで事業の良し悪しを決めるのは危うい。どれだけの資産を使ってその利益を上げているかという視点が抜けているからだ。
2026年3月期末のセグメント資産は、食品が8,705億円、医薬品が4,358億円だった。医薬品の資産は2022年3月期の3,278億円から大きく膨らんでいる。設備投資も2026年3月期は281億円と、2022年3月期の154億円から2倍近くに増えた。
試しにセグメント利益をセグメント資産で割ってみると、食品は7.9%、医薬品は7.0%になる。売上に対する利益率では医薬品が大きく上回るのに、資産に対する稼ぎでは食品がわずかに勝る。
医薬品は生産設備や研究開発に重い資産を必要とする事業であり、利益率の高さは投下資本の重さと表裏一体だ。国内生産体制の構築や次世代mRNAワクチンの上市など、会社が挙げる取り組みも資産を積み増す方向のものが多い。
会社全体の資本効率も見ておきたい。ROE(自己資本利益率)は2022年3月期の13.5%から、2023年3月期に10.0%、2024年3月期に6.9%、2025年3月期に6.8%と下がり、減損を計上した2026年3月期は4.6%まで落ちた。食料品業種の中央値6.8%を下回る水準だ。
キャッシュフローにも投資局面の色が濃い。2026年3月期の設備投資は946億円と前期の536億円から大きく増え、営業キャッシュフロー565億円を上回った。長期借入金も前期末の124億円から672億円へ増えている。
自己資本比率は61.2%と依然として高い。借入を使って投資を進める判断は、厚い自己資本を抱えたまま資本効率を落とすよりは、理にかなった面もある。問題は、積み増した資産が医薬品を中心にどれだけの利益を生むかであり、ROEの回復がその答え合わせになるはずだ。
7. 筆者コメント
明治の数字を並べて見えてくるのは、「利益率の高い事業へ重心を移すこと」と「資本効率を上げること」が、必ずしも同じ方向を向かないという構図だ。
医薬品は売上に対しては厚く稼ぐが、そのぶん資産を食う。重心を医薬品へ寄せるほど、会社全体の利益率は上がる一方で、投下資本の回転は鈍りやすい。足元でROEが業種の中央値を下回っているのは、中国の減損という一時要因に加え、この構造的な綱引きも映しているのではないだろうか。
裏を返せば、今は投資の果実を待つ局面ともいえる。借入を増やしてまで積み上げた設備が、医薬品の利益として回収され始めれば、利益率と資本効率は同じ方向を向き始める。
お菓子と牛乳の会社か、医薬品で稼ぐ会社か。その二択より、どちらの事業が資本をどれだけ効率よく回しているかという物差しで、この会社を追いかけていきたい。
参考資料
9. 免責事項
本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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石津 大希