1. 家具チェーンという看板と、貸借対照表に出てくる別の顔
私はしばらく、この会社を「安くて悪くない家具を並べている店」として見ていた。社名から連想するのは売り場であって、工場や物流拠点ではない。
ところが2026年3月期通期の数字を開くと、総資産1兆5,712億円のうち9,090億円が有形固定資産である。比率にして6割近く。うち土地だけで4,658億円を持つ。
小売業に分類される258社の中央値を見ると、総資産回転率は1.50回だ。ニトリホールディングスは0.58回で、中央値の4割弱にしかならない。同じ資産で同じ回数だけ商品を売り切る商売ではない、ということである。
会社は自らのモデルを「製造物流IT小売業」と呼んでいる。スローガンとして流し読みしてしまいそうな言葉だが、貸借対照表の形はその言葉のとおりになっている。
ここで面白いのは、この重さが不利に働いていないという点だ。営業利益率は13.8%で、小売業の中央値3.7%の3倍を超える。回転が遅く、利益率が高い。小売業の平均像とは逆の組み合わせだ。
2. 粗利率53%と総資産回転率0.58回。垂直統合はどこに出ているのか
2026年3月期通期の売上収益は9,122億円で前期比▲1.8%。売上原価4,268億円を引いた売上総利益は4,854億円で、粗利率は53.2%になる。
小売業の粗利率中央値は46.0%だから、7ポイントほど上に出ている。安さを売りにしている会社が、仕入原価の比率では業種平均より軽い。矛盾しているように見えて、垂直統合ではむしろ自然な結果だ。仕入れの前の工程を自分の側に取り込めば、外部に払う原価は減り、そのぶんが粗利益に残る。
ただし、取り込んだ工程のコストはどこかに出る。販売費及び一般管理費は3,637億円、売上収益に対して39.9%という重さだ。
この販管費の中身が、構造をもう一段はっきりさせる。有価証券報告書の販管費明細で開示されている広告宣伝費は241億円で、販管費全体の1割にも届かない。残りの大部分は人と物流と店舗を回すための費用ということになる。
会社の説明も同じ方向を向いている。2026年3月期3Q累計の短信では、原価低減の手段として原材料から自社で製造する体制の整備や最新設備の導入を挙げ、製造から販売までを一貫して担う強みを活かした商品パッケージの小型化による輸送コスト削減にも触れている。会社が言う一貫体制は、粗利率と販管費率の両方を同時に押し上げる構造だ。
棚卸資産の持ち方も、店売りの会社としては独特である。期末の棚卸資産は1,221億円で、売上原価に対する回転日数は104日を超える。3か月以上の在庫を抱えて商売をしているわけだ。自社で作り、自社の物流網で運ぶなら、船と倉庫の上に在庫が乗っている時間はそれだけ長くなる。
資産の重さは時系列でも増している。有形固定資産は2024年3月期の8,140億円から2026年3月期の9,090億円へ。棚卸資産も1,055億円から1,221億円へ積み上がった。
在庫が滞留する日数も、同じ3期で87.7日から104.5日へ伸びた。総資産回転率はその間に0.64回から0.58回へ下がり、減価償却費は年695億円に達している。設備と在庫を抱える度合いが、年を追って強まっている。
「小売業は薄利多売で、資産を軽く速く回す商売」という一般的な見方と、この会社の数字は噛み合わない。だが両方が同時に成り立っているとも言える。ROEは9.4%で小売業中央値7.4%を上回り、自己資本比率62.9%も中央値48.3%より厚い。回転の遅さを利益率で補って、結果として資本効率では業種の上位に出ている。
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出所:株式会社ニトリホールディングス 有価証券報告書をもとに筆者作成
3. 1カ月で最も高い終値をつけた株価と、PER21倍という値段のつき方
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出所:各種資料をもとに筆者作成
株価に目を移す。8月10日の終値3,100円から、8月18日には2,904円まで下げた。直近1カ月では最も低い終値である。
そこから8月下旬に3,000円台を回復し、8月31日は3,048円、9月2日は3,021円と3,000円台の前半で足踏みしていた。
動いたのは9月3日だ。前日から8%を超えて上昇し3,275円で引けた。9月4日3,254円、9月7日3,216円と一度は上げ幅を吐き出したが、9月8日は3,392円まで買われた。前日比では5%を超える上昇で、直近1カ月では最も高い終値になる。
1カ月の起点3,100円と比べれば1割弱の上昇だ。ただ、この間に決算の開示はない。1Qの内容が改めて見直された、相場全体の資金の向きが変わった、といった見立てはいずれも成り立つが、どれか一つに帰せる材料が開示ベースで見当たらないのが実情である。株価の理由を単一の要因で言い切らないほうがいい局面だ。
9月8日時点のPER(株価収益率)は21.06倍、PBR(株価純資産倍率)は1.9倍である。PERは2027年3月期の会社予想である1株当たり利益161円05銭に対する倍率だ。
会社の通期予想は売上収益9,570億円で+4.9%、営業利益1,303億円で+3.8%、当期利益910億円で+1.9%となっている。1桁の増収増益を前提にした予想に対して、20倍台前半という倍率がついている形だ。
PBR1.9倍という水準は、有形固定資産9,090億円という簿価の厚みの上に乗っている点も見ておきたい。土地と建物を大量に持つ会社の純資産は膨らみやすく、同じPBRでも軽い会社とは意味合いが違ってくる。
4. 筆者コメント
業界内での立ち位置に照らすと、この会社の数字はかなり珍しい形をしている。利益率では小売業の上位に入り、資産の回転では下位に沈む。この二つが同時に起きる企業は、小売業の中では多くない。
むしろ製造業の並びに置いたほうが自然に見える。重い設備を抱え、そのぶん原価を内部化して利益率を確保する。教科書的な垂直統合の姿だ。
そう考えると、市場がつけている倍率は「小売の平均像」に対する評価ではないのかもしれない。回転の遅さを織り込みつつ、内部化された原価が守る利益率のほうを見ている、という読み方はできる。
ただし回転の遅さは、投下した資本が戻ってくるまでの時間が長いということでもある。売り場を1つ増やすたびに土地と建物と在庫が増える設計なら、成長のたびに資本効率は重くなる。この会社を見るときは、店舗数の増減よりも、増えた資産がどれだけの利益を連れてきたかに目を向けることをおすすめしたい。