8月から9月にかけては、翌年度の予算編成に向けた議論が動き出す時期にあたり、住民税非課税世帯を対象とした支援のあり方も話題に上りやすくなります。給付金や保険料の軽減がニュースで取り上げられるたび、「自分の世帯は対象になるのだろうか」と気にされる方は少なくありません。
一方、現役世代のご家庭からは、少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo)といった制度をどの順番で使えばよいのか、というご相談をいただくことがあります。手元にまとまった資金があるほど、どこに置くかを決めきれないまま時間が過ぎてしまう。相談の場では、そうした声をよくうかがいます。
この記事では、住民税非課税世帯という区分がどのような仕組みで決まるのかを、税の成り立ち・判定の条件・収入の目安の順に整理します。あわせて、年代別に見た課税世帯の割合や、公的年金を受け取る世帯がどれだけ年金に頼っているのかというデータも確認していきます。
なお、住民税非課税世帯に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
- 住民税は均等割と所得割の2層構造。世帯全員のどちらも生じない状態が「住民税非課税世帯」にあたる
- 公的年金を受給する世帯のうち、収入のすべてを年金で賄っている世帯は43.4%。年代が上がるほど課税世帯の割合は下がる
- 所得基準は自治体ごとに設定されているため、境界にあたる金額はお住まいの市区町村でのご確認が欠かせない
1. 住民税非課税世帯という区分|家計に効いてくる代表的な5つの支援
所得の水準が一定を下回る世帯は「住民税非課税世帯」として扱われ、公的な支援の対象になる場合があります。感染症への対応や物価上昇への対策として、この区分を軸にした現金給付がたびたび実施されてきたことは、記憶に新しいところです。制度全体の解説については、LIMOの記事「【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド」から要点を引用して確認していきます。
支援の中身は一時的な給付にとどまりません。社会保険料の負担軽減や教育にかかる費用の支援など、長い期間にわたって家計を支える仕組みも用意されています。代表的なものを5つ確認していきましょう。
【一覧表】住民税非課税世帯への優遇措置1/6
LIMO編集部作成
1.1 医療の土台にかかる負担|国民健康保険料の応益割が軽くなる
- 応益分保険料(均等割・平等割)の「7割・5割・2割」のいずれかを減額
加入している世帯の所得に応じて、減額される割合が段階的に決まる仕組みです。
1.2 65歳以上の方が納める分|介護保険料の減額
- 第1号被保険者(65歳以上)が対象。減額される金額は自治体ごとに異なる
1.3 現役世代にも関わる部分|国民年金保険料の免除・納付猶予
- 全額免除・一部免除・納付猶予のいずれか
1.4 子育て期の費用|保育料の無償化
- 0歳から2歳までの保育料が無償化
- これにより、0~5歳までの保育料が無料になる
1.5 進学にかかる費用|高等教育の修学支援新制度
- 授業料・入学金の免除または減額
- 返還を要しない給付型奨学金
- 上記により大学、短期大学、高等専門学校、専門学校を無償化
ここに挙げた5つのほかにも、市区町村が独自に用意している支援を含めれば、利用できる制度の幅はさらに広がります。それでは、その入り口となる「住民税非課税世帯」がどのような状態を指すのかを見ていきましょう。
2. 住民税の成り立ち|均等割と所得割のどちらも生じない状態を指す
まず押さえておきたいのが、住民税そのものの構造です。非課税という状態がどこから生まれるのかは、ここを見ると分かりやすくなります。
2.1 2つの部分から成り立つ税|一律にかかる分と、所得に応じてかかる分
住民税は都道府県と市区町村に納める地方税で、地域の行政サービスやインフラを支える財源になっています。個人にかかる住民税は、次の2つで構成されています。
- 均等割:所得に関係なく一律に課税される部分
- 所得割:所得に応じて税額が決まる部分
この2つがいずれも生じない状態が「住民税非課税」です。そして世帯の全員がこの状態にあるとき、その世帯は「住民税非課税世帯」として扱われます。
なお、所得割だけが非課税になるという中間の状態もあります。支援制度の対象になるかどうかはこの区分の扱いによっても変わり、判断は自治体ごとに異なりますので、細かい取り扱いはお住まいの市区町村でご確認ください。
