米国の半導体メーカーであるCree(クリー、ノースカロライナ州ダラム)は、ニューヨーク州マーシーに炭化ケイ素(SiC)ウエハーを用いる半導体工場を新設すると発表した。直径200mm(8インチ)のSiCウエハーでパワー半導体と高周波(RF)半導体を量産する予定で、車載認定に適合した製造ラインを整えて2022年に稼働させる計画だ。

10億ドルの投資計画を拡張

 Creeは5月、SiCの生産能力拡大に今後5年間で総額10億ドルを投資すると発表し、SiCウエハーベースのパワー半導体およびGaN on SiC(SiCウエハー上に窒化ガリウム=GaNを形成して製造する)RFデバイスとSiCウエハーの生産能力を24年までに、16年7~9月期時点に比べてそれぞれ最大30倍に拡大する計画を明らかにした。

 ニューヨーク新工場は、5月の発表時に「ノースファブ」と呼んでいた案件。10億ドルのうち4.5億ドルを充てる予定だったが、計画の具体化に伴って今回、工場建設や設備および関連費用に約10億ドルを投資すると同時に、ニューヨーク州から5億ドルの助成金を受けて、当初計画よりも生産能力を25%アップするという。

 これにより、24年までの当初の投資計画に比べて約2.8億ドルを節減する。ニューヨーク新工場完成時のサイズは最大48万平方フィートとなり、まず約1/4にクリーンルームを実装し、以後必要に応じて生産能力を拡張する。

ノースカロライナでも拡張投資

 現在、5月に発表した計画に則って、ダラム本社キャンパス内の既存工場に4.5億ドルを投資し、SiC結晶成長(SiCウエハー)工場「メガファクトリー」の整備を進めている。これとニューヨーク新工場を連動させ、東海岸に「SiC回廊」と呼ぶ材料~半導体デバイスの一大SiC生産地を形成する方針だ。

 並行して、地域コミュニティーやニューヨーク州およびノースカロライナ州の4年制大学と提携し、増員に備えたトレーニングとインターンシッププログラムを開始する予定だ。

SiCはシリコンに代わる次世代材料

 現在、半導体の大半がシリコン、つまりシリコンウエハーを基材にして製造されているが、SiCはシリコンに代わる新材料として期待を集めている。SiCはシリコンと炭素の化合物で、その物性として、シリコンよりも電力の損失が少なく、200℃以上の高温でも動作し、高い電圧をかけても壊れないという特徴を持つ。このSiCウエハーを基材に用いた「SiCパワー半導体」を使えば、発電した電気の送電ロスを少なくしたり、シリコンパワー半導体よりも少ない電力で新幹線や電車、電気自動車を動かすことができる。

 また現在、シリコンウエハーのサイズは直径300mm(12インチ)が主流で、半導体の量産には主に300mmと200mm(8インチ)が採用されているが、SiCウエハーは品質の良い結晶を大口径化する途上にあり、半導体の量産には100mm(4インチ)や150mm (6インチ)ウエハーが用いられており、8インチSiCは次世代技術に位置づけられる。

EVや5Gがターゲット

 SiCパワー半導体は電気自動車(EV)、GaN on SiC RFデバイスは5G通信基地局向けにそれぞれ需要拡大が見込まれている。なかでもSiCパワー半導体は、EV大手の米テスラが次世代車に搭載する予定であるため、世界中の大手パワー半導体メーカーが生産能力の拡大を進めている。

 CreeはSiCウエハーで世界シェア約6割を握る大手でもあり、すでに半導体メーカー4社と総額約6億ドルにのぼる長期供給契約を締結済みだ。その詳細は、On Semiconductorと8500万ドル以上(6インチ)、STMicroelectronicsと2.2億ドル(6インチ)、Infineon Technologies(6インチ)および非公表の1社である。

 また、SiCパワー半導体に関してCreeは、5月にフォルクスワーゲングループからSiCパートナーに選定されたほか、先ごろ大手ティア1の米デルファイに800Vインバーター用のSiC-MOSFET(電界効果トランジスタの一種)を22年から供給する契約も結んだ。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