2019年10月15日に日本証券アナリスト協会主催で行われた、株式会社ほぼ日2019年8月期決算説明会の内容を書き起こしでお届けします。IR資料 質疑応答パートはこちら

スピーカー:株式会社ほぼ日 代表取締役社長 糸井重里 氏
株式会社ほぼ日 管理部長 鈴木基男 氏

株式会社ほぼ日とは

鈴木基男氏:本日はお集まりいただき、ありがとうございます。管理部長鈴木から株式会社ほぼ日の通期の決算を発表します。よろしくお願いします。

まず、毎度お伝えしているところになりますが「株式会社ほぼ日とは」ということをお伝えします。株式会社ほぼ日が何をしているかといいますと、「人々が集う『場』をつくり、『いい時間』を提供するコンテンツを企画、編集、制作、販売する会社です」ということになります。

ここでいう「コンテンツ」は比較的広義の意味を持っていまして、演目(番組・出し物・たのしみ)等々です。クリエイティブの集積(読みもの、キャラクター、画像、イベント、モノのかたちの商品)など、これらすべてがコンテンツであると考えています。

ほぼ日の提供する主な『場』

当社は「場」を作っていますということで、「場」として提供しているものとしては、今は代表的なものでスライドに示した8つがあります。

例えば「ほぼ日刊イトイ新聞」は1998年6月6日に創刊して、オリジナルのコンテンツを毎日更新しています。こちらはおもしろいコンテンツを(提供し)、ここの「場」に来て集まって、「ああ、おもしろいな」と、いい時間を使ってもらうための「場」です。

それから、代表的な売上を作っている「ほぼ日手帳」です。これは手帳というモノを販売しているというよりは、手帳を通じた「場」、自分の人生や、今日1日を手帳に書き込んでいく時間を過ごしたり、それを後になって見返したりして「ああ、いい時間だな」と感じていただく「場」として展開しています。

そのようなかたちで「ほぼ日ストア」「ほぼ日のアースボール」、他にも「ほぼ日の学校」「生活のたのしみ展」「ドコノコ」「TOBICHI」と、いろいろな「場」をご提供しています。

資料の構成

今回決算説明会の構成です。41期の事業報告ということで、まず計数報告をします。それからトピックス、翌期の取り組みというかたちで構成しています。

サマリー

まずは41期(2019年8月期)の事業報告になります。41期のサマリーとしましては、「ほぼ日商品」の売上増が今回の成長を牽引し、1割弱の増収となっています。利益に関しては、前期比で1割強増加して着地しています。「ほぼ日手帳2019」に関しては、販売部数が前年比で7万部増の85万部となっています。

「ほぼ日商品」が売上の増加を牽引しているのですが、こちらはアパレル、なかでも「weeksdays」というブランドが大きく成長しています。それから、レトルトカレー、『岩田さん』という書籍等が引き続き好調に推移しています。以上が2019年の8月期のサマリーとなります。

2019年9月以降の取り組みとしては、引き続き「ほぼ日手帳2020」の販売がスタートしています。11月には、新しい判型である「day-free」という月間の手帳が登場します。

前々回、前回とお伝えしている中国向けの販路に関しては、アリババさまの運営する越境ECプラットフォーム「天猫国際」にて、当社自らしっかり出店していくかたちで販路を変更しています。

あとは、11月に渋谷PARCOでの出店が迫っていますので、その取り組みについてご報告します。

ほぼ日商品売上が貢献、増収増益

まずP/Lの数字です。売上高は54億6,500万円で、前年比でプラス4億2,700万円、比率にして8.5パーセント増で着地しています。「ほぼ日手帳」が31億6,200万円、「ほぼ日商品」が18億8,200万円、その他で4億2,000万円で、増加率でいうと「ほぼ日手帳」が3.3パーセントとなっていますが、「ほぼ日商品」で約3億円弱伸ばしていて、ここが18.7パーセント増と成長を牽引しています。

営業利益・経常利益・当期純利益はそれぞれスライドに示したとおりの数字になりますが、対前期で10パーセント前後の増加となっています。

「ほぼ日商品」の売上高の増加については、スタイリストの伊藤まさこさんと取り組んでいる新しいブランド「weeksdays」等をはじめとして、アパレル・書籍・食品等々が貢献しています。

