6. 50歳代に多い「積立の比率が崩れてきたが、戻すべきか分からない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・中島 卓哉が伝えたいこと
50歳代は、積立を何年か続けてきた結果が残高としてはっきり見えてくる時期です。増えた資産と、増やさずに置いてきた預金の割合は、始めたときに決めた配分から少しずつ離れていきます。前半でみたように、同じように働いてきた人の間でも、受け取れる金額の水準にはかなりの幅があります。比率をどう整えるかという問いは、教科書どおりの正解を当てにいく話ではなく、自分がその幅のどこにいて、いくら上乗せしたいのかで答えが変わります。ここでは、50歳代の方に多いご相談として整理してご紹介します。
6.1 50歳代に多いお悩み相談は「積立と預金でひととおりそろえたあと、崩れてきた割合を戻すべきか分からない」

積立をひととおりそろえたあと、割合が当初の配分から離れていくのを見ながら手を止めてしまう。同じ年代に共通して起こりやすい迷いとしてご覧ください。
6.2 【ファイナンシャルアドバイザー・中島 卓哉が回答】戻すかどうかは、自分の現在地と必要な上乗せの大きさから決まる
6.3 ポイント1:足りているかどうかを見える形にして、自分の現在地を先に確かめる
割合の話に入る前に、必ず先に済ませていただくのが、この先の家計を数字にして見える形にすることです。今の収入と支出、これから受け取れる公的年金の見込み、すでに持っている資産と積立のペースを並べて、何歳の時点でいくら残るのかを一本の線にします。これをやると、「足りていない」と思っていた方が実は足りていたり、逆に足りているつもりだった方に不足が見えたりします。どちらの場合も、その先の判断が変わります。足りていると分かった方が次にやるべきことは、増やす力を上げることではなく、足りている状態を崩さないことです。この線を引くときには、扱える商品の範囲が広い立場から見たほうが、比較できる選択肢が増えます。相談を受ける側の役割は、商品を勧めることより前に、この現在地を一緒に確かめるところにあります。
6.4 ポイント2:必要な上乗せの大きさから、どこまで値動きを受け入れるかを決める
現在地が分かると、上乗せしたい金額が具体的に出てきます。そして、この金額の大きさによって、取るべき値動きの幅が変わります。ここが「割合を戻すかどうか」の判断の中心です。上乗せがそれほど必要ない方が、値動きの大きい資産の割合を高く保ち続ける理由はあまりありません。反対に、まだ上乗せが必要な方が、預金の割合を高いまま置いておくと、時間を使えないまま年数だけが過ぎていきます。つまり、預金が多いことそのものが問題なのではなく、目指す金額に対して多すぎるのか、ちょうどなのかという相対の話です。そのうえで、どの資産を組み合わせるかを考えます。値動きの方向がそろわないものを組み合わせて持つと、全体の振れ幅は一つに集めたときより小さくなります。これが分散の効き方です。組み合わせを決めるときには、ご自身がどれくらいの下落まで平気でいられるのかも合わせて確かめます。同じ配分でも、値下がりに耐えられずに売ってしまえば、その配分は自分に合っていなかったということになるからです。数字の上での正解より、続けられる配分を選ぶほうが結果につながります。
6.5 ポイント3:資産を段階に分けて、割合を戻すかどうかを段ごとに考える
最後が、実際に手を動かすときの考え方です。資産全体を、性格の違う段階に分けて見ることをおすすめしています。すぐに使うために動かさない段、数年のうちに使う予定のある段、長く置いておける段。それぞれに求める役割が違うので、割合が動いたときの扱い方も変わります。長く置いておける段の中で値上がりしたものの比重が増えたのなら、それは狙って持っていた資産が働いた結果なので、必ず戻す必要はありません。一方で、すぐに使うための段が値動きのある資産に侵食されているなら、そこは戻すべきです。全体をひとまとめの円グラフとして見て「当初の配分と違うから戻す」と決めるのではなく、どの段の割合が崩れているのかで判断してください。あわせて、勤め先の制度で積み立てる仕組みや自分で入る年金の制度を使うかどうかも、この段のどこを厚くしたいのかが決まってから考えるほうが迷いません。制度は、税の面で有利になる代わりに引き出せる時期に条件が付くものが多いので、置く段を間違えると使いにくくなります。
7. 【独自試算】毎月の不足額別に、上乗せとして用意する金額と積立の目安はいくらか
ポイント2でお伝えした「上乗せしたい金額」を、数字に置き換えてみます。前提は次のとおりです。
- 65歳から20年間(240カ月)、毎月の不足額を自分で用意するものとする
- 取り崩し中の運用は考えない
- 積み立てる期間は55歳から65歳までの10年間とし、年利3%で1年ごとの複利、税・手数料は考えない
7.1 毎月の不足額別にみた、必要な上乗せ総額と積立額の目安
- 不足が月3万円:20年で720万円/10年で用意するなら毎月約5万2000円の積立
- 不足が月5万円:20年で1200万円/毎月約8万7000円の積立
- 不足が月8万円:20年で1920万円/毎月約14万円の積立
不足が月3万円と月8万円では、用意する総額が1200万円変わります。毎月の積立額に直すと約5万2000円と約14万円で、家計に求められる負担がまったく違ってきます。
前のページで見た都道府県別の差、月4万2328円は、この不足額の目盛りでいえば真ん中あたりにあたります。地域の平均どうしの差が、上乗せとして用意する金額に置き換えるとどのくらいの重みなのかが分かります。
なお、これは一定の利回りが10年間続いたと仮定した計算で、将来の運用成果を保証するものではありません。値動きのある資産には元本割れの可能性がありますので、低めの前提でも成り立つかを確かめておいてください。
8. まとめにかえて
厚生年金の平均年金月額は全国で15万289円ですが、都道府県別に見ると1位の神奈川県17万457円と47位の青森県12万8129円で月4万2328円の差がありました。受給額の分布も1万円未満から30万円以上まで広がっています。
この差は住んでいる場所で決まるものではなく、報酬と加入期間という計算式の中身が、その地域で働いてきた人たちの傾向として表れたものです。国民年金の都道府県差が1万円に届かないのは、保険料が定額で納付月数だけが額を決めるためです。
平均という一つの数字だけを見ていると、自分がどのあたりにいるのかは分かりません。階級ごとの人数まで見て自分の位置を確かめ、そのうえで上乗せに求める大きさを決めていくと、配分を戻すかどうかも決めやすくなります。年金額の見込みはねんきんネットやねんきん定期便で確かめ、制度の要件や税の扱いについては年金事務所やお住まいの市区町村の窓口、専門家に確認しながら進めてください。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 日本年金機構 年金用語集「は行 報酬比例部分」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
- 日本年金機構「国民年金保険料」
- LIMO「【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!」
中島 卓哉
