インフィニオンテクノロジーズが業界に先駆けて実用化を図った、パワー半導体の300mmウエハーによる量産。長らく同社に追随する企業が現れない状態が続いていたが、ここにきて海外勢はもとより、国内企業でも300mm生産を決断するケースが出てきた。EVやハイブリッドなど車両電動化の進展を受けて、車載用パワー半導体の低コスト生産がより一層求められるようになってきたことが背景にある。

独インフィニオンが先行

 パワー半導体の生産は、現在でも200mmなどの小口径ウエハーが中心となっている。ウエハーや製造装置の制約が多く、メモリーやロジックなどが300mm生産にシフトするなかでも200mm生産にとどまっていた。

 この壁を壊したのが独インフィニオンだ。同社は経営破綻したDRAMメーカー、キマンダがドレスデンに有していた300mm対応ラインを11年に取得。量産立ち上げに3年以上の歳月をかけて、15年から量産に移行した。インフィニオンは、パワーMOSFETを中心にウエハーやベアダイの形態で同業のパワー半導体メーカーに供給を行うビジネスモデルが増えていたこともあり、モジュール形態での供給に軸足を置いていた国内勢に比べて、300mm生産に対して前向きかつ有利な立場にあったといえる。

 ドレスデン工場での300mm生産も順調に拡大しており、18年からMOSFETに加えてIGBTの生産も開始。21年にはフルキャパシティーに達する見通しだ。さらに同社ではドレスデンに次ぐ300mm拠点として、オーストリアのフィラッハ工場に新棟建設を決定。21年から商用生産を開始する計画で、26年には面積ベースで300mm生産が半分以上になるという。

オンセミ、STマイクロが追従

 インフィニオンが先行した300mm生産だが、これに続く具体的な動きを見せたのが、オン・セミコンダクターとSTマイクロエレクトロニクスだ。オンセミは19年4月に、グローバルファウンドリーズ(GF)が保有するニューヨーク州イースト・フィッシュキルの300mmライン「Fab10」を買収すると発表した。オンセミは今後、同工場をMOSFETやIGBTなどパワーディスクリートの生産に活用する。

 STマイクロは18年に、伊アグラテ工場に300mm新棟の建設を発表。高耐圧ICのほか、IGBTなどのパワーディスクリートの生産を予定する。20年には研究開発用装置を設置し、需要動向次第だが21年には一部商用生産を開始したい考え。

 300mm生産について、日本国内ではこれまで慎重な姿勢をとる企業が多かった。投資スケールが一気に大きくなることに加え、IPMなどモジュールでの供給を主体に据えていることも影響していた。しかし、電動車両が主役となる自動車分野においてはさらなる低コスト化が求められており、300mm生産が避けては通れないテーマとなってきた。

トヨタ向けIGBT供給でシェア変動の可能性?

 具体化な動きを見せているのがデンソーだ。トヨタが半導体をはじめとする電子部品事業をデンソーに集約させたことで、同社は半導体の開発・製造に関するリソース投下を近年強めている。パワー半導体の300mm生産もその一環とみられており、300mmラインを有する三重富士通セミコンダクターでIGBTの生産を行う予定だ。

 デンソーと富士通セミコンダクターはデンソーが岩手工場(現・デンソー岩手)を取得して以降、密接な協力関係を築いており、ファンドリー事業を展開する三重富士通においても主要顧客の一角を担っている。19~20年にかけて三重富士通に300mm生産に必要な開発ラインを設置し、量産プロセスの確立を急ぐ。

 トヨタ向けのIGBT供給について、これまで三菱電機や富士電機、東芝デバイス&ストレージがその多くを担っていたが、今回の300mm生産の決定からもわかるとおり、トヨタ向けIGBT供給においてはデンソーのプレゼンスが向上する見通しだ。

 三菱電機や富士電機、東芝デバイス&ストレージも300mm生産についての検討を進めている。三菱電機は独資での立ち上げについては消極的なものの、台湾ファンドリーとの協業を通じて、専用ラインの設置などを検討しているもようだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