ほぼ日商品を中心に、直販売上が増加

続いて販路の話になります。販路別の売上高でいいますと、直販の売上が増加しています。「ほぼ日商品」は主に「ほぼ日ストア」というECサイトで販売しているため、「ほぼ日商品」が伸びたため直販も伸びたということです。

もちろん卸販売に関しても海外向けの出荷等々が増加しているので、前期比でプラス1億円となっています。ただ、直販の増加率が高かったため、直販比率は62.4パーセントで、前期比で0.6ポイント増となっています。

海外売上高はアメリカがけん引

地域別の売上高に関しては、全体としては微増となっています。ただ、国内の売上高の伸びの方が大きかったため、売上の比率でいうと16.4パーセントとなり、前期比では0.7ポイント下落するという結果になっています。

もうすこしなかを見ていきますと、お伝えしているとおり中華圏で「ほぼ日手帳」の販売商流を変えているということがあります。

とくに一番関係があるのは、2020年版の手帳の販売についてです。B2Bの卸販路ですと8月に出荷しますので、そちらで計上されて2019年8月期の数字になるのですが、販売商流の整理に伴い「天猫国際」に直営店を出すことになると、実際のお客さまにB2Cで販売したときに売上が計上されるため、そちらは2020年8月期の売上に入っていくことになります。そのようなことがあって、中華圏での売上が減少しています。

中華圏では減少していますが、その他アメリカをはじめとしたエリアでは引き続き伸びていますので、全体としては微増となっています。

貸借対照表は棚卸資産が増加

続いて、B/Sです。棚卸資産が2018年8月期末の8億8,100万円から今期末は13億円弱となり、4億円ほど増加しています。

要因としましては先ほど説明したように、中国向けの手帳の在庫について、2018年8月期のB/Sでは出荷後の数字になっていたのに対して、今期はまだ当社が持っている状態であるということです。それから現在、アパレル等の商品の適正在庫水準の見直しを積極的に進めているため、棚卸資産が増えています。

具体的にいうと、当社のECサイトで販売している商品は、発売日にドーンと売れて、売り切れてなくなってしまうことが続いていて、お客さまからも「買いたかったのに」という声をたくさんいただいていました。

そのようなことがあったため、買いたい人がきちんと買えるぐらいの在庫量を探っていきましょうということで、在庫水準を引き上げながら仕入れを行っているため、今回はこのようになっています。

キャッシュ・フロー計算書

キャッシュ・フローになります。こちらは4,300万円程度マイナスでした。利益は出ていますが、先ほど申したように棚卸資産が増えているため、キャッシュ・フローとしては微減となっています。

2019年版は前年比+7万部の85万部を販売

続いて、41期の事業のトピックスになります。まず、2019年版のほぼ日手帳です。こちらは前年比プラス7万部の85万部となり、引き続き右肩上がりで伸ばせました。

ほぼ日手帳のプロダクト拡充に注力しました。

「ほぼ日手帳」のプロダクト拡充として「ひきだしポーチ」、こちらは16種類から100種類まで増加しました。それから「ほぼ日の方眼ノート」として、トモエリバーなどの仕様をそのままに、日付ページが付いていないノートを発売しています。こちらも好調に推移しています。

東京以外への巡回と、過去最大規模の第4回を開催。

続いて「生活のたのしみ展」についてです。「生活のたのしみ展」は前期に関しては東京以外の場所で開催するということで、大阪は阪急梅田で開催させていただいたりなどしました。

あとは第4回「生活のたのしみ展」です。過去最大規模で開催したいということがあり、なかなか挑戦的な「生活のたのしみ展」が開催されました。

売上規模は前期と概ね同じ水準となりました。

こちらは前回も載せている部分ですが、黄色の部分が今期に実施した「生活のたのしみ展」です。大阪・梅田と、東京・丸の内です。それぞれ、取引数で言うと約3万3,000件と約4万5,000件となりました。

ほぼ日商品では、アパレルが好調でした。

ほぼ日商品に関しては、アパレルが好調でした。ほぼ日ではスタイリストさま、デザイナーさまと一緒に「じぶんたちがほしい洋服」を動機にさまざまなラインナップを企画・販売しています。

