2026年5月29日、医療保険制度を見直す法律が成立しました。

「健康保険法等の一部を改正する法律案」が同日に成立し、厚生労働省が4つの見直しを示しています。

高額療養費に年単位の上限を新設すること、後期高齢者医療制度で金融所得を公平に反映させること、OTC類似薬の薬剤給付を見直すこと、妊娠・出産への支援を強化することの4点です。

この記事では改正の4項目を確認したうえで、後期高齢者医療制度の窓口負担と高額療養費の現在の仕組みを見ていきます。

1. 令和8年5月29日成立の医療保険制度改正。4つの見直し

医療保険の給付と負担が見直されることになりました。

厚生労働省によると、「健康保険法等の一部を改正する法律案」が令和8年5月29日に成立しています。

1.1 改正の狙い

まず全体の方向です。

この法律などによる医療保険制度改革は、将来にわたり医療保険制度を持続可能なものとしていくために行われるものだと説明されています。

具体的には、現役世代を中心に保険料負担の上昇を抑制しながら、全世代を通じて医療保険制度に対する信頼や納得感を維持・向上させる観点から、給付と負担の見直しを行うとされています。

高額療養費の年間上限の新設、金融所得の反映、OTC類似薬の見直し、妊娠・出産支援の強化の4項目1/5

令和8年5月29日に成立した医療保険制度改正の4つの見直し項目を整理した図

出所:厚生労働省「医療保険制度改正法が成立しました」をもとにLIMO編集部作成

1.2 高額療養費に年単位の上限が新設される

1つ目は高額療養費の見直しです。

高額療養費の月単位の自己負担は、将来にわたり制度を維持するため、医療費の伸びや所得に応じて負担することになります。

そのうえで、医療費の自己負担について新たに年単位の上限額が設けられます。月ごとの自己負担額が積み上がっても、年間の上限額に達した後はそれ以上の医療費の支払いは不要になるという仕組みです。

長く治療が続く方にとっては、月の上限に加えて年の上限が入ることで見通しが立てやすくなります。

1.3 後期高齢者医療で金融所得が反映される

2つ目は所得の見方の見直しです。

上場株式の配当等の金融所得は、確定申告の有無によって窓口負担割合や保険料が変わる場合があります。

後期高齢者医療制度の窓口負担は所得に応じて1割から3割となっているため、こうした不公平の解消が必要だとされています。

配当を受け取っている方は、確定申告のしかたによって医療費の負担割合が変わることがある、という論点です。

1.4 OTC類似薬と妊娠・出産支援

残る2つも押さえておきます。

3つ目はOTC類似薬の薬剤給付の見直しです。保険を使って医療用医薬品の処方を受ける場合と、保険を使わずOTC医薬品で対応する場合の公平性を踏まえ、日常的な医療に用いるOTC医薬品でも代替可能な医療用医薬品の保険給付の範囲が見直されます。

4つ目は妊娠・出産に対する支援の強化です。妊娠・出産にかかる費用の見える化をさらに進め、出産の標準的な費用に自己負担がかからないようにするとされています。ここでいう標準的な費用からは、手術などが必要になった場合の追加負担と、希望により選択するサービスは除かれます。

なお厚生労働省のページには各項目の施行時期の記載がありません。いつから変わるのかや年間上限の具体的な額は、同省が公表している項目別の資料と今後の案内で確認してください。

なお、後期高齢者医療制度の窓口負担割合や高額療養費制度に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。

【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説 要注意!医療費は「夫婦で半分ずつ」にはならない──窓口負担《1・2・3割》の早見表&資金計画のヒント
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【75歳以上】夫婦の生活費・年金の実態!後期高齢者医療制度の負担割合と高額療養費制度の活用法 月2.7万円の赤字《医療費リスクへの備えが家計を分ける分岐点に》
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2. 75歳の誕生日で自動的に切り替わる後期高齢者医療制度

後期高齢者医療制度の仕組みは、LIMOの記事「【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説」から要点を引いて押さえます。

後期高齢者医療制度は、75歳以上の方を対象とする公的医療保険制度です。原則として75歳の誕生日を迎えると、それまで加入していた健康保険の種類や就労状況にかかわらず、自動的に後期高齢者医療制度へ切り替わります。

また、65歳から74歳までの方でも、一定の障害認定を受けた場合は、本人の申請によって後期高齢者医療制度へ加入することができます。

制度へ移行する際は、原則として本人が特別な手続きを行う必要はありません。ただし、2024年12月に紙の健康保険証は廃止されており、新たに「保険証」が交付されることはありません。

