9月から10月ごろになると、年明け入社を狙って転職活動を始める人もいるのではないでしょうか? そんな時に気になるのが退職のルールです。退職願を提出するなどの形で会社に退職の意思を伝えたあと、実際に退職できるまでどれくらいの期間を想定しておけばよいのでしょうか。
社内の退職ルールを把握しよう
まずは退職するときの予告期間について法律上のルールを簡単に見てみましょう。
この点では、民法に、期間の定めがない場合は、原則2週間前(月給制の場合は、さらに賃金計算期間の前半)までに申し出ると定められている以外には特に定めはありません。労働基準法でも、会社からの解雇は30日前に予告と定められていますが、社員からの退職申し出期間は定められていません。
実際には就業規則などの社内規程で、「1か月前までに申し出ること」というように定めがある場合が多くなっています。退職手続きについては、まずは社内でどのような決まりになっているのかを確認しましょう。
ちなみに、上記の民法の規定は期間の定めがない場合のケースですので、有期労働契約の場合は、原則としてその期間満了までは退職できません。就業規則の事前申し出も通常は無期雇用のみに適用となっています。以下では、期間の定めがない雇用契約の方を前提に話を進めます。
民法上2週間前と定められているなら、社内でそれ以上前に通知することを定めても従う必要はないのではといった疑問を持つ方も多いと思います。実際のところは業務量や勤続年数などによりますが、会社側も社内での配置転換や新規雇用の必要があることを考えると、実際には2週間で引継ぎを終えるということは、なかなか難しいのが現実です。
人によって退職の動機はそれぞれです。特に職場の人間関係が合わないなどネガティブな動機の場合、退職時期で頭がいっぱいで、まずは「民法では2週間前に伝えればいい」のように、法律的なことを考えがちです。
しかし、自分の退職時期のことばかり考えていては、あまりに自分本位です。こうした考えは、自分の業務範囲を固定して、狭い視野での仕事しかできないなどの形で、転職先でも顔を出すかもしれません。
さらに、最近では自分に代わって退職の手続きをしてくれる退職代行サービスも利用できます。こうした退職代行サービスを利用するにしても、やはりまずは自ら会社に退職の意思を伝えて、退職の時期を協議することが大切です。
会社を辞めるという意思表示をすることは、それなりに勇気がいることです。しかし、辞めるときの交渉も全くせず、あまりに安易に退職できるという思考になっては、「イヤなら、また辞めればいいや」という思考法から転職先でも自分の仕事に責任をもつことは難しくなるのではないでしょうか。
お金をかけてまで退職代行サービスを利用するからには、それなりの理由はあると思いますが、会社と交渉しても、パワハラなどがあり自分でもどうしようもないという段階になってから退職代行サービスを検討するのが、自分のその後のためにも健全な利用方法といえるでしょう。
転職先を探すときも、「内定を受けてから2か月後」というように、引継期間を考慮して転職可能時期を伝えましょう。早く転職したいばかりに、自分の都合だけで転職時期を指定することは避けなければなりません。
円満に退職して、次の職場に気持ち良く送り出してもらうことは、次の職場での成功の必要条件ともいえるでしょう。会社からの必要以上の期間にわたる引き止めに応じることもありませんが、引継ぎまで責任を持ってやる姿勢が、次の職場に行っても半端な仕事をしない業務姿勢へとつながるのではないでしょうか。
法律の前に、業務の引継ぎ期間から考える
会社から引きとめもなさそうで、退職代行サービスを利用するまでもないというようなケースでは、退職願を提出した後、何日で退職できるかということは、2つの視点から考えられます。
一つは法的な視点です。これは既に書いた通り、民法によれば原則2週間前、会社の規程では多くの場合1か月前です。確かに、この期間を守って退職願を出せば、法律上は問題は生じないかもしれません。
ただし、退職する際に、法律うんぬんに頭を持っていく前にまず考えなければいけないのは、もう一つの視点である、業務の引継ぎです。
転職するからにはそれぞれの事情はあるでしょうが、それまで働いてきた会社を、自己都合で辞める段階になって、それまで存在すら気にしたこともないような、法律や規程を持ち出すのは素っ気ないですね。就業規則などの規程を持ち出すのは、会社からの強引な引き止めがあったときなどに留めるのがスマートです。
業務の引継ぎにかかる期間は、転職者本人が一番分かっています。1か月が1つの業務サイクルとなっているなら、引継ぎを完了するのは早くても1か月かかるでしょう。そういった意味では、社内で1か月前に申し出ることといった規定を設けることには意味があります。
さらに後任の選定期間も考慮する必要がありますので、そのために1週間程度かかるでしょう。この際に、後任を新規に採用するとなると時間がかかるので、ひとまず社内で手配するように会社と交渉することも必要です。
業務の引継ぎの視点からは、いつ退職願を出せばよいかといったことは人それぞれですが、早いに越したことはないので、業務の引継ぎに要する期間プラス1か月前には出しておきたいですね。
渋田 貴正