ここ数年で立ち上げたラインナップの規模がある程度上がってきまして、今年に関しては、結果的にそちらが業績に貢献したかと思っています。

新ブランド「weeksdays」が好調です。

とくに1番大きかったのは新ブランドの「weeksdays」です。当社で取り扱っている商品は、シーズン物や年に1回のものが多いのですが、こちらはスタイリストの伊藤まさこさんと一緒に商品を企画・販売する衣食住の新しいブランド「weeksdays」です。

「毎日なにか変化のあるお店」というコンセプトで、年に1回とある日に向けて盛り上がって、その日で終わって、しばらくなにもなくなるのではなく、毎日毎日変化があって、かつ毎週何かが販売されるような仕掛けに挑戦しました。

こちらが非常に支持を受けまして、売上に貢献しています。

レトルトカレーの販売は順調です。

レトルトカレーです。キーマカレーを第3弾として発売しまして、引き続き好調に推移しています。

書籍『岩田さん』、3刷7万部。

書籍の『岩田さん』も、3刷で7万部と順調に推移しています。

ドコノコは、BtoBの拡大に取り組んでいます。

「ドコノコ」は、引き続き機能の改善拡充を続けつつ、並行してBtoBでの取り組み等を模索しており、ダウンロード数も少しずつ、少しずつ増えています。

アースボールは来年を照準に開発を継続。

「アースボール」は来年を照準に開発を継続しています。来年の国際的なイベントを見据えて、言語対応や、新商品の開発等を進めている状況です。

「ダーウィン」講座と、オンラインクラス。

古典の学校に関しては、今期は「ダーウィン講座」を開催していまして、トータルで4講座目になります。少しずつコンテンツが貯まってきている状態で、オンライン・クラスも歌舞伎講座もすべてできあがりました。

万葉集講座の配信等も始まっており、着々と増えています。

42期はほぼ日商品が売上けん引する見込み。

翌期の取り組みです。まずは業績予想です。売上高では60億円、営業利益と経常利益は7億円、当期純利益は4億5,000万円と業績予想で出しています。

引き続き、ほぼ日商品の部分が成長を牽引すると予想しています。そのため「ほぼ日手帳」の全体に占める比率を6割から55パーセントまで引き下げられるかと思っています。

ほぼ日手帳2020の販売が始まりました。

トピックスです。「ほぼ日手帳2020」の販売が始まっています。全100種類というたっぷりのラインナップでお送りしています。

11月には新商品「day-free」を販売します。

11月には新しい判型の「day-free」という商品を発売します。オリジナルの1日1ページの手帳、「weeks」という週間手帳に加え、月間のノート手帳として11月1日からの発売を予定しています。

「天猫国際」に出店しました。

中国では「天猫国際」というプラットフォームを通し、自社でしっかりとブランディング及びユーザーとのコミュニケーションを行なっていけるように力を入れています。

こちらに関しては2019年8月時点でテストランしていたのですが、2020年版手帳発売日の9月1日から本格的に出店するというかたちで販売を開始しています。

中国にはW11など、ユーザーとブランドの出会いの機会がとにかく多い日があるので、そこに向けてちゃんと届けられるように準備しています。

渋谷PARCOにほぼ日の場所が「2つ」できます。

渋谷PARCOにほぼ日の場所が「2つ」できます。前回もお伝えしているように「東京の文化案内所」として、ほぼ日が面白いと思うものを紹介する「ほぼ日カルチャん」と、展覧会、ライブ、買い物などさまざまなことが起こるイベントスペース「ほぼ日曜日」という、2つの場所で同時に出店します。

8Fほぼ日曜日のこけら落としは、矢野顕子さん。

8Fでのこけら落としは、矢野顕子さんとのイベントを予定しています。

「できることを、しよう。」ほぼ日の取組み

「できることを、しよう。」ということで、震災の復興などに取り組んでいます。1つは「株式会社気仙沼ニッティング」です。

こちらは次のフェーズに入ったと思っています。具体的には、東北の復興支援の1つとして「気仙沼に事業をお渡しする」という取り組みとして始めました。

2019年の6月をもって、(気仙沼ニッティングは)完全に独立しました。当初の目的に向けて、1つフェーズを進められたかなと思っています。

動物のカバーなど、ほぼ日手帳の一部の手帳カバーから得られた収益を毎年NPO法人ランコントレ・ミグノンへ寄付させていただいていますが、今年も引き続き、約2,000万円の寄付をすることができました。

