目薬のブランドは知っていても、その会社の決算まで追っている人はそれほど多くないだろう。参天製薬(4536)は眼科領域に事業を絞り込んだ医薬品メーカーだ。株価は直近で前日から3%を超えて下押しし、この1カ月で見ても水準は切り下がっている。ただ5期の数字を並べると、売上収益と利益の関係が静かに入れ替わってきたことが見えてくる。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- ①2027年3月期1Qの売上収益は690億円で前年同期比+0.3%にとどまる一方、当期利益は71億円で+22.4%と伸びた
- ②株価は8月上旬に1,856円まで下押ししたのち中旬に1,970円まで戻し、直近は1,880円。PERは15.1倍、PBRは2.01倍
- ③5期で発行済株式数が2割近く減り、ROEは8.4%から12.8%へ切り上がった
1. 増益の決算と下押しした株価。同じ局面に並んだ二つの事実
直近の終値は1,880円だ。前日の1,950円から70円、率にして3.6%の下落となった。
過去1カ月をたどると、7月下旬に2,021円まで上げたのがこの期間の上限だった。そこから8月上旬には1,856円まで下押しし、中旬には1,970円まで買い戻される場面もあった。
つまり足元の1,880円は、1カ月のレンジのやや下寄りに位置する。期間の起点だった1,963円と比べても4%程度低い水準だ。
バリュエーションを見ておくと、直近時点のPER(株価収益率)は15.1倍、PBR(株価純資産倍率)は2.01倍である。1Q末の1株当たり純資産は935円だったから、株価はその2倍程度で取引されている計算になる。
財務の側は厚い。1Q末の総資産は4,158億円で、自己資本比率は72.2%だ。1Qの営業キャッシュフローは52億円、投資キャッシュフローは▲9億円、財務キャッシュフローは▲78億円である。
株価が動く理由は相場全体の地合いや需給も絡むため、単一の材料に還元はできない。ただ直近1カ月の値幅がおおむね1,850円台から2,020円台に収まっていることを踏まえると、決算をめぐる思惑と、その後の利益確定が交互に出た可能性は高い。
2. 売上収益は横ばい、当期利益は2割増。1Qはどこが動いたのか
2027年3月期1Qの売上収益(IFRS)は690億円で、前年同期比+0.3%だった。営業利益は81億円で+7.2%、当期利益は71億円で+22.4%と伸びている。
売上がほぼ横ばいで利益だけが伸びた形だ。会社の説明によると、薬価改定などの影響を受けながらも、新製品と主力製品の拡大に注力した結果だという。
地域別に開くと、絵はもっとはっきりする。日本は296億円で前年同期比▲19.3%と大きく落ち込んだ。会社は一部主力品の市場拡大再算定と、後発医薬品の参入の影響を挙げている。
一方で海外は3地域そろって伸びた。中国は75億円で+19.5%、中国を除くアジアは95億円で+39.4%、EMEAは219億円で+17.7%である。
ただし、ここは為替の効果を抜いて見ておきたい。会社が併記した為替影響を除く成長率は、中国が+2.9%、アジアが+31.7%、EMEAが+4.0%だ。
そうなると、実体として伸びているのはアジアであって、中国とEMEAの二桁増収は円換算の押し上げが大きいと読める。国内の2割減を海外で埋めた構図は、見た目ほど分厚くはない。
国内の内訳では、一般用医薬品が28億円で前年同期比▲5.6%だった。制度側の圧力は処方薬に強く出ているが、市販薬の側も伸びてはいない。
3. 通期計画は増収増益。1Qの進み方が示す会社の前提
会社が置いた2027年3月期の通期計画は、売上収益3,110億円で前期比+6.6%、営業利益495億円で+3.6%、当期利益400億円で+7.0%である。
1Qの実績をこの計画に当てると、売上収益は22%程度、営業利益は16%程度、当期利益は18%程度の進み方になる。単純に4等分した25%には届いていない。
もっとも、これを出遅れと決めつけるのは早い。会社は費用面の前提をかなり具体的に示している。
短信では、売上原価率を40%と前期から2ポイント下げる計画が置かれている。一方で販売費及び一般管理費は995億円で+11.8%、研究開発費は275億円で+7.6%へ増やすという。いずれも同社が用いるコアベースの数字だ。
事業活動そのものの収益性を示すコア営業利益は590億円、前期比+7.0%を見込むとしている。コア営業利益率は前期と同じ19%の想定だ。
費用を期の後半に厚く配分する前提なら、1Qの利益進捗が線形を下回ることは織り込み済みだろう。逆に言えば、下期の費用増を吸収できるだけの増収が要る計画でもある。
4. 筆者コメント
なぜ増益の決算が出たあとに、株価は水準を切り下げているのだろうか。
私はここで、利益の伸び方の中身を疑いたくなる。当期利益の伸び率は、営業利益の伸び率の3倍近い。差が付いたのは営業利益より下の段だということになる。
そして地域別の伸びは、為替を抜くと一気に穏やかになる。国内が2割落ちたという事実は、為替でも新製品でも消えない。
眼科領域に絞った事業構造は、需要が景気に左右されにくいという強さを持つ。同時に、薬価と後発品という制度側の圧力を正面から受ける弱さも抱えている。国内の落ち込みは、その弱さが出た部分だろう。
株価が素直に反応しないのは、利益の伸びが制度の圧力を跳ね返したものなのか、1四半期ではまだ判別できないからではないだろうか。決算を見るときは、利益の増減幅より、どの段で増えたのかに目を向けることをおすすめしたい。
