4. 年収と手取りの差は、どこで生まれているのか
申告の判定に使う給与の年間収入金額は、口座に振り込まれる金額とは違います。その差がどこから来るのかを確かめます。
年収と手取りの関係は、LIMOの記事「なぜこんなに手取りが少ないのか?年収との違いはどこで生まれる?「額面の75~85%」という目安のズレを、通勤手当の非課税範囲や社会保険料の上限まで踏み込んで編集部が試算・解説」から要点を借りて確認します。
4.1 年収、所得、手取りは引き算の段階が違う
同記事によると、年収とは1月から12月までの1年間に会社から支給された金額の合計で、税金や社会保険料が差し引かれる前の額面を指します。基本給のほか、残業代や賞与、住宅手当などの各種手当も含まれます。
所得は、年収から給与所得控除という一定の金額を差し引いた後の金額で、税金の計算のベースになると説明されています。そして手取りは、額面の年収から社会保険料と税金を実際に差し引いた後、自分の口座に振り込まれる金額です。
3つは同じ1つの給与から見た引き算の段階が違うだけの言葉だ、というのが同記事の整理です。自分の年収を正確に確認したい場合は、源泉徴収票の支払金額欄を見るのが最も確実だとも書かれています。
4.2 差し引かれるのは社会保険料と税金の6項目
同記事によると、年収から手取りを求めるには大きく6つの項目を差し引きます。社会保険料は健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、子ども・子育て支援金の4種類で、40歳以上は介護保険料も加わります。
税金は所得税と住民税の2種類です。いずれも年収から給与所得控除と各種控除を差し引いた課税所得に税率を掛けて計算するとされています。
つまり手取りは、年収から社会保険料と所得税と住民税を引いたものになるという式です。ネット上でよく見る額面の75%から85%という目安は、この引き算の結果を大づかみにしたものにすぎません。
4.3 通勤手当は所得税では非課税でも、社会保険では報酬に入る
同記事が境界線として挙げているのが通勤手当です。まず税金の側の扱いはこうなっています。
国税庁のタックスアンサーによると、電車やバスのみを利用する通勤手当は、最も経済的かつ合理的な経路・方法で通勤した場合、1か月あたり15万円までは所得税がかかりません。
出所:LIMO「なぜこんなに手取りが少ないのか?年収との違いはどこで生まれる?「額面の75~85%」という目安のズレを、通勤手当の非課税範囲や社会保険料の上限まで踏み込んで編集部が試算・解説」
この15万円は天井の額です。国税庁の説明では、非課税になるのは最も経済的かつ合理的な経路および方法による定期券などの実額で、それが1か月あたり15万円を超えるときに15万円が限度になるという順序です。実額を超えて15万円まで非課税になるわけではありません。
この範囲内であれば、通勤手当は税金上の年収には含まれないという説明です。ところが社会保険の側では扱いが変わると同記事は書いています。
4.4 社会保険の報酬には、広い範囲の手当が含まれる
同記事が引いている日本年金機構の説明は次のとおりです。
ところが日本年金機構は、厚生年金保険の「報酬」に含まれるものとして「基本給のほか、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金等」を挙げています。
出所:LIMO「なぜこんなに手取りが少ないのか?年収との違いはどこで生まれる?「額面の75~85%」という目安のズレを、通勤手当の非課税範囲や社会保険料の上限まで踏み込んで編集部が試算・解説」
標準報酬月額に関するQ&Aでも、事業所の給与規定に定めのある通勤手当は労務の対償として受けるものと認められ、標準報酬月額の対象となる報酬に含まれると明記されている、と同記事は書いています。
機構はこのQ&Aで、通勤手当が数か月分を一括して現金や定期券で支給されるケースが多い点にも触れています。支払上の便宜によるものと考えられるため、3か月を超える期間ごとに支給される場合であっても報酬に含まれる扱いです。6か月定期をまとめて受け取っていても、報酬から外れるわけではありません。
4.5 同じ手当でも、制度ごとに判定が割れる
同記事の結論は、年収に含まれるかどうかは所得税と社会保険という2つの制度で別々に判定されているというものです。同じ通勤手当でも扱いが割れているということになります。
住宅手当や家族手当のように、両方の制度でそろって対象に含まれる手当もあり、通勤手当はやや例外的な位置づけだとも書かれています。
同記事の筆者は、給与明細を項目ごとに見比べる機会は少ないからこそ、こうした境界線は見過ごされがちだと述べています。年に一度くらいは丁寧に読み返す価値があるという提案です。
年収と手取りを同じ意味で使ってしまい話がかみ合わなくなる場面があった、という実務の経験も紹介されています。金額の話をする前に、どちらの数字を指しているのかをそろえておくと後の行き違いを防げます。
5. 【まとめにかえて】申告の判定と、手取りの計算は別の話
前半で見た確定申告の判定に使うのは、給与の年間収入金額です。源泉徴収票の支払金額欄に出ている、税金や社会保険料を差し引く前の額面のほうになります。
一方、手取りは年収から社会保険料と所得税、住民税を引いたものです。通勤手当は所得税では1か月15万円を上限に非課税でも、社会保険の報酬には含まれるため、額面から一律の割合で手取りを逆算すると誤差が出ます。
同じ給与を見ていても、どの制度の話をしているかで含まれるものが変わります。金額の話をする前に、年収と手取りのどちらを指しているのかをそろえておくと、後の行き違いを防げます。
社会保険料の計算に使われる報酬の範囲については、お勤め先の担当部署か年金事務所にご確認ください。
参考資料
- 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」
- 国税庁「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当」
- e-Gov法令検索「所得税法」
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
- 日本年金機構「標準報酬月額の対象となる報酬に、通勤手当は含まれるのですか。」
中本 智恵