私からは以上です。続いて、糸井からです。

株式会社ほぼ日の1年

糸井重里氏(以下、糸井):大雑把にいうと、先の準備をすることと、内部を固めることと、この2つに一生懸命な1年だったと思っています。

先の準備に関してはもちろん今まで通りに取り組んでいて、少しずつ良くなることは欠かせないと思ったのですが、大きな一歩を踏み出すために、内部をもう1回固めておく、あるいは仕組みの見直しをしていくことに1年かけて取り組んでいました。

そのため、この1年は、新しい何かを人に問いかけるというよりは、2020年からはじまる「あれだこれだ!」っていうものの準備をしていた1年だったと思っています。

なおかつ、売上や利益を落とさないことが両立できた年だと思っています。当社としては非常に充実した1年だったのですが、外から見るとニュースの数が少なかったのが少し残念に思っています。

「来年に乞うご期待」という準備はすべて整いましたので、楽しみにしていただきたいと思っています。

そのなかでも、多少はわかりやすく変化として捉えられるだろうと感じているのが、中国との関係です。

どこの会社も中国との関係をいろいろ模索し、試行錯誤してきているのはわかっていますが、自分たちもやはりそうでした。向こうから目を付けられるまではダメだろうと薄々思っていましたが、目を付けられる時期がきました。

「天猫国際」に出店するブランドは日本の中でも本当に数少ない大有名ブランドばかりです。その中に「ほぼ日」が選ばれて、手帳の発売がスタートしてすぐに天猫国際店の運営パートナーとなる取組先の方々が日本にきてくださいました。

目を付けられる会社になるということは自分たちでどれだけアプローチしてもできることではなかったのですが、とうとう叶いました。

中国市場に詳しい人たちは相当喜んでいる状態です。僕はその実感がなかなかないので、ラグビーの勝利みたいには一緒にワーワー言えないのですが、なかなか面白いところに差し掛かっていることを教えられています。

「weeksdays」をブランドとして立ち上げていますが、「ほぼ日」の中の1つのブランドです。「weeks」「days」という言葉を並べていますが、カレンダーのような機能をしていて、絶えず新しい商品が出ていき、絶えずその商品についての情報が流れていくという、非常にデイリーにアイディアが提供されていく場所です。

これだけのことを行うのは本当は大変なのですが、組織として取り組む以上に、伊藤まさこさんというスタイリストの方の稀有な実力を信じてスタートしたものなのですが、想像以上にうまく動きました。

もともと、ここにいらっしゃる方は、マーケターの方などとのお付き合いも多いかと思いますが、マーケターが予測した地図のほかに、「感覚的に世の中がどう動いているか」という地図がもう1つある、と当社は思っています。

ほぼ日も「どこがいいのか」ということをマーケット的に眺めたときに、「説明しても普通に見えますがね」などと言われたりするのですが、その部分がいわゆる定性的な調査などと言われていることに近い部分です。

いいものをしっかりと出すということを結果以外で予測するのは非常に難しいのですが、伊藤まさこさんのようなスタイリストの方々、とくに雑貨中心に仕事をしてきたスタイリストの方々は、今は何がいいかを探して、問いかけて、次のステップにまた連れていくという、実は数字に出にくい大きな力を持っています。

かなり前から、有名なタレントがスタイリストを連れて旅に出たりして、自分の服装などもスタイリストの方々が言うとおりにしていたり、趣味までもスタイリストの方のヒントできめている、というようなことがありました。

これは、大統領にスピーチライターが付いているように、「私というものがどう見えるか」についてのブランディングを、本人以外の方々が行っていたという事実だと思います。

そのようななかで、これは大統領のスピーチライターとは違いますが、「今、これがおもしろい」ということを体感して発表できる人たちが、けっこう長い間スタイリストという存在として物を動かしていたわけです。

