地銀の苦境が伝えられていますが、その原因はゼロ成長とゼロ金利だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

地銀が苦戦中

地銀が苦戦しています。地銀というと、地方からの人口流出で苦しいとかAIなどに仕事を奪われそうだとか、色々言われていますが、これは将来の地銀の苦悩を予想したものです。

それに対し、現時点で地銀を苦しめているのはゼロ成長とゼロ金利です。ゼロ成長とゼロ金利は、今後も当分の間地銀を苦しめるでしょうから、問題は深刻です。

ちなみに、メガバンクも同じようにゼロ成長とゼロ金利に悩んでいますが、海外等々で稼ぐことができているので、苦悩の程度が地銀より軽い、ということは言えそうです。

ゼロ成長でビジネスが縮む

一般企業にとって、日本経済がゼロ成長であるということは、売り上げも利益も前年並みということですが、地銀にとっては違います。

一般企業は、ゼロ成長でも一定の利益を稼いでいますから、その中から配当を支払った残りを使って地銀からの借り入れを返済します。つまり、地銀としては、ゼロ成長だと融資残高が減ってしまうのです。

ゼロ成長でも、企業は既存の設備が古くなった分は更新投資を行います。しかし、その分の費用は減価償却で賄われてしまうために、銀行借り入れには繋がらないのです。この点については末尾の初心者向け解説をご参照ください。

ビジネスが縮むことを恐れて、地銀が貸出金利の引き下げ競争を始めると、これも地銀を苦しめることになります。一行だけが金利を引き下げれば、ライバルから客を奪うことができますから、利益は増えるかもしれませんが、各行が一斉に金利を下げると、顧客数が増えずに利ざや(貸出金利から預金金利等を引いた差)が縮小し、その分だけ利益が減ってしまうわけです。

牛丼の値下げ競争であれば、ラーメン等の他業界から顧客を奪ってきて、業界全体として顧客数が増えるという可能性もあるのですが、銀行業はそうした可能性が乏しいでしょう。

また、「金利が0.1%下がったから借金をして設備投資をしよう」という客もいないでしょう。銀行にとっては0.1%は利鞘の大部分かもしれないのに、借り手にとって0.1%の金利は多くのコストの中のごく一部ですから。

金利引き下げ競争がうまく行かないと、銀行が信用力の低い借り手にも貸そうとするかもしれません。これは危険なことです。優良企業向けの金利引下げであれば、利鞘が縮小するだけですが、信用力の低い借り手への融資に手を出すようになると、元本をそっくり失う可能性があるからです。

一部の地銀は信用力の低い借り手に対する貸出を証券化した商品に投資しているとも聞きますが、これは本当に危険です。証券化商品は流動性が低い(売買する人が少ない)ので、一度市場が下がり始めると、「売りたくても買い手がいなくて売れない」といったことにもなりかねないからです。

ゼロ金利で預金部門のコストがそっくり赤字に