3. 非課税になる人の条件|3つの入り口のいずれかに当てはまるかどうか
住民税がかからない主な条件は、次のいずれかに該当する場合とされています。
- 生活保護を受給している
- 障害者、未成年者、寡婦(夫)、ひとり親で、前年所得が135万円以下
- 前年所得が自治体の定める基準額を下回る
このうち1と2は全国で共通する取り扱いです。3の所得基準は自治体が定めるため、境界にあたる金額は地域によって変わります。ここが、同じ収入でも住む場所によって結果が分かれる部分です。次に、その基準額がどう組み立てられているのかを見ていきましょう。
4. 基準額の組み立て方|世帯の人数によって上限が動く計算式
判定に使われる基準額の考え方を、兵庫県神戸市の例で確認します。自治体によって数字は異なりますので、あくまで一つの例としてご覧ください。
35万円×(本人+同一生計配偶者(※)+扶養親族数)+10万円+21万円
※21万円は、同一生計配偶者または扶養親族がいる場合のみ加算されます。
※同一生計配偶者とは、生計を一にし、前年の合計所得金額が58万円以下の配偶者を指します。
この式で求めた金額を超えなければ、住民税(市県民税)はかかりません。人数が増えるほど上限が引き上がる組み立てになっている点が特徴です。
5. 所得と収入の違い|同じ基準でも給与と年金では金額が変わる
非課税となる境界は、世帯の人数だけで決まるわけではありません。収入の種類によっても変わります。
ここでいう所得は、収入から各種の控除を差し引いたあとの金額です。控除の大きさは給与と年金で異なるため、同じ所得基準であっても、それを収入に置き換えたときの金額は変わってきます。神戸市の基準を収入額に直すと、次のようになります。
ひとり暮らしの場合
合計所得金額が45万円以下におさまることが目安です。これを収入額に置き換えると、次のようになります。
- 給与収入のみで収入金額が110万円以下
- 年金収入のみで収入金額が155万円以下(65歳以上)
- 年金収入のみで収入金額が105万円以下(65歳未満)
配偶者または扶養親族が1人いる場合
合計所得金額が101万円以下におさまることが目安です。収入額に置き換えると次のとおりです。
- 給与収入のみで収入金額が166万円以下の方
- 年金収入のみで収入金額が211万円以下の方(65歳以上)
- 年金収入のみで収入金額が171万3334円以下の方(65歳未満)
同じ「非課税」でも、世帯の構成と収入の中身によって境界の位置はこれだけ動きます。扶養する家族がいる世帯では上限が引き上げられ、年金だけで暮らす65歳以上の夫婦であれば、年間の収入が200万円を超えていても非課税となる余地が残ります。
くり返しになりますが、この数字は神戸市の基準にもとづくものです。ご自身の世帯がどの位置にあるかを判断される際は、お住まいの市区町村の案内でご確認ください。
6. 年代別に見た課税世帯の割合|80歳以上では52.4%まで下がる
厚生労働省「令和6年 国民生活基礎調査」をもとに、年代別の住民税課税世帯の割合を確認します。
- 29歳以下:63.0%
- 30〜39歳:87.5%
- 40~49歳:88.2%
- 50~59歳:87.3%
- 60~69歳:79.8%
- 70~79歳:61.3%
- 80歳以上:52.4%
- 65歳以上(再掲):61.1%
- 75歳以上(再掲):54.4%
※ 全世帯数には、非課税世帯及び課税の有無不詳の世帯を含む
※ 総数には、年齢不詳の世帯を含む
※ 住民税課税世帯には、住民税額不詳の世帯を含む
30歳代から50歳代では9割近くが課税世帯である一方、65歳以上では約6割、75歳以上では5割強まで下がります。年代が上がるほど課税世帯の割合が減っていく形がはっきりと表れています。
背景にあるのは、収入の中心が給与から年金へ移り、所得の水準が現役時代より下がることです。そこへ税制上の取り扱いが重なります。65歳以上には公的年金等控除が設けられており、遺族年金は非課税所得として扱われます。こうした要素が積み重なることで、高齢期の世帯は非課税に近づきやすい構造になっています。
7. 収入のすべてを年金で賄う世帯は43.4%|数字の裏側にあるもの
厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」によれば、公的年金を受給している世帯のうち、収入のすべてを年金で賄っている世帯は43.4%でした。裏を返せば、半数を超える世帯は年金以外の収入源も使いながら暮らしていることになります。年金だけで生活する世帯が多数派、という状態ではなくなってきているということです。