スーパーバイザーや仕入れ担当の方々にはもっと思惑があるので、「これは安く仕入れられるから高く売れる」などということも全部考えなければいけないのですが、もっとフリーな立場で「これはみんなが喜ぶ」「これは私がとてもいいと思う」ということを前面に出しながら世の中の消費を動かしていく力があるのが、優秀なスタイリストの方々だったと思っています。

そのようなパワーをどこかでほぼ日と重ねてはいたのですが、はっきりとブランドとしてスタートさせたのが「weeksdays」です。生意気なようですが、「やっぱりな」という結果が出ています。

笑っちゃうかもしれませんが、白い消火器などもメニューに入っていたのです。火事のときに使う消火器は、あれ、赤ですよね。みんな「消火器が赤いのは法律で決められている」と思いこんでいるのです。でも、あの赤いのがあるとインテリア的にすごく邪魔なのです。それで、「これ白くすることはできないかしら」と思うのが、伊藤まさこさんの考えです。

調べて掛け合うと、白い消火器はあり得ることがわかるわけです。それで、実際にある数売り出すと、あっという間に白い消火器が売れました。

法律が縛っていたかのように見えるものが自分たちにかけていた不自由や、「嫌だな、こんなのがあって」という気分を1人の女性が思いついたことで変えていける。そのために、ほぼ日が一緒に手を携えて実現する、ということが毎日、毎週のように動いているのが、この「weeksdays」なのです。

これは、ほぼ日のしていることそのものとけっこう相似形なのですが、「雑貨は売れないぞ」とか「もういっそファッションなんだ」とか、いろいろなことを予測的に言ってきたもの以上に具体的に市場を動かしているということが、当社の取り組みの1つのシンボリックなケースだと思います。

今年の動きの1つは、大きいところでは動いていないように見えるが、実は「weeksdays」が大きなシンボルになるであろうということ。もう1つは、向こうから認められて選ばれた「天猫国際」での当社の出店が、2019年という年をよく表現するのではないかなと思っています。

2020年に向けて大きな動きも準備されているのですが、なかなか今は言いにくいのです(笑)。さっきの「天猫国際」のケースとちょっと似ています。「ほぼ日が必要だ」という会社とのBtoBが複数行われています。

自前でのコンテンツ作成に関わっていない会社が、当社のコンテンツを作る能力、人が集まってくれる場所を作る能力、そのようなものを見込んで一緒に取り組むという仕事が、2019年に複数始まっています。

まだ発表されてない部分もけっこうありますが、さっき少しご紹介したとおり、PARCOの開店は11月です。これも、PARCOがこのようなかたちで出ることがわかっていて当社が呼びかけたというよりは、「ほぼ日のようなものが渋谷のパルコに必要だ」と見込まれてお話があったものです。BtoBの動きが当社自身を大きく変えようとしているという、そんな準備体制ができてきたのが、2019年8月期だったと思っています。

年が明けて早々に、いろいろなことがまた発表できるようになるかと思いますが、今は自分たちのサイズのままで仕事を続けることが、ちょっと無理になってきたかなと思っています。

内部の人員体制についても、だいぶ優秀な人がたくさん入ってきてくれるようになりましたし、次の大きさに向けて準備ができかけているのが今の状況だと思っています。

「全部準備なんだよ」と言ってもいいくらいの年だったと思っているのですが、それでも一応、数字的な成長が多少でもあったのは、みんながよくがんばったからだなと考えています。総論としては、こんなことになります。ご質問をよろしくお願いします。

質疑応答:今期の業績の前提について

質問者1:エース経済研究所のサワダと申します。ご説明、ありがとうございました。大きく分けて3点、お願いします。まず1点目ですが、今期の業績について、前提として考えられているところを教えていただきたいと思います。手帳の部数、単価の見通し、また「生活のたのしみ展」が年に数回(開催)というお話でしたが、今見えている範囲内で教えていただければと思います。

糸井:今の生産体制を少し考え直さなければいけない、ということを視野に入れています。手帳そのものは印刷物で、製本したものです。これは大きいメーカーとずっと一緒に取り組んできたものですが、カバーや周辺の商品は、実は手作業が多い商品です。品質を守りつつ、たくさん作るということは、今までの体制ではギリギリだったと思います。

