「もう60歳、70歳になってしまった。今から老後資金を準備しても間に合わないのでは」。そう感じている方もいるでしょう。
しかし、2026年は年金制度・雇用制度の両方で見直しが行われた年でもあります。60歳・70歳という年齢の意味を、あらためて確認しておきます。
なお、年代別の年金受給額については、下記の記事より一部を引用・参照しています。
- 「70歳まで働ける」のは義務ではなく努力義務で、企業によって対応は分かれます
- 在職老齢年金の支給停止基準額は2026年4月から月51万円→65万円に引き上げられます
- 1000万円を貯めるための月額積立は、65歳開始だと60歳開始の2倍以上になる計算です
1. 「70歳まで働ける」は義務ではない
「70歳まで働ける時代」という言葉を聞くことが増えましたが、この言葉が意味する内容を正確に理解しておく必要があります。
1.1 65歳までは義務、70歳までは努力義務
厚生労働省が所管する高年齢者雇用安定法では、企業に65歳までの雇用確保を義務づけています。一方、2021年4月の改正で新設された70歳までの就業機会確保は、努力義務にとどまります。
努力義務のため、70歳までの定年引き上げや継続雇用制度の導入は、企業の判断に委ねられている部分が大きく、業種や企業規模によって対応にはばらつきがあります。「70歳まで働ける」という言葉を、すべての企業に当てはまる前提として受け止めるのは早計です。
1.2 60代の約5割が「66歳以上でも働きたい」と回答
内閣府が令和5年度に実施した「生活設計と年金に関する世論調査」によると、60代の約5割が「66歳以上でも働きたい・働いている・働いていた」と回答しています。
働きたいという希望を持つ人が多い一方、実際に70歳まで働ける環境が整っているかどうかは、勤務先の制度次第という現実があります。
2. 【編集者の視点】
「70歳まで働ける社会」という言葉は、聞こえの良い響きがありますが、その実態は「義務」ではなく「努力義務」です。この違いを正確に理解していないと、自分の勤務先が70歳まで働ける環境を用意してくれると、漠然と期待してしまうかもしれません。
60歳、65歳という節目が近づいてきたら、自分の勤務先の就業規則を確認し、実際にどのような雇用形態・条件で働き続けられるのかを、具体的に把握しておく必要があります。継続雇用後は、賃金水準が現役時代より下がるケースも少なくありません。
防衛策としては、定年の数年前から、人事部門に継続雇用後の労働条件(賃金、勤務日数、業務内容)を確認しておくことです。「働けるはず」という期待だけで老後資金の計画を立てず、実際の制度を確認したうえで見通しを立てるとよいでしょう。
3. 在職老齢年金の基準額が2026年4月から引き上げ
60代以降も働きながら年金を受け取る方にとって、2026年度は制度上の大きな変化がある年です。
3.1 支給停止基準額が月51万円から65万円へ
政府広報オンライン(2026年2月17日公表)によると、在職老齢年金制度における支給停止の基準額は、令和7年度(2025年度)の月51万円から、令和8年度(2026年度)は月65万円に引き上げられました。
この制度は、賃金と老齢厚生年金の合計が基準額を超える場合、超えた額の半分の老齢厚生年金が支給停止されるというものです。基準額が引き上げられたことで、これまでより多くの年金を受け取りながら働けるようになりました。
3.2 【在職老齢年金の基準額引き上げによる変化】
在職老齢年金の基準額引き上げでどうなる?1/2
出所:政府広報オンライン「もっと働きたい!に応えて、在職老齢年金制度の基準額が2026年4月から引上げに」2026年2月17日などを基にLIMO編集部作成
令和7年度(2026年3月まで)
- 基準額51万円、月56万円のケースでは月2万5000円が支給停止(年30万円)
令和8年度(2026年4月から)
- 基準額65万円に引き上げ、同じ月56万円のケースでは全額支給に
この見直しにより、年間で老齢厚生年金の受給額が30万円増えるケースも生まれます。60代で働きながら年金を受け取っている、あるいはこれから受け取る予定の方は、この変更を踏まえて働き方を見直す余地があります。
4. 【編集者の視点】
在職老齢年金の基準額引き上げは、「働くと年金が減る」という理由で就業時間を調整してきた方にとって、選択肢を広げる変化だといえます。
内閣府の調査でも、60代後半の3割以上が「年金額が減らないよう時間を調整して働く」と回答しており、この制度を意識して働き方を調整してきた人が一定数いることが分かります。基準額が引き上げられたことで、こうした調整の必要性が薄れる方も出てくるでしょう。
ただし、基準額はあくまで老齢厚生年金と賃金の合計に対するものであり、老齢基礎年金は調整の対象外です。また、年収が非常に高い方は、引き上げ後の基準額を超える場合もあります。
防衛策としては、自分の年金見込み額と現在(または今後)の賃金水準を照らし合わせ、支給停止の対象になるかどうかを、年金事務所やねんきんネットで具体的に確認することです。「働くと年金が減る」という漠然としたイメージだけで働き方を決めるのは、機会損失につながる可能性があります。
5. 60歳・65歳・70歳、いつから始めるかで必要な積立額は変わる——編集部試算
