ドン・キホーテの店内を歩いていると、外国語の会話が絶えない。海外にも店を出していると聞けば、この会社はもう海外でも稼いでいるのだろうと思ってしまう。私も長いあいだそう思っていた。ところがパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(7532)の決算を開くと、営業利益の内訳はまったく違う姿をしている。9月1日の終値は777円で、直近1カ月では最も低い水準だ。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

ココがポイント
  • 2026年6月期の営業利益1,748億円のうち、国内事業が1,658億円。構成比は95%に達する
  • 売上の11%を占める北米事業の営業利益は34億円で、営業利益率は1.3%にとどまる
  • 9月1日の終値は777円で直近1カ月では最も低い。直近時点のPERは21.0倍、PBRは3.29倍

1. 海外でも稼いでいるという見方と、セグメント利益の実際

2026年6月期の連結業績は、売上高2兆4,452億円、営業利益1,748億円だった。2兆円台の小売企業である。

これをセグメントに割ってみる。国内事業の売上高は2兆681億円で営業利益1,658億円。北米事業は売上高2,779億円で営業利益34億円。アジア事業は売上高991億円で営業利益55億円である。

売上の構成比は、国内84.6%、北米11.4%、アジア4.1%。海外を合わせれば15%を超えるから、たしかに小さくはない。

ところが営業利益の構成比になると、国内94.8%、北米2.0%、アジア3.2%となる。北米は売上で11%を担いながら、利益では2%しか出していない。売上シェアと利益シェアの間に、5倍以上のねじれがある。

利益率で見れば話はもっと簡単だ。国内事業の営業利益率は8.0%、アジア事業は5.6%、そして北米事業は1.3%である。小売業の営業利益率の中央値が3.7%だから、国内は業種の水準を倍以上上回り、北米はその中央値にすら届いていない。

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出所:株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス 決算短信をもとに筆者作成

出所:株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス 決算短信をもとに筆者作成

店舗数でいえば、2026年6月末の国内は676店舗、海外は123店舗だ。数の上では海外も相応の存在感がある。それでも利益の柱は、いまなお国内に立っている。

2. 北米の利益を押さえているもの。618億円ののれんと減損

では北米事業は、なぜここまで利益が薄いのか。損益計算書の外側に手がかりがある。

のれんの未償却残高は、北米事業が618億円、国内事業が28億円で、連結では647億円だ。ほぼ全額が北米に張り付いている。北米の店舗網は買収を重ねて広げてきた事業であり、その買収コストが資産として残っている形である。

そして直近通期の北米事業ののれん償却額は57億円だった。北米の営業利益34億円は、この57億円を負担したあとの数字である。のれん償却を戻せば92億円ほどの水準になる計算だ。

減損も北米に集中している。直近通期の減損損失は連結で114億円、そのうち北米が69億円を占めた。前期はさらに極端で、連結184億円のうち北米が149億円だった。2期続けて、減損の大半が北米から出ている。

会社の説明によると、北米では新規出店やMikuni Restaurant Group, Inc.の連結子会社化、為替の影響で売上高と販管費が増えた。一方で山火事による店舗焼失や不採算店舗の閉店という減少要因も出ている。それでもグアムの売上総利益率の改善と生産性向上などにより、営業利益は増加したという。

実際、北米の営業利益率は前期の0.9%から1.3%へ切り上がっている。改善そのものは起きている。ただ、国内の8.0%と並べれば、まだ桁が一つ違う。

ここから読み取れるのは、北米の薄さが単純な「商売の弱さ」だけでは説明できないということだ。買収で手に入れた事業は、買収額と純資産の差をのれんとして毎期費用に落とし続ける。加えて採算の合わない店舗を閉じるたびに減損が乗る。買って広げるという戦略を選んだ以上、当面は利益が削られ続ける構造になっている。

3. 直近1カ月の株価と、PER21.0倍・PBR3.29倍

 

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株価の1カ月をたどる。起点の8月3日は897円、8月12日には930円まで切り上がり、ここが直近1カ月で最も高い終値だった。8月18日も916円である。

 

局面が変わったのは8月19日だ。終値は814円となり、前日から1割超下げた。以降は810円前後での小動きが続き、8月28日は810円、8月31日は807円だった。

そして9月1日の終値が777円である。前営業日から4%近く下げ、直近1カ月では最も低い。8月3日の水準からは13%安い。

8月19日の下げを一つの材料で説明することはできない。ただ、会社が翌期にあたる2027年6月期の営業利益を1,790億円、前期比+2.4%と置いたこと、そして親会社株主に帰属する当期純利益を1,105億円、+0.4%とほぼ横ばいに見積もったことが意識された可能性は高い。直近通期が+21.6%の増益だっただけに、伸び率の落差は大きい。

直近時点のPER(株価収益率)は21.0倍、PBR(株価純資産倍率)は3.29倍である。直近の有価証券報告書ベースのROE(自己資本利益率)は15.8%で、小売業の中央値7.4%の倍以上だ。資本効率の高さがPBRの3倍台を支えている、という説明はつく。

裏を返せば、その資本効率を支えているのは国内事業である。利益の95%を生む一つのセグメントに、この値付けのほとんどが乗っている。

4. 筆者コメント

見逃せないのは、この会社の「海外」が、売上の話と利益の話でまるで別物だという点だ。

売上で15%を占めれば、決算説明の場でも記事の見出しでも、海外は堂々と主役になる。だが利益で5%なら、連結の稼ぐ力を語るうえでの重みはまったく違ってくる。同じ言葉で語られる「海外事業」が、指標を替えるだけで存在感を変える。

ここに、イメージが更新されにくい理由があるように思える。店舗の数も売上も海外は増え続けており、目に入る情報は「広がっている」ばかりだ。利益率やのれん償却は、決算資料の奥のほうにしか出てこない。

だから、この会社を見るときに私が最初に開くのはセグメント情報だ。連結の営業利益が伸びたかどうかではなく、その伸びをどのセグメントが持ってきたかを確かめる。

そのうえで、北米の利益率が1.3%から次にどこまで上がるかを追う。海外が本当に第二の柱になったと言えるのは、そこが動いてからだろう。