黄色い建機を作って売る会社。私の中のコマツ(6301)像は、長いあいだそれだった。ところが有価証券報告書の事業の内容を開くと、油圧ショベルやブルドーザーの並びに「ソリューションビジネス」という区分がある。そこに置かれているのは、無人運行システムやフリート管理、そして機械の稼働を遠隔で管理する仕組みだ。看板の内側は、思っていたほど機械一辺倒ではない。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- ①KOMTRAXの配車台数は2026年3月末時点で827,286台、鉱山向け無人ダンプトラック運行システムの総稼働台数は1,016台
- ②2026年3月期の営業利益率13.7%は、機械業種158社の中央値7.9%を大きく上回る
- ③研究開発費は5期で774億円から1,211億円へ増え、その9割超が建設機械・車両事業に向かっている
1. 有価証券報告書に置かれた「ソリューションビジネス」という区分
コマツの事業は3つの部門に分かれている。建設機械・車両、リテールファイナンス、産業機械他だ。グループは連結子会社211社と持分法適用会社39社で構成されている。
建設機械・車両事業の主要製品を眺めると、油圧ショベル、ホイールローダー、ブルドーザー、ダンプトラック、林業機械、地下鉱山機械と並ぶ。ここまでは想像どおりだろう。
目を引くのは、その並びの末尾に置かれた区分である。無人ダンプトラック運行システム(AHS)、フリート管理システム、鉱山機械シミュレーター、坑内掘り通信デバイス、スマートコンストラクション、KOMTRAX、林業施業ソリューション。これらが「ソリューションビジネス」としてまとめられている。
機械メーカーの製品リストというより、現場の運用そのものを預かる事業者の品揃えに近い。会社は自らのありたい姿を「安全で生産性の高いクリーンな現場を実現するソリューションパートナー」と定義しており、機械を売る会社という自己認識ではないことがはっきり読み取れる。
2. 82万台の稼働データは、収益構造のどこに表れているのか
規模を数字で見よう。KOMTRAXの配車台数は2026年3月末時点で827,286台。会社の説明では、位置情報や稼働情報、機械診断情報などを遠隔で管理する技術にあたる。
鉱山向け無人ダンプトラック運行システムの総稼働台数は1,016台、林業機械のフリートシステムは3,875台。ハイブリッドシステムを積んだ油圧ショベルの累計導入台数は6,116台に達している。
82万台という規模がどういう意味を持つか。売った機械がいまどこで何時間動いているかが見えていれば、部品の交換時期は読める。地域ごとの需要の変調も、統計より早く手元に届くはずだ。
建機メーカーは景気循環に振り回される装置産業だ、というのが一般的な見方だろう。需要は金利、資源価格、公共投資に揺さぶられる。実際、業績は毎期きれいに右肩上がりというわけではない。
ところが利益率を並べると、その見え方とは少し違う姿が出てくる。2026年3月期の売上高は4兆1,327億円、営業利益は5,673億円で、営業利益率は13.7%になる。機械業種158社の営業利益率の中央値は7.9%だ。
2027年3月期1Qも同じ傾向だ。売上高1兆431億円に対して営業利益1,515億円で、営業利益率は14.5%。前期通期の水準をさらに上回っている。
純利益率でも構図は変わらない。過去5期は8.0%、9.2%、10.2%、10.7%、9.1%と推移し、機械業種の中央値6.9%を毎期上回ってきた。
景気に振られる事業でありながら、利益率の床が業種平均より高い位置にある。この差を作っているのは、機械を売った後に続く収益、つまりアフターサービスとソリューションの層だと読むのが自然だろう。
循環株だから利益率も循環する。そのイメージは半分だけ正しい。利益率は確かに上下するが、上下する帯そのものが業種平均より上に置かれている。二つは同時に成り立っている。
3. 直近1カ月の株価と、PER19倍台・PBR1.88倍という値付け
8月24日の終値は7,414円だった。1カ月前の7月24日は6,642円なので、この間の上昇率は+11.6%になる。
ただし道のりは平坦ではない。8月10日に7,446円をつけたあと、8月19日には6,807円まで下押しし、そこから再び切り返した。直近1カ月で最も高い終値はその8月10日の7,446円で、足元はそこに迫る水準にある。
足元の動きも大きい。8月21日の7,065円から8月24日の7,414円まで、1営業日で+4.9%動いた。
バリュエーションは直近時点でPER(株価収益率)19.05倍、PBR(株価純資産倍率)1.88倍。機械メーカーの平均像から高いとみるか、ソリューション事業を抱える企業として見るかで、この数字の読み方は変わる。市場がどちらの物差しを当てているかは、株価だけからは分からない。
押さえておきたいのは、会社の2027年3月期予想が減益計画である点だ。売上高は4兆3,020億円で前期比+4.1%だが、営業利益は5,550億円で▲2.2%、当期純利益は3,490億円で▲7.3%となっている。
減益計画の下で株価が水準を切り上げている。この非対称をどう説明するかが、当面の論点になる。会社が見込む数字より、その先にある収益構造を市場が見ている可能性はある。
4. 筆者コメント
見逃せないのは、82万台という数字が「売った台数の累計」ではなく「いまつながっている機械の数」だという点だ。
建機は売った瞬間に関係が切れる商品ではない。長く現場に残り、部品を食い、整備を要する。その全期間の稼働が見えているということは、交換部品の発生も、地域ごとの需要の温度も、かなりの精度で推定できるということだ。
製造業の顔をしたデータ事業。そう呼んでもいい側面が、この会社にはあると考えている。決算資料に「データ事業」という区分は出てこないが、利益率の高さの一部はそこから来ているとみている。
だから決算を読むとき、機械の販売台数だけを追わないでほしい。売った機械がその後どれだけ働いているか。そこに目を向けると、同じ決算短信が違って見えてくる。
