この記事の読みどころ

ドーハで開催された主要産油国間で増産凍結を模索する会合が不調に終わったことを受け、原油先物市場で原油価格は下落しました。しかし、直後のレポートで指摘したように、下落は一時的となりました。

なぜ一時的と考えたのか? 結論から述べれば、原油市場は産油国間の話し合いよりも、市場における需給要因に価格動向が左右される割合が高くなった可能性があると見られるためです。

そもそも、なぜ産油国間の増産凍結は合意に至らなかったのか

原油市場の動向を左右する要因として何に注目すべきか

ドーハ産油国会合:イランが欠席する中、原油増産凍結で合意できず

2016年4月17日にカタールの首都ドーハで、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟の産油国、合計18か国が参加して、原油増産凍結を模索する会合が開催されました。予定時間を越えて話し合われましたが、最終合意がないまま終了、合意には至りませんでした。

増産を計画するイランは同会合を欠席、サウジアラビアなど湾岸諸国が、イランを含むOPEC加盟国が参加しない合意には同意しない姿勢を示し、協議は暗礁に乗り上げたと報道では伝えられています。

どこに注目すべきか:地政学リスク、イラン、中国PMI、原油需要

ドーハで主な産油国の間で増産凍結を模索する会合が不調に終わった背景はまず、制裁解除を受け増産意欲の高いイラン(並びに政局の混乱で生産が減少したリビア)が直前に不参加を表明したことです。イランが不参加を表明した時点で、市場では物別れに終わるとの観測が高まっていました。

次に、OPECの盟主とも呼ばれるサウジアラビアがイラン抜きの合意に難色を示した点も痛手です。地政学リスクなどとも表現される2016年年初の国交断絶によるイランとサウジアラビアの関係悪化が原油市場のリスクとなった格好です。

今回の会合は2016年2月に主要産油国4か国の間で原油増産凍結を模索する会合が開催された後を受けてのもので、参加国の拡大などもあり、合意の行方が原油市場の動向を左右してきた印象も見られます。

この間(2月から現在まで)原油価格が持ち直してきたことから、産油国間の原油増産凍結会合が原油市場を支えてきたようにも見られがちです。しかし、この期間に起きた経済環境の変化が原油市場により重要な影響を与えたと考えています。

例えば中国の景気見通しの改善です。中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)は低下傾向でしたが足元の数字は50.2と景気拡大・縮小の目安の50を(景気対策頼りながら)超えており、原油需要のある程度の回復も期待されます。

次に、原油需要の季節要因の改善です。米国などの暖冬の影響でエネルギー需要にマイナスの影響が見られましたが、この要因は解消に向かう見込みです。反対に今後はガソリンの需要の回復が期待される季節に向かうため、季節要因による落ち込みから解放される可能性も考えられます。

また、原油供給側にも変化が見られます。産油国の話し合いに参加する可能性が見込まれない米国は独自に生産調整を模索しています。昨年中頃まで米国の原油生産に大きな変化は見られませんでしたが、一部のシェール油田では採算が合わないなどの理由で生産を縮小している模様で、米国の原油生産に頭打ち傾向が見られます。

最後に2月のイエレン議長の議会証言や3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で(世界経済の悪化を懸念して)利上げペースの後退が示唆されたことも原油市場の下支え要因と見られます。

以上の4点は持続性の点で弱い面もあり、原油価格を急上昇させるには不十分と見られますが、ドーハ会合物別れ(決裂ではなく今後も妥協点を今後も模索)のショックで下落が懸念される原油価格を下支えする要因となる可能性は考えられます。

原油市場の自由度は以前に比べ高まっていると考えられることから、市場動向についても経済ファンダメンタルズを、より重視すべきと見ています。

【2016年4月20日 ピクテ投信投資顧問 梅澤 利文】

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ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文