4. 最低賃金と部長級の給与を同じ時間額に置き換えるとどうなるか
最低賃金は時間額、役職別の給与は月額で公表されているため、そのままでは並べられません。
ただし賃金構造基本統計調査は所定内実労働時間数も同じ表に載せているので、月額を時間額に直して比べることができます。
4.1 所定内給与額を所定内実労働時間数で割る
企業規模計で見た所定内実労働時間数は、部長級が165時間、課長級が163時間、係長級と非役職が162時間でした。
それぞれの所定内給与額をこの時間数で割ると、部長級が約3853円、課長級が約3247円、係長級が約2464円、非役職が約1917円になります。
同じ調査の中の2つの項目で割っているので、時間数を仮定で置く必要がありません。
4.2 部長級は最低賃金の約3.3倍、非役職は約1.6倍
令和8年度の全国加重平均1177円と並べると、部長級の約3853円は約3.3倍にあたります。
非役職の約1917円でも約1.6倍なので、最低賃金の改定が直接届く水準からはどの役職も離れています。
最低賃金は時間あたりの下限を定める制度で、役職手当や賞与を含めた処遇を決めるものではありません。改定の影響が及ぶ範囲は、最低賃金額に近い時間額で働いている方に限られます。
5. 所定内給与額には何が含まれ、何が含まれないか
この調査の数字は項目の定義がはっきり決まっているため、定義を押さえておくと自分の給与と比べやすくなります。
5.1 所定内給与額に賞与と超過労働給与は含まれない
所定内給与額は、きまって支給する現金給与額から超過労働給与額を差し引いた額です。賞与は年間賞与その他特別給与額として別に集計されています。
部長級のきまって支給する現金給与額は月64万6200円で、所定内給与額の63万5800円との差である1万400円が超過労働給与額にあたります。
超過実労働時間数は部長級が2時間、係長級が15時間、非役職が12時間でした。部長級は他の区分と比べて、残業として集計される時間がかなり短くなっています。
5.2 「部長級」は調査上の役職区分
この調査の役職区分は、企業内の呼称そのままではなく調査上の定義にもとづいて分類されています。
肩書きが同じでも担当する範囲や権限は勤務先ごとに決まるため、集計値は自分の処遇をそのまま示す額ではありません。
5.3 企業規模は企業全体の常用労働者数で区分される
企業規模の区分は、勤務している事業所の人数ではなく企業全体の常用労働者数で決まります。
支店や工場の人数が少なくても、企業全体で1000人以上なら従業員1000人以上の区分に入ります。求人票の従業員数を見るときは、事業所単位か企業単位かを確かめてみましょう。
6. 部長級の額を自分の給与明細と求人票で確かめる
集計値と自分の額を比べるなら、同じ定義の項目をそろえるところから始めてみませんか。
給与明細では、基本給と諸手当の合計から残業代を除いた額が所定内給与額に近い項目になります。賞与は年間の支給額を合計して年間賞与その他特別給与額と並べます。
求人票を見るときは、月給に固定残業代が含まれているかどうかを確認します。含まれている場合、その分を除かないと所定内給与額とは比べられません。
勤務先の規模が変わると賞与額の水準も変わるため、月給だけでなく年間の支給実績を聞いておくと判断しやすくなります。
7. まとめ
令和7年賃金構造基本統計調査で見た部長級の所定内給与額は、企業規模計で月63万5800円、従業員1000人以上で月80万7600円、10〜99人で月50万6800円でした。
年間賞与その他特別給与額を加えた年収の目安は747万7600円から1376万6900円の幅になり、月額の差より開きが大きくなります。
一方、令和8年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1177円に改定され、令和8年10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定です。役職別の給与を時間額に直すとどの役職も最低賃金額からは離れており、改定の影響が及ぶ範囲は限られます。
8. 著者からの一言コメント
部長級の時間額は約3853円で、最低賃金の全国加重平均1177円の約3.3倍。非役職の約1917円でも約1.6倍です。
役職ごとに並べると、部長級3853円、課長級3247円、係長級2464円、非役職1917円。隣り合う区分でいちばん段差が大きいのは、係長級と課長級のあいだの783円でした。
非役職と最低賃金の差は740円あります。今回の引上げ幅56円で割ると13回分です。毎年同じ幅で上がると仮定した単純計算にすぎませんが、最低賃金が非役職の平均に届くまでの距離は、それくらいあることになります。
ただ、1917円はあくまで平均です。平均の下には、それより低い時間額で働いている方がいます。平均と下限を並べただけでは、改定がどれだけの人に届くのかまでは見えてきません。
私も管理職として働いていますが、自分の給与を時間額で考えたことはありませんでした。月額で示される数字を時間で割ってみると、見え方が変わるところがあります。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
- 厚生労働省「令和8年度最低賃金額答申(全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました)」
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」
中沢 新
