本記事の3つのポイント

  •  中国新興メモリー企業の商業生産が19年末から20年初頭にかけてスタート。ウエハー生産の本格化に伴い、組立・テストなど後工程の生産体制構築もポイントに
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  •  一方で後工程装置の受注にはまだ反映されていない。こうした現状から、中国新興メモリー企業の実際の製品が市場で流通するのは、もう少し先か

 

 国産化率アップに向けて、巨額の政府補助金を投じてきた中国半導体産業。もともと、SMICなどのロジックファンドリーは市場でも存在感を見せていたが、今回の投資バブルではメモリーの国産化に焦点が当てられた。

 2018年11月の米国政府による製造装置の輸出規制に伴い、福建省泉州で工場建設を進めていたJHICC(晋華集成電路)は立ち上げがストップ。現在も身動きが取れない状況が続くが、残る2社のYMTC(長江存儲科技、湖北省武漢市)とCXMT(長鑫存儲科技、安徽省合肥市)は量産立ち上げの準備を進めている。ウエハー生産の本格化に伴い、今後は組立・テストなど後工程の生産体制の整備も求められることになりそうだ。

YMTCは64層を年末から商業生産

 YMTCは、19年8月に重慶市で開催されたスマート製造展示会で、3D-NANDの64層世代を使って作製したウエハーを展示。これまで展示会で32層品を展示することはあったが、64層品を社外で公開したのはこれが初めてと見られている。

 現在、武漢にある量産工場では64層世代の量産ラインの導入(月産2万枚規模)が進められている。18年に月産5000枚のパイロットラインを導入し、32層および64層の試作を行ってきたが、今後は量産フェーズに移行していくことになる。64層世代には「Xtacking」と呼ばれる独自の貼り合わせ技術(32+32層)を採用している。販売先はいまだ不確定な部分もあるが、ファーウェイ向けの大型受注や、日本国内の企業からの引き合いがあったと見られる。

 今後顧客の確保が順調に進めば、20年に向けて月産3万枚分の追加投資計画が具体化してくるとみられ、Samsungや東芝メモリ、Micronなど既存プレーヤーにとっても、悩ましい存在となってきそうだ。

CXMTは1万枚規模のライン構築

 合肥で先端DRAMの国産化プロジェクトを担うCXMTは、YMTCと同じく18年にパイロットラインを導入。19nm世代のDRAMを試作し、19年末に向けて月産1万枚規模の生産ラインを構築する。国内装置メーカー大手のSCREENホールディングスが発表した19年4~6月業績においても、DRAM向けのSPE(半導体製造装置)受注高が前四半期比で大きく伸びているが、主に中国顧客によるものだと説明しており、CMXTの量産用装置のオーダーだと推定される。

 CXMTの技術開発チームはInotera出身者の台湾チームと、Samsung出身者の韓国チームの2チームが存在していた。開発方針の変更(D19x→D19y)に伴い、もともと17nm世代の開発に求められていた韓国チームが19nm世代の開発にも合流。分散していた開発リソースが19nm世代の開発に集まったことで、プロセス開発のスピードが一気に早まった印象だ。

OSAT各社の参戦状況

 YMTC、CXMTともに19年末から一部商業生産に入ることで、半導体製造のサプライチェーンとしては後工程生産の枠組みづくりも大きなポイントとなりそうだ。両社ともに自社での生産はウエハープロセスを行う「前工程」に特化しており、組立・テストなどの後工程はOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly & Test)企業など外部リソースの活用が前提条件となっている。

 YMTCに関しては現状、3社が後工程生産の受け皿として候補に挙がっている。その筆頭がUniMOS(紫光宏茂)だ。同社は台湾OSAT大手のChipMOS(南茂科技)と中国・紫光集団の合弁会社。前身はChipMOSの上海工場で、同工場をJV化させた。もともと、ChipMOSは台湾メモリーメーカーなどから後工程を受託しており、メモリーアセンブリーの経験を持つ。

 残る2社は米Amkor Technologyと台湾Powertech Technologyだ。Amkorは上海工場でNANDの組立・テストラインを保有。東芝メモリも同工場に後工程を委託するなど、近年はメモリー分野の事業拡大に注力している。Powertechはメモリー系OSATとしては世界最大手に位置しており、旧Spansionの蘇州工場をベースにYMTCからの受託を目指している。

 もともと、中国新興メモリー企業の後工程受託について、Powertechは様子見に近いスタンスであったが、ここにきて参戦表明をしてきた格好だ。背景にはMicronなど既存顧客からの受託量が減少していることなども影響する。Micronは昨今、後工程を自社で行う「内製化」を積極的に推進しており、OSATへの発注量を減らす方向を打ち出している。

 CXMTの後工程事業については、深センに本社を構えるPayton Technologyと、無錫に本社を構えるWuxi TAIJI Industry(無錫太極実業)を中心に生産体制の構築が進みそうだ。特に太極実業は韓国SK Hynixと無錫でDRAM後工程の合弁会社「Hitech Semiconductor(海太半導体、出資比率=太極55%、SK45%)」を運営しており、DRAM後工程で豊富な知見を有している。

後工程装置の本格発注は?

 後工程生産体制の構築が必須となるなか、後工程装置メーカーへの大型発注も期待されるところだが、国内大手の組立装置メーカーの多くが「今のところはまとまったボリュームには至っていない」と声を揃える。年末からの商業生産を考慮すれば、すでに装置メーカーへの引き合いはあって当然だが、まだ商談が具体化していない。

 こうした現状から、中国新興メモリー企業の実際の製品が市場で流通するのは、もう少し先になると思われる。いずれにせよ、筆者も含めて業界関係者も懐疑的に見ていた中国メモリーの国産化が、当初スケジュールからは遅れたものの、確実に前進している。既存のメモリーメーカーも、今後本格的な中国勢との戦いを強いられることになりそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳

まとめにかえて

2019年の半導体設備投資は大手メモリーメーカーの投資抑制に伴い、年初想定より厳しい状況が続いていましたが、年央以降持ち直しの傾向が見られるようになってきています。いくつか要因がありますが、今回取り上げた中国新興メモリー企業の量産ライン構築もその1つです。20年に向けては、この量産ラインを使った商業生産に軸足が置かれることになりますが、軌道に乗れば21年からの大型投資につながる可能性もあり、業界関係者も動向に大きな関心を寄せています。

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