2026年8月1日以降は、マイナ保険証の利用状況などに応じて、加入時に「資格確認書」または「資格情報のお知らせ」のいずれかが市区町村から送付されます。

85歳以上の人には利用状況にかかわらず資格確認書が交付され、84歳以下でマイナ保険証を普段から利用している人(過去1年間に6回以上、かつおおむね直近3か月以内に利用実績がある人)には資格情報のお知らせが、それ以外の人には資格確認書が交付されます。

なお、資格情報のお知らせは単体では受診できず、マイナ保険証と併せて使うものです。

出所:LIMO「【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説」

移ったあとに窓口で払う割合は、人によって違います。

後期高齢者医療制度へ切り替わると、医療機関で支払う窓口負担は一律ではありません。

世帯の所得や住民税の課税状況などに応じて、1割・2割・3割のいずれかの自己負担割合が適用される仕組みとなっており、その違いによって実際に支払う医療費にも大きな差が生じます。

出所:LIMO「【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説」

2.1 軽くなる面と重くなる面

制度が変わると、良くなる部分と重くなる部分の両方が出ます。

  • 現役世代(3割負担)と比較して、多くの人が窓口負担を1割または2割に抑えられる。
  • 高額療養費制度の自己負担上限額が低い水準に設定されており、長期入院などの重い医療費リスクに対応しやすい。
  • 「社会保険の被扶養者(家族の扶養)」になれず、75歳以上の全員に独立した保険料の負担が発生する。
  • 一定以上の所得があると、段階的に窓口負担が2割、3割と引き上げられる。

出所:LIMO「【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説」

2.2 均等割額と所得割額の合計で決まる

保険料がどう計算されるのかも見ておきます。

後期高齢者医療制度の保険料は「全員が等しく負担する均等割額」と「所得に応じて負担する所得割額」の合計で計算され、都道府県ごとに金額が異なります。

近年は急激な高齢化による医療費増大の財源を確保するため、2024年度(令和6年度)から2025年度にかけて所得割率の引き上げや、保険料の年間賦課限度額(上限額)の段階的引き上げが実施されました。

出所:LIMO「【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説」

3. 1割・2割・3割はどの基準で分かれるのか

自己負担割合は所得の水準で3区分になります。

後期高齢者医療制度では、医療機関で支払う自己負担割合は、被保険者の所得水準に応じて3つの区分に分けられています。判定は世帯単位で行われ、次のいずれかの割合が適用されます。

出所:LIMO「【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説」

後期高齢者医療制度「窓口負担割合」の判定基準3/5

後期高齢者医療制度「窓口負担割合」の判定基準

出所:政府広報オンライン「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?」

3.1 3つの区分の要件

区分ごとの要件を並べます。

1割:標準的な所得水準の人

下記の2割、3割に該当しない場合

2割:一般所得者のうち一定以上の所得がある人

次の①と②の両方に該当する場合

  • ①同じ世帯の被保険者の中に課税所得が28万円以上の方がいる。
  • ②同じ世帯の被保険者の「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が以下に該当する。

・1人の場合は200万円以上 ・2人以上の場合は合計320万円以上

3割:現役世代並みの所得がある人

同じ世帯の被保険者の中に課税所得が145万円以上の方がいる場合

上記に加えて、以下の収入等の要件を満す人。

  • 世帯内に被保険者が1人の場合:被保険者の収入金額の合計が383万円以上
  • 世帯内に被保険者が2人以上の場合:被保険者全員の収入金額の合計が520万円以上
  • 世帯内に被保険者が1人で、かつ70歳以上75歳未満の人がいる場合:被保険者と70歳以上75歳未満の人の収入金額の合計が520万円以上

出所:LIMO「【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説」

3.2 毎年8月に判定が見直される

一度決まった割合が固定されるわけではありません。

なお、窓口負担割合は、被保険者本人だけでなく、同じ世帯にいる後期高齢者全員の所得状況をもとに判定されます。

判定は毎年8月に定期的に見直されるほか、所得情報の変更や世帯構成に変化があった場合にも、その都度あらためて判定が行われます。

実際の自己負担割合は、後期高齢者医療資格確認書に記載されています。紙の資格確認書を利用している場合は、記載内容を見ることで現在の負担割合を確認できます。

一方、マイナ保険証を利用している場合は、マイナポータルから負担割合を確認できます。受診前に確認しておけば、おおよその医療費負担を把握したうえで医療機関を利用しやすくなるでしょう。

出所:LIMO「【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説」