5. エレクトロニクスの営業利益率1.3%と、不動産の47.0%
情報通信以外の4部門を、もう少し丁寧に見ておきたい。1Qの営業利益率は部門ごとに大きく違う。
最も高いのは不動産事業部門の47.0%だ。売上高は28億円しかないが、営業利益は13億円出ている。2026年3月期の通期でも売上高110億円に対して営業利益50億円、利益率44.9%だった。
この収益は、旧深川工場跡地の再開発事業である「深川ギャザリア」の賃貸収入等によるものだと会社は説明している。工場を持っていた会社が、その土地を賃貸資産に変えて回収している形になる。
電線メーカーの中で最も利益率の高い事業が不動産賃貸だという事実は、事業ポートフォリオの見方を少し変える。もっとも売上高の1%にも満たない規模なので、全社の収益性を動かす力までは持たない。
対照的なのがエレクトロニクス事業部門である。1Qの売上高353億円は前年同期比▲10.4%、営業利益4億円は▲73.5%で、営業利益率は1.3%まで落ちた。2026年3月期の通期でも営業利益は前期比▲66.5%だった。
何が起きたのか。2026年3月期の減益局面について会社は、川下でのサプライチェーン問題と競争の激化を挙げている。加えて、新たな製造技術導入による生産性改善の遅れ、タイバーツ高によるコスト増加にも触れていた。
需要側と供給側と為替が同時に効いた構図であり、単一要因の一時的な落ち込みとは読みにくい。回復のきっかけを外部環境に頼りにくい部門だと言えるだろう。
自動車事業部門は1Qの売上高550億円が+24.7%と伸びた一方、営業利益12億円は▲14.5%だった。営業利益率は2.1%である。増収なのに減益という組み合わせは、売価と原価の関係がまだ落ち着いていないことを示唆する。
エネルギー事業部門は売上高436億円が+23.1%、営業利益53億円が+59.2%で、営業利益率12.1%を確保した。2026年3月期の通期について会社は、高採算製品の出荷増加と売価改善を要因に挙げている。
4部門の姿には、増益と減益と横ばいが混在する。連結の営業利益1,048億円という一つの数字を見ているだけでは、この温度差は届いてこない。
6. ROE32.5%はどこから来たのか。過去5期の利益構造の変化
過去5期を並べると、この会社の変化が連続的だったことがわかる。
2022年3月期の売上高は6,704億円、営業利益は383億円だった。営業利益率は6%に届かない水準である。
そこから2023年3月期に営業利益702億円、2024年3月期に695億円、2025年3月期に1,355億円、2026年3月期に1,887億円と積み上がった。4年で営業利益は5倍近くになっている。
売上高は同じ期間で6,704億円から1兆1,824億円へ、+76%の増加だ。売上の伸びより利益の伸びが大きいのは、利益率そのものが切り上がったからである。2026年3月期の営業利益率は16.0%まで来た。
業種の中で見ると、この水準は際立つ。非鉄金属の営業利益率は中央値が6.5%、上位25%の境目でも11.5%だ。16.0%はその上をさらに超える。
資本効率も同じ方向に動いた。ROE(自己資本利益率)は2024年3月期の16.7%から2025年3月期24.4%、2026年3月期32.5%へ上がっている。業種の中央値は9.0%である。
注意したいのは、この上昇が財務レバレッジによるものではない点だ。自己資本比率は2022年3月期の36.1%から2026年3月期には57.8%へ上がった。業種の中央値53.3%を上回る水準である。
借入を増やしてROEを持ち上げたのではなく、利益率の改善だけで資本効率が上がったことになる。分子で稼いだ資本効率だと言い換えてもよい。
ただ、現金1,789億円に対して借入金と社債の合計が1,000億円に届かないという財務が、資本コストの観点で最適かどうかは別の論点だ。負債を使う余地を残したまま資本効率が高いという状態は、利益率の高さが覆い隠している面もある。
キャッシュフローの側も見ておく。2026年3月期の営業キャッシュフローは1,329億円、投資キャッシュフローは▲362億円、財務キャッシュフローは▲1,113億円だった。設備投資は403億円で、増産局面としては営業キャッシュフローの範囲に十分収まっている。
財務側の流出が営業キャッシュフローの8割超に達したのは、借入の返済と配当の支払いが同時に進んだためだ。増産と還元と負債の圧縮を、外部資金に頼らず営業キャッシュフローの中で回している形になる。
7. 一本足の収益構造が抱える論点
ここまで見てきた構造には、当然ながら裏側がある。
2026年3月期の通期決算で会社は、ホルムズ海峡封鎖による物流停滞や、原材料の供給不足と価格上昇の懸念を挙げていた。そのうえで、現時点では業績予想に織り込んでいないとしている。
つまり引き上げられた通期予想4,320億円は、供給側のリスクを織り込まない前提で組まれた数字である。需要が続く限りは無理のない水準だが、供給が詰まったときの下振れ余地は残る。
もう一つの論点は利益率の維持だ。情報通信の営業利益率は1Qで37.1%に達した。2026年3月期の通期では23.4%だったので、四半期ベースで13ポイント以上上振れている。
需給が締まっている局面の数字と読み取るのが自然だろう。増産投資が立ち上がり、供給が追いついた先で同じ利益率が続くかどうかは、まだ確かめられていない。
PBR14.95倍という水準は、この利益率がある程度続くという前提の上に立っている。前提が揺らいだときに株価がどう反応するかは、8月中旬から9月初めの下げが一度見せたところだ。
需要の強さと収益の集中を、同じ材料の表と裏として同時に見る姿勢が要る局面である。データセンター関連という一つのラベルで括って判断しないよう注意したい。
8. 筆者コメント
この会社の立ち位置が変わろうとしている途中だという点に、私は最も関心がある。
5期前は営業利益率が6%に届かないメーカーだった。それが4年で二桁台後半へ上がり、資本効率も業種の水準を大きく上回った。この変化を需要環境の恩恵という一言で片づけると、見落とすものがある。
見落とすのは、変化が特定の1部門でしか起きていないという点だ。他の部門の営業利益率は5期前とさほど変わらないか、むしろ下がっている。会社全体が生まれ変わったのではなく、会社の一部だけが別の産業に移った、という見方もできる。
この見方に立つと、次に確かめるべきものが変わってくる。連結の増益率ではなく、情報通信の利益率が増産後にどこへ着地するか。そして残る4部門が、その間に自力で利益率を戻せるかどうかだ。
株価の水準を作っているのは前者だが、会社の実像を決めるのは後者だと私は考える。株価が反応する材料と、会社の中身が変わる材料を、別の物差しで整理する姿勢が求められる局面だ。
参考資料
9.1 免責事項
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石津 大希