高齢者世帯の総所得に占める公的年金・恩給の割合(別世帯構成)6/6
出所:厚生労働省「2025年 国民生活基礎調査の概況(所得の状況)」図11をもとにLIMO編集部作成
- 20%未満:4.2%
- 20〜40%未満:9.7%
- 40〜60%未満:13.6%
- 60〜80%未満:14.1%
- 80〜100%未満:17.1%
- 100%(すべてが公的年金・恩給):41.3%
この分布から読み取れるのは、公的年金・恩給を受給する高齢者世帯のうち、総所得の80%以上を公的年金に頼っている世帯が58.4%、総所得のすべてが公的年金・恩給という世帯が41.3%を占めているという点です。
受け取る年金額には個人差がありますが、多くの高齢世帯に共通するのは、収入と支出のバランスをどう保つかという課題です。生活費が年金収入を上回る場面もあり、その不足をどう補うかがテーマになります。私的年金や預貯金の取り崩し、運用による補完に加えて、働き続けること、家族からの支援、公的な扶助の利用など、複数の手段を組み合わせている世帯も多く見られます。老後の家計を安定させるうえでは、将来の収支を早い段階から見通しておくことが土台になります。
8. 住民票を分ければ非課税になるのか|世帯分離で生じる別の負担
世帯分離とは、同じ家に住みながら住民票の上で世帯を分ける行政上の手続きです。収入のある子と年金で暮らす親が同居している場合、世帯分離によって親を独立した世帯にすることで、親の所得が少なければ親の世帯が住民税非課税世帯となり、介護保険料や医療・介護の高額療養費における自己負担限度額が軽くなる場合があります。
ただし、これには生計が別であるという実態が求められます。分離によって国民健康保険料の均等割などが世帯ごとに個別に算定される影響が生じますし、親が家族の健康保険(社会保険)の被扶養者から外れる必要が生じる場合には、収入や生計維持の実態によっては家族側の社会保険料や税負担(所得税・住民税の扶養控除の適用など)に影響が出る恐れもあります。
所得や資産の要件、自治体の基準によって軽減を受けられない場合もありますので、手続きに進む前に市区町村の窓口で十分な確認を行っておくことが欠かせません。
8.1 国保の平等割が二重になる|世帯全体で見ると負担が増える場合
世帯分離で見落とされやすいのが、国民健康保険料の増加です。国保の保険料には、世帯ごとに一定額がかかる「平等割」という仕組みがあります。世帯が2つに分かれると、この平等割がそれぞれの世帯にかかることになります。親の介護保険料が下がったとしても、世帯全体で見れば国保の負担増のほうが上回り、合計では持ち出しになるケースが少なくありません。
9. 所得だけで判定される仕組み|資産の有無が反映されないという論点
住民税非課税世帯のうち、世帯主が65歳以上の高齢者世帯が占める割合は全体の75%以上にのぼります(厚生労働省の調査による)。現役を引退して収入が年金のみとなれば、所得が下がり境界を下回る方が増えるためです。
9.1 貯蓄があっても非課税になる理由|判定に使われるのは前年の所得だけ
現在の住民税非課税世帯などの判定基準は、世帯全員の前年の所得のみにもとづいており、保有している預貯金や不動産といった資産の状況は反映されません。そのため、まとまった退職金や自宅などの資産を持つ方であっても、年金収入などが少なく所得が基準を下回れば非課税世帯となります。
一方で、働きながら子育てをする現役世代は、わずかな所得の差で課税世帯となり支援の対象から外れるという逆転が生じやすく、資産と所得の隔たりをめぐって制度の公平性やあり方についての議論が続いています。
9.2 2026年の動向|給付の判定に資産をどう反映させるかという課題
資産はあるが所得が低い層への支援のあり方については、公平性の観点から見直しを求める声が一部にあります。今後の経済対策や新たな給付制度(給付付き税額控除の検討など)の議論では、所得の要件に加えて世帯の資産状況をどのように反映させるかが長期的な課題として挙げられています。現時点では住民税非課税などの所得基準が中心ですが、制度を続けていくうえでの議論は今後も動きがありそうです。
10. 判定と手続きをめぐる質問|証明書での確認と、世帯主が亡くなった場合
10.1 Q1. 手元で使える計算ツールの結果だけで、非課税かどうかを判断してよいのか