老後資金の準備を始める年齢によって、同じ目標額に到達するための負担がどれだけ変わるのか試算しました。
5.1 1000万円を貯めるための月額積立の目安
年利3%で運用しながら、70歳までに1000万円を貯めることを目標にした場合、開始年齢によって必要な月額積立は大きく変わります。
5.2 【積立開始年齢別・必要な月額積立(編集部試算)】
必要な毎月の積立額(編集部試算、税金・手数料は考慮しない)2/2
出所:LIMO編集部作成
60歳から始める場合
- 10年間で月約7万2000円の積立が必要
65歳から始める場合
- 5年間で月約15万5000円の積立が必要
開始が5年遅れるだけで、必要な月額積立は2倍以上に増える計算です。「今から始めても遅い」と諦める前に、目標額と期間を調整することで、無理のない金額に近づけられる可能性があります。
6. 【編集者の視点】
「60歳・70歳からでは遅い」と考えて何も始めない選択と、「月7万円は難しいから月3万円で始める」という選択とでは、最終的な結果が大きく変わってきます。
目標額を1000万円と固定する必要はありません。今の家計で無理なく続けられる金額から始め、必要であれば目標額を下方修正する、あるいは就業期間を延ばして期間を確保するという柔軟な発想も有効です。
また、この試算はあくまで年利3%という一定の運用成果を前提にしたものです。実際の運用成果は市場次第で変動するため、計画通りに進まない可能性もある点は念頭に置いておく必要があります。
防衛策としては、月々の積立額を決める前に、まず自分の家計で無理なく継続できる金額を把握することです。証券会社のシミュレーションツールを使い、複数の金額・期間のパターンを比較したうえで、現実的な計画を立てることをおすすめします。
7. 年代別の年金受給額から、自分の位置を確認する
60歳・70歳の見直しにあたって、まず自分の年金受給額が、同世代の中でどのあたりに位置するのかを確認しておくことも役に立ちます。
7.1 60代・70代・80代で年金受給額は変わっていく
日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」および厚生労働省年金局の資料によると、厚生年金の平均月額は、60代で9万9664円〜15万2709円、70代で14万455円〜15万3115円、80代で15万3729円〜16万6767円と、年代によって幅があります。
年代が上がるほど平均額が高くなる傾向があるのは、現役時代の賃金水準や加入期間の違いが影響しています。自分より上の世代の平均額を見て「自分は少ない」と単純に比較するのではなく、自分自身の見込み額をねんきん定期便やねんきんネットで確認することが重要です。
8. 【編集者の視点】
年代別の平均額を見ると、80代の方が60代より年金額が高いという結果に、意外に感じる方もいるでしょう。これは、現役時代の賃金水準や、加入していた年金制度の違いなど、世代ごとの背景が影響しているためです。
大切なのは、平均額と自分の実際の受給見込み額を混同しないことです。平均額はあくまで参考情報であり、自分の年金額は、自分の加入記録に基づいて決まります。
また、住民税非課税世帯に該当するかどうかは、年金額だけでなく、その他の所得や世帯構成によっても変わります。60歳・70歳という節目のタイミングで、自分の世帯がどのような制度の対象になり得るか、一度整理しておくとよいでしょう。
防衛策としては、ねんきんネットで自分の年金見込み額を確認し、あわせてお住まいの自治体窓口で、住民税非課税の基準や対象になる制度について尋ねておくことです。60歳・70歳の節目ごとに、こうした確認を行う習慣をつけておくと、見直しの漏れを防げるでしょう。
9. まとめ
- 「70歳まで働ける」のは義務ではなく努力義務で、実際の対応は勤務先の制度によって異なります
- 在職老齢年金の支給停止基準額は2026年4月から月51万円→65万円に引き上げられます
- 1000万円を貯める場合、65歳開始の月額積立(約15万5000円)は60歳開始(約7万2000円)の2倍以上になります
60歳・70歳という年齢は、「もう遅い」と諦める理由にも、「まだ間に合う」と安心する理由にもなり得ます。大切なのは、自分の勤務先の雇用制度と、年金・資産の見込み額を、具体的な数字で把握することです。
まずは、継続雇用後の労働条件と、在職老齢年金の対象になるかどうかを確認し、無理のない積立計画を証券会社やファイナンシャルアドバイザーに相談してみてはいかがでしょうか。
10. よくある質問
10.1 Q. 70歳まで働くことは保証されていますか
A. いいえ。65歳までの雇用確保は企業の義務ですが、70歳までの就業機会確保は努力義務です。実際に70歳まで働けるかどうかは、勤務先の制度によって異なります。
10.2 Q. 在職老齢年金の基準額はどう変わりますか
A. 令和7年度(2025年度)の月51万円から、令和8年度(2026年度)は月65万円に引き上げられます。基準額を超えた分の半額が支給停止される仕組みは変わりません。
10.3 Q. 60歳から老後資金を貯めるのは遅いですか
A. 開始年齢が遅いほど必要な月額は増えますが、目標額や期間を調整することで対応できる場合もあります。編集部試算では、65歳開始は60歳開始の2倍以上の月額積立が必要という結果でした。
参考資料
LIMO編集部貯蓄解説班

