9月は「防災の日」がある月で、備えているものを一度見直そうという話題が増えます。水や食料の点検と同じように、手元に置いておくお金の量も、この時期に確かめておきたいものの一つです。
役職が一つ上がれば、毎月の賃金は上がります。ところが、現場の仕事を抱えたまま管理職を務める人が多い今、増えた収入をどう配置するかを考える時間のほうは、先に足りなくなっていきます。
資産運用を検討している場合、時間が取れないときに大切なのは値動きのない形で手元に置いておく「生活防衛資金」です。この資金があると、収入が一時的に止まっても、積み立てているものを崩さずに済みます。忙しい世代ほど、担う役割は大きくなります。
ここでは役職ごとの賃金と年収、そして管理職が実務にどれだけ時間を取られているのかも確かめます。
なお、役職別の賃金と年収に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 部長・課長・係長の賃金と年収は、毎月の暮らしをどこまで支える水準にあるのか
役職ごとの金額をまとめて見ておきたい方は、中間管理職はいくらもらっている?【年収一覧表】部長と課長、係長の年収はいくらか。プレイングマネージャーは9割「マネジメントにさける時間」を民間企業等と行政・自治体別にみるを参考にご覧ください。
参照するのは、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の役職別データです。手元にいくら置いておくかを考えるには、まず毎月いくら入ってくるのかを押さえる必要があります。月額、年収の順に確かめていきます。
1.1 税引き前の「所定内給与」は、役職ごとにいくらと出ているのか「男女計・男女別」
所定内給与とは、6月分のきまって支給する給与から残業代などを差し引いた、税引き前の金額のことです。役職別の平均は次のとおりです。
【役職別の平均賃金(月額の所定内給与)】
- 部長:男女計 63万5800円(男性 64万2400円/女性 57万8300円)
- 課長:男女計 52万9200円(男性 54万1400円/女性 47万300円)
- 係長:男女計 39万9200円(男性 41万900円/女性 36万5700円)
- 非役職者:男女計 31万500円(男性 33万2100円/女性 28万100円)
この金額は残業代を含みません。忙しい月の総支給額をそのままこの平均と並べると、実際より多く受け取っているように見えます。手元に置く額を決めるときに基準にしたいのは、忙しい月の入金ではなく、どの月にも入ってくる部分のほうです。その意味で、残業代を除いた所定内給与は、暮らしの土台を測るのに向いた数字だといえます。
男女別も並べておきます。部長は男性が64万2400円、女性が57万8300円で、男女計の63万5800円は男性側に寄った位置に来ています。男女計の数字は、それぞれの人数がどれだけいるかによって位置が動きます。自分の給与と見比べるときは、男女別の金額もあわせて置いておくと、位置関係がつかみやすくなります。
1.2 賞与を年4か月分と仮定した年収の目安は、役職ごとにいくらになるのか「男女計」
この月額に、賞与を年4か月分と仮定して足すと、年収の目安は次のようになります。
【役職別の平均年収(賞与を年4か月分と仮定・男女計)】
- 部長:約1017万円
- 課長:約847万円
- 係長:約639万円
- 非役職者:約497万円
金額に「約」が付いているのは、賞与を年4か月分と置いた計算だからです。何か月分が出るかは勤め先の制度や業績によって決まり、支給が見送られる年もあります。ここに並ぶ数字は、月額の開きが年間でどれくらいの幅になるのかを見るための目安として扱うのが妥当です。
手元に置く額を考えるうえで押さえておきたいのが、この年収のうち賞与にあたる4か月分は、毎月入ってくるわけではないという点です。年収の目安を12で割った金額を暮らしの基準に置くと、賞与が入る月の余裕を、入らない月の水準として数えてしまいます。生活費の月数を数えるときは、賞与を含めた年間の総額から入るのが分かりやすくなります。
全体の水準も挙げておきます。国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」(2025年9月公表)による平均給与は478万円です。ここに挙げた役職別の年収は、いずれもこの水準を上回ります。ただし478万円は1年を通じて勤務した給与所得者の平均で、役職別の統計とは調べ方も対象も違います。同じものさしに乗せた比較にはなりませんが、どのあたりに位置しているのかという見当は付きます。