A. インターネット上のツールはあくまで目安です。配偶者控除や医療費控除、社会保険料控除などの適用状況によって所得の計算結果は大きく変わりますし、自治体(級地)によって境界の位置も異なります。最終的な判定は、お住まいの役所が発行する「課税証明書(非課税証明書)」などでご確認ください。
10.2 Q2. 年度の途中で世帯主が亡くなったとき、その年度の住民税と非課税判定はどうなるのか
A. 住民税は毎年1月1日時点の状況と前年の所得で判定されます。年度の途中で世帯主が亡くなっても、1月1日時点で課税されたその年度の住民税の納税義務はなくならず、相続人が引き継ぎます。世帯の状況が変わったことに伴う非課税世帯の該当の有無や、各種給付の判定については、自治体や時期によって基準が異なりますので、お住まいの市区町村の窓口でのご確認が必要です。
11. 【独自試算】同じ月3万円を「引き出しの自由度が高い制度」「老後まで動かせない制度」「半々」に置くと、20年後と途中の引き出しでどう変わるか
非課税世帯の話から少し離れて、現役世代のご家庭からよくいただく「制度を使う順番」という問いを、数字で並べてみます。ここでは1つの試算として、同じ金額を3つの置き方に分けたとき、20年後の到達額と、途中で引き出しが必要になった場合の結果がどう変わるのかを比べます。
前提は次のとおりです。
- 積立額:月3万円。期間は20年(240カ月)で、20年の元本は720万円
- 想定利回り:年3%。月利は年利を12で割るのではなく、1.03の12分の1乗から1を引いた約0.2466%を使用
- 毎月末に積み立て、分配金などは再投資されるものとする
- 税制上の取り扱いは制度によって異なり、拠出時・運用中・受け取り時のどこで効くかもそろわないため、この試算には織り込まず前提から除外する
- 手数料・物価の変動は考慮しない
この前提で、3つの置き方を比べます。
- ケースA:全額を、いつでも引き出せる自由度の高い制度に置く(月3万円)
- ケースB:全額を、原則として老後まで引き出せない制度に置く(月3万円)
- ケースC:半分ずつに分ける(自由度の高いほうへ月1万5000円、老後まで動かせないほうへ月1万5000円)
まず、途中で何も引き出さずに20年続けた場合です。3つのケースはいずれも約980万6000円となり、金額に違いは出ませんでした。税制上の取り扱いを前提から外している以上、同じ利回りで同じ金額を積めば、どこに置いても到達額は同じになります。順番を決める材料は、この数字のなかにはないということです。
差が現れるのは、途中で引き出しが必要になった場合です。ここでは10年目に150万円が必要になったと仮定します。10年目時点の残高は、3つのケースとも合計で約418万3000円です。
- ケースA:残高の全額が引き出せる状態にあるため、150万円を取り出せる。その後も積立を続けた場合、20年後は約779万円
- ケースB:残高は同じ約418万3000円だが、原則として老後まで取り崩せない。150万円は別に用意することになり、20年後の残高は約980万6000円のまま
- ケースC:自由度の高いほうの残高は約209万2000円で、150万円は賄える。その後も積立を続けた場合、20年後は約779万円
ケースAとケースCで20年後の金額が同じになるのは、引き出した150万円とその後の運用分がそのまま差になるためです。ケースBの約980万6000円という数字は、150万円を別の場所から手当てできた場合の話であり、老後に向けた金額としては減っていないというだけのことになります。
もう一段、金額を大きくして見てみます。仮に10年目に必要な額が250万円だった場合、ケースAは残高から賄えますが、ケースCは自由度の高いほうの残高が約209万2000円ですので不足します。半々という分け方が常に中間の結果になるわけではなく、引き出す金額の大きさによっては、自由度の高い側だけでは足りなくなる場面もあるということです。
この試算は、どの置き方を選ぶべきかを示すものではありません。読み取れるのは、到達額そのものではなく「途中で動かせるかどうか」と「そのとき自由に使える残高がいくらあるか」に違いが出る、という一点です。実際には制度ごとに税制上の取り扱いが異なり、それが結果を左右します。加入できる条件や拠出できる上限額、受け取るときの課税の扱いは改正されることがありますので、勤務先の担当部署や公的機関の情報でご確認のうえでご判断ください。
※上記は一定の利回りが続いたと仮定した場合の目安であり、将来の運用成果を示すものではありません。実際の運用では価格が変動し、元本割れとなる可能性があります。税金・手数料は考慮していません。金額はいずれも概算です。