中国の市場が本当に動き出したときに大丈夫なのかというところは、契約する前から心配だったことですが、今は恐らく大丈夫な方向ということで準備している状態です。手帳に関しては、まずその点です。

「生活のたのしみ展」の規模が大きくなるか小さくなるかについては、はっきりと大きくなる側に進んでいます。それは、BtoBのBの方の意思がとても強く働きます。

今まで、広さなどのさまざまな事情でお断りしなければならないお店、出展者、テナントもたくさんあったのですが、もう少し思い切ってできるというつもりで動いています。売り場だけではない「おたのしみ」をお分けしていこうと考えていますので、今までの規模ではない体制を組み直す必要があるかと思います。幸い、ほぼ日の場合は「一緒に仕事をしたい」という応募が多数ありますので、その拡大をあてにはしていますが、非常に楽しいところです。

質問者1:「ほぼ日のアースボール」について、新しい形態を考えられているというお話ですが、差し支えない範囲内でお考えを教えてください。

糸井:(新しい形態は)考えていますが、それも、今までの販売や生産体制の外側の円に届くために行うことです。来年がオリンピックのため、それに合わせた動きだと考えてくださっていいと思います。大きなイベントやスポーツイベントと言いましたが、オリンピックです。

国際的な商品として、そのときが正念場だと思っていますので、いろいろな角度から新しい体制を組みつつあります。

質疑応答:糸井氏が「ほぼ日カルチャん」に期待していることについて

質問者1:続いて、「ほぼ日カルチャん」と、渋谷PARCOさまとの案件について、準備もかなり進んでいるなかで、あらためて糸井さんが期待されていることと、気付いたことや見えてきたことがありましたら、お願いします。

糸井:おもしろいなと思うのは、今、どこも利便性中心に発展している傾向があって、駅ビルは人が自然に来るため、うまくいっているニュースばかりが聞こえてくるのですが、渋谷PARCOさまの決意が、僕らの心を動かすほど大胆で愉快だったんです。

つまり、今までの公園通りの渋谷PARCOを「もう1回、盛り上げてみせる」という決意だけではなく、企画と決意の組み合わせが非常に魅力的に思えたんです。僕らは、そこで最初に声をかけられたグループの1つでしたので、「外から見て、必要とされたんだな」という喜びとともに、ここで(サービスを提供)できるというのは、今までお会いしていなかったお客さまと会うことだと考えています。

ほぼ日は下手をするとファンクラブ体制になりがちなビジネスだと思います。「ファンクラブを超える」ということをいつも考えていたのですが、またいい道筋をもらいましたので、それができるようになるのではないかなと思ってます。

「ほぼ日カルチャん」に関しては、非常に端的に言いますと、例えば博多から東京に来た人が「今日はどこで遊ぼうかな」「何しようかな」と思ったときに、一旦「カルチャん」に行ったら何かが見えてくるのではないか、みたいな(考え方です)。今の観光案内所というものの機能を、「ほぼ日カルチャん」で果たせるのではないだろうかと思っています。今から見られる芝居があるかもしれないし、あるいは美術館のレゾネがこの場所で手に入るかもしれない。お花見の時期であれば、桜の案内ができるかもしれない。

情報と商品とイベントが集積した立体「ぴあ」みたいな(笑)。「ぴあ」は情報だけですが、もう少し……そこに集まった人同士が意見交換できて、おみやげが買えるような場所が「ほぼ日カルチャん」の位置付けです。

だから、「ほぼ日曜日」は、そこで急に料理教室が始まっても大丈夫なわけですし、コンサートもできて芝居もできて、展覧会もできるということです。今まで「TOBICHI」でやってきて、「このサイズだとちょっと手に余るな」というようなことを、渋谷の真ん中でできるいいチャンスだと思いました。

「ほぼ日曜日」は、自分たちが考えていることと、その外側にさらに可能性があるのではないかなと思って、自分たちも楽しみにしています。あとで数字で見たときにどうなるかというのは、そんなにギシギシに計算はしてないですが、渋谷パルコそのものとかなりリンクするかたちで展開していくだろうなということで、ネガティブな覚悟とポジティブな覚悟と、両方(を覚悟)しながら、両方の目で見ながら、僕ら独自のブランディングを作っていくつもりです。