非役職者を1として月額を並べ直すと、部長はおよそ2.05倍、課長は約1.7倍、係長は約1.29倍にあたります。倍率だけを取り出せば、役職に就くことは収入の面では報われるようにみえます。ただし、手元に置いておきたい額のほうも、暮らしの水準に合わせて同じように大きくなります。
同じ年収でも、住まいや家族の形が違えば、1カ月に出ていく額は変わります。年収の一覧は、自分の位置を確かめる材料としては役に立ちますが、手元に置く額そのものは、そこからは出てきません。
2. マネジメントに専念できているのは13.2%という調査結果を、家計の側からどう読むのか
一般社団法人日本経営協会が2026年7月に公表した「第8回 日本のミドルマネジャー意識調査」(部下を持つ課長〜部長級539名・2025年10〜11月)によると、プレイヤーとして自分の実務も兼ねている人は86.8%にのぼりました。マネジメントに専念できているのは13.2%です。
13.2%という数字は、部下を持つ立場になっても、自分の担当業務が手から離れている人はごく一部だということを示しています。役職が上がった分だけ責任は増え、そのうえで現場も回している。そういう働き方が多数派だという読み方になります。
マネージャーに割ける時間の割合をみると、最多は民間企業等が4~6割で36.3%、行政・自治体は7~9割が35.0%でした。同じ管理職でも、現場を抱える度合いは働く場所によって差があります。
業務負担の変化を「増えた」と答えた人は51.0%、最大の悩みとして挙げられたのは「部署の人材不足」で50.3%でした。人が足りないから自分も現場に立ち、立つから負担が増える。この形は、個人の工夫だけで抜け出せる範囲を超えています。
その一方で、仕事の充実感を「十分ある」「それなりにある」と答えた人は、合計で70.5%にのぼります。負担が重いことと、手応えがあることは同時に成り立ちます。外から言われる評判をそのまま受け取らず、自分の適性や希望に照らして考えたいところです。
これからも管理職を続けるために必要なこととして最も回答が多かったのは「生活(プライベート)の安定」(39.9%)です。勤務時間の外側にある暮らしの部分が落ち着いているかどうかが、続けられるかどうかに効いているという読み方になります。
この結果を家計に置き換えると、毎月の値動きを追いかけて判断するやり方は、この時期の働き方には合いません。相場を見る時間が取れない前提に立つなら、見なくても成り立つ部分、つまり値動きのない形で手元に置いておく分を先に決めておくほうが無理がありません。
3. 生活防衛資金は、貯蓄や投資と何が違うお金なのか「役割と置き場所」
生活防衛資金とは、収入が一時的に止まったり、まとまった支出が急に出たりしたときに、暮らしをそのまま続けるために取り分けておくお金のことです。将来のために増やすお金とも、使う時期が決まっている貯蓄とも、役割が分かれています。
違いは、使う場面が読めるかどうかにあります。教育費や住まいの費用は、いつごろいくら要るのかが事前に見当を付けられます。一方で生活防衛資金は、いつ要るのかも、要らずに済むのかも分かりません。だから、いつでも動かせる形で置いておく必要があります。
資産運用を検討している場合、この区画を先に取り分けておくと、残りの部分の扱いが決めやすくなります。手元の分が確保できていれば、残りは当面使わない前提で置けるので、値動きに合わせて動かす必要がなくなります。逆に、生活防衛資金が無いまま全体を運用に回すと、お金が要る場面と相場が下がる場面が重なったときのリスクが高まりやすくなると言えます。
4. 時間が取れない時期に、手元へ置く月数をどうやって決めていくのか
生活防衛資金の量は、金額ではなく月数で数えるのが分かりやすくなります。毎月の生活費の何カ月分を置いておくか、という形です。月数で持っておくと、収入や暮らしの水準が変わったときにも、そのまま掛け直すだけで済みます。
月数の目安は、収入がどれくらいの期間で戻る見込みなのかによって変わります。給与が毎月安定して入る勤め方であれば短めでも回りますし、収入の入り方に波がある場合や、次の勤め先を探す期間が読めない場合は、厚めに見ておく意味があります。管理職として現場も抱えている時期は、働き方が変わる場面に出会いやすいぶん、後者に近い置き方をしておくのも選択肢の1つです。
