統計は嘘をつかないが、統計使いは統計を使って嘘をつくから気をつけよう、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は諭します。

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統計は、時として不正確かもしれませんが、嘘はつきません。嘘をつくのは、統計を使って他人を騙そうとする悪徳統計使いです。場合によっては悪徳でない統計使いが、自分自身で統計の使い方を単に誤っているだけ、という場合もありますが(笑)。

因果関係については『警官が多い街には犯罪が多い理由が2つある~統計のウソを見抜く法』で記しましたので、今回は因果関係以外に気をつける事項について記していきます。

統計は過去の数字だから、バックミラーのようなもの

統計を見ないで物事を論じるのは危険過ぎます。しかし、統計を信じすぎるのも危険です。統計は過去の数字であって、これを見ながら意思決定をするのはバックミラーを見ながら運転するようなものだからです。

たとえばバブル期には地価が高騰を続けていましたから、不動産を担保とした融資は焦げ付きませんでした。借金を踏み倒されても担保の土地を売れば貸出金は回収できたからです。

そこで、貸出を実行したい融資担当者は「昨年の不動産担保融資は全く焦げ付きませんでした。統計を見れば、不動産投資が安全だということは一目瞭然です」と主張したはずです。これに正面から反論することは容易ではなく、多くの不動産担保融資が実施されてしまったというわけですね。

今で言えば、「過去何十年も物価は上がっていないのだから、今後も上がらないはずだ」というのが似たようなものだと筆者は考えています。そこで、過去の物価のデータに影響されすぎないように気をつけています。

「氷に熱を加えても温度は上がらないが、氷が融け終わると急に熱が上がり始める。今がその転換点かもしれない」というのが筆者の現時点での物価に対する考え方です。

グラフにも要注意

下のグラフを見て下さい。3社の中で、一番売り上げが急激に増加しているのはA社なのですが、そう見えますか? 配布資料をじっくり眺める場合はともかくとして、スライドを使ったプレゼンテーションなどで「A社は伸び悩んでいます」などと言われたら、信じてしまいそうですね。

Aは1から2に100%増加しています。Bは10から19に90%の増加です。グラフの傾きが増加率とは異なるので、要注意です。さらに注意が必要なのは、C(10から18へ、80%の増加)が右目盛を使っていて、右軸がゼロから始まっていないことです。統計使いがグラフを使って嘘をつく際の典型的なテクニックですから、覚えておきましょう。

話術にも要注意

「これまでの私の手術は、10回に1回は失敗しています。昨日の手術も失敗でした」という医師と、「私の手術の成功率は9割を誇っています。昨日の手術も大成功でした」という医師と、どちらの手術を受けたいでしょう。同じですね(笑)。