質疑応答:ビジネスカジュアルに対してのアプローチ

質問者2:よろしくお願いします。今、大手銀行などでスーツ着用を廃止してジーンズに転換するというような、いわゆる「ビジネスカジュアル」の潮流が少しずつ見えているところで、とくに「ほぼ日手帳」などにおいては、これから新しくチャネルを開拓したり、あるいはもっと男性比率に対するアプローチをしていくなど、ビジネスカジュアルと結び付くような手帳の変化についてのお考えがあれば、ぜひお教えいただければと思います。

糸井:それについての意識はずっとあります。早すぎても、いつも「弾が届かない」ことになってしまうので、気を付けています。男性の市場というのは僕らにとって、あまり得意な場所ではなかったのですね。女性と同じ比率でビジネスの場所を作ろうとすると、思ったようには動かないです。そして、ほかの会社が男性市場を本気で開拓しようとして、なかなかうまくいっていないのも見ていますので。

男性市場と思われているものの「女性主導の男性市場」だという市場には、僕らの得意科目があります。当社で出している服のカジュアルのブランドのなかに「O2」というものがあったりします。主にカジュアルですが、そこからいわゆるビジネスのユースも視野には入っていますし、「LDKWARE」のように、女性中心だけど男性OK、というノンセクシャルなものも入っています。

ただ、ビジネスの市場については、他社が今取り組んでいることにどうも……ピンとこないので(笑)。もう少し自分たちがピンとくるところがあればそこから入ってくと思いますが、手帳の周辺から男性を開拓するっていうのは、ずっと考えてることです。引き出しポーチなんかはそれの一つとしてアプローチしやすい場所なので、考えています。

あとは「男の物を集めてお店の改変をする」みたいなことは、中では考えています。どうでしょうかね……重心を男性のほうに置くとやっぱり、僕らの苦手なほうに行きそうなので、そこには非常に慎重になっているというのが現状です。

質疑応答:当期純利益の業績予想の理由

質問者2:続けて、大きく3点教えて欲しいのですが、2020年8月期の業績でその他の売上高をマイナスと見ている理由と、当期純利益はほとんど増えず、900万円しか増えないと見ている理由を教えてください。それが1点目です。

鈴木:まず、その他の売上高というところなのですが、下がってるというよりは、前期にロイヤリティー収入のような、そのときだけ突発的に発生するような収入が入っていた分を、今年はその見込みがないので無くしているというものなので、体制に影響のある話ではありません。

それから利益に関しては、営業利益、経常利益は12パーセント弱伸びているが、当期純利益がその伸びに準じていないというところだと思うのですが、具体的に見込んでいるビジネスの1つのところでそのような案件があり、それを織り込んでいるといったかたちになっていまして、そのような歯切れの悪いかたちになります。

レトルトカレーと「weeksdays」の業績への寄与について

質問者2:2点目は、「weeksdays」とレトルトカレーなのですが、この2つは業績にどのように影響があるのでしょうか。ほぼ日商品として計上されるのか、それともその他で入ってくるのですか?

鈴木:どちらもほぼ日商品に入っています。

質問者2:今の補足で、最近はレトルトカレーが順調だと仰っているのですが、順調を示す指標や数字は何かあるでしょうか。

糸井:(数字としては)小さいのですよね。順調といっても、その業界の最大手が苦しんでいるような状態ですから小さいのですよ。だから数字で自慢するよりは、評判で自慢したい時期ですね。

質疑応答:ほぼ日手帳売上高の計画未達について

質問者2:最後に3点目です。「ほぼ日手帳」なのですが、今期は売上高として増えてはいるのですが、計画に対しては1億3,000万円未達でしたね。この理由はなぜかというのと、今期の計画に中国をどのくらい入れているのかというのを教えてください。

鈴木:難しいですね。中国での販売はまだ始まったばかりなので、そこに対してどれほど伸びるかというところはまだ明言できないかなと思っています。販路を切り替えているというところがありますから、2020年8月期に関しては今期並みにいけば、一歩目としてはまずは成功なのかなと思っています。

もう1つ、計画に対してショートしている分についてです。8月に卸先に対してある程度卸していくわけなのですが、そこが少し鈍化しまして、業績予想に対してはその部分が下振れした原因になっています。

なので、2020年8月期のほぼ日手帳の販売に関しては国内の卸先の受注および出荷が少し鈍化し、それが今期の業績予想のなかではその鈍化は織り込んでいなかったのでその分が下がってるといったかたちになります。

質問者2:鈍化した理由というのは何かあるのですか?