ここで手が止まりやすいのが、毎月いくらで暮らしているのかを把握していない場合です。忙しい時期が続いた方ほど、家計簿を付ける習慣は途切れがちです。それでも、直近のひと月分の引き落としと支払いを書き出せば、おおよその額は出せます。1円単位まで合わせる必要はなく、月数を掛けられる程度の精度があれば足ります。
もう一つ、月数を数えるときに使う「生活費」には、毎月出ていくものだけでなく、年に数回まとまって出ていくものも含めて考えます。保険料や税金のように、月ごとではなく年単位で請求されるものは、年額を12で割って毎月の額に均しておくと、月数の計算が実態に近づくでしょう。
「ふつう」のシニアは年金を月いくらもらってる?60歳代以上の平均額と、無職世帯のリアルな家計収支を公開では、収入が年金だけになったあとの平均的な受給額と、毎月の家計がどんな収支の形になるのかを取り上げています。
5. 【独自試算】年収約497万円・約639万円・約847万円で、生活費6カ月分の目安額はそれぞれいくらになるのか
年収の水準が変わると、手元に置いておきたい額はどこまで動くのでしょうか。記事で挙げた年収の目安を使い、生活費6カ月分にあたる金額を置いてみます。金額そのものより、水準ごとにどれだけ幅が出るのかを見るための試算です。前提は次のとおりです。
- 年収は下敷きの目安額をそのまま使い、非役職者 約497万円・係長 約639万円・課長 約847万円の3つで置く
- 手取りは額面の8割とする(税・社会保険料の率は勤め先や年によって変わるため、概算として置いた数字)
- 賞与を含む年間の手取りを12で割り、1カ月あたりの手取りとする
- 毎月の生活費は、その手取り月額から2割を貯蓄・積立に回した残り(=手取り月額の8割)とする
- 生活防衛資金は、その生活費の6カ月分とする
- 住居費の内訳、家族構成、年に数回まとまって出ていく支出の偏りは計算に入れない。1円未満は切り捨て
①1カ月あたりの手取りと、そこから置いた生活費
- 非役職者 約497万円:年間の手取り 397万6000円 → 月 33万1333円 → 生活費 26万5066円
- 係長 約639万円:年間の手取り 511万2000円 → 月 42万6000円 → 生活費 34万800円
- 課長 約847万円:年間の手取り 677万6000円 → 月 56万4666円 → 生活費 45万1732円
②生活費6カ月分の目安額
- 非役職者 約497万円:26万5066円 × 6カ月=約159万396円
- 係長 約639万円:34万800円 × 6カ月=約204万4800円
- 課長 約847万円:45万1732円 × 6カ月=約271万392円
③試算した3つのうち、いちばん低い水準といちばん高い水準の差
- 271万392円 - 159万396円=約111万9996円
④毎月2割を取り分けたとき、6カ月分がそろうまでの月数
- 非役職者 約497万円:毎月 6万6267円 → 約24カ月
- 係長 約639万円:毎月 8万5200円 → 約24カ月
- 課長 約847万円:毎月 11万2934円 → 約24カ月
年収の水準が上がるほど、置いておきたい額も上がります。非役職者と課長のあいだには約111万9996円の開きがあり、同じ「6カ月分」でも、そろえるべき金額は水準ごとにまるで違います。年収が上がったのに手元の額を据え置いたままだと、月数のほうは静かに減っていくことになります。
一方、④のように取り分ける割合をそろえると、そろうまでの月数はどの水準でもおよそ24カ月で並びます。生活費を手取りの8割と置いたので、6カ月分は取り分ける額の24倍にあたり、年収が変わっても比率は動かないためです。金額の大きさに気を取られなくても、割合を決めれば期間の見通しは立てられる、という形になります。
これらはいずれも約であり目安で、この金額になることを保証するものではありません。手取りを額面の8割、生活費を手取りの8割と置いたのは計算のための仮の数字で、実際の割合は勤め先の制度や家族の形によって変わります。生活防衛資金として置く分を値動きのある形に移すと元本割れが起こることもあるため、この区画は額が動かない形で持つという整理をしています。税や社会保険料の引かれ方はご自身の給与明細と源泉徴収票で、控除や申告の扱いは税務署の窓口で確かめていただきたいところです。