鈴木:その卸先が、不調というのはありますね。

質問者2:何か例年にあるような、単価が良かったとか悪かったとか、カバーが売れたとか売れなかったとか、たまたま高いカバーが売れたとか、そのようなことは今期はそれほどなかったということですね?

鈴木:そういうことではないですね。現在は全体的に文房具の市場そのものがそれほどホットなわけではないので、ほぼ日手帳はそのなかでは健闘していますが、雑貨全般に対する景気の良さというものはありません。その意味では、どこにどう卸していても似たようなことになったとは思います。

質疑応答:これまでの仕込みの成果が出てくる時期について

質問者3:エース経済研究所のヤスダと申します。いくつかあるため、1つずつお願いいたします。糸井さんにぜひお願いしたいのが、「仕込みが終わった」というお話はよくわかるのですが、(その成果が)来年出てきたときに、すぐに収益に結び付くようなものなのでしょうか? 成果としてはどれくらいのタイムスケジュールで考えておられるのか、教えていただけますでしょうか?

糸井:今期の業績予想の数字があまり動いていないですが、それに合ったものだと思っています。今までも、ほぼ日に関しては、あまり「ホラ」を吹いてこなかったと思うのですが、今回もそんなつもりでいます。

(成果が)見えてくるのがいつなのかということですが、そんなに遠くない将来だと思います。どの事業も、文化的と言いますか、評判的、ブランド的と言いますか、評価の質に問いかけている部分が大きいため、そこから、今年のようにBtoBの引き合いみたいなものにつながるケースもあります。どこから、何が伸びていくかをまだ言えるような時期ではないというのが本音です。

小さい会社のため、社会全体を揺り動かすような数字の動きというのは作れないのですが、少なくとも「何かが、どう変わった」みたいな、いわばブランディングについての変化は起こせるのではないかなと思っています。

質問者3:そうすると、質的なものが多いということですね。今期の事業計画に入っていないのかなと思っていたのですが、そのような捉え方は間違っているということでよろしいですか?

糸井:(今期の計画に)大いに入っています。ニュース的には随分増えると思います。

質問者3:次に、そのBtoBの評価なのですが、(成果が)出たときにはかなりニュースとして取り上げられて、拡散するだろうと見ておられるということでよろしいでしょうか?

糸井:そのようなものがいくつかあります。

質疑応答:『岩田さん』のKindle以外での展開について

質問者3:2点目ですが、『岩田さん』の本についてです。私は、上場前のときも「早くお願いします」と言っていまして、ようやく本になったのですが、そこで確認したいのが、確かデジタル版がKindleだけの予定になっています。こちらをいつ出されるのでしょうか?

また、現状を考えると、もう少し幅広くデータ書籍化されたほうが、結果につながるように思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

糸井:電子書籍については、他と比べてKindleの分量が圧倒的に多いですので、そこをおさえていれば大丈夫だろうと思っての判断です。いろいろあるようですが、(Kindle以外は規模が)小さいんです。

実物の書籍が、まだまだいろいろなタイミングで売れるカレンダー(計画)になっていますので、そちらを焦るつもりはあまりありません。

海外向けも非常に引き合いが多かったため、そちらの準備もあります。それを考えると、今は着実に……戦略的には、アマゾンの順位で100番台のところにずっといるというようなことを考えていく時期ではないかと思っています。

まだ、これからもニュースはぽつんぽつんと出てきます。

質問者3:最後に、先ほども言ったように昨期は仕込みの時期だったのですが、今期はどういう位置づけをされているのでしょうか?

糸井:仕込みが表面化する部分が出てくるんでしょうね、きっと。人、お金の動き、場所といったように、みなさまに見えやすいところにニュースが作られていくのではないかと

……人はニュースにならないな(笑)。

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