オムロン(6645)という社名から連想するのは、工場の生産ラインを動かす制御機器だろう。私も長いあいだ、そういう会社として見てきた。

だが直近の四半期で稼いだ利益の中身を分解すると、家庭の血圧計と駅の改札という、まったく別方向の顔が出てくる。しかもそれは、いまも売上と利益を生んでいる現役の事業だ。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

この記事の3つのポイント
  • ①制御機器に次ぐ第2の柱はヘルスケアで、2027年3月期1Qの外部収益は364億円、営業利益は前年同期比+101.7%
  • ②血圧計の1号機は1973年、世界初の無人駅システムは1967年。どちらも沿革に残り、いまの事業構造につながっている
  • ③株価は直近1カ月で2割上げたが、年次のROEは業種中央値を下回る。四半期の勢いと資本効率のズレをどう捉えるか

社名が連想させる姿と、四半期の利益の中身が食い違う

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

オムロンの業種区分は電気機器で、社名から立ち上がるのは工場の自動化を担う制御機器の会社という像だろう。2027年3月期1Qの数字を見ても、その像そのものは間違っていない。

制御機器事業の外部収益(IFRS)は1,312億円で前年同期比+37.2%、営業利益は213億円で+100.8%。四半期の伸びを牽引したのは、たしかにこの事業である。

だが同じ四半期のセグメント別開示には、もう3つの事業が並んでいる。ヘルスケア事業の外部収益は364億円で+16.7%、営業利益は24億円で+101.7%。社会システム事業は242億円で▲2.0%、データソリューション事業は131億円で+22.8%だった。

注目したいのは、ヘルスケアの営業利益の伸び率が制御機器をわずかに上回っている点だ。AI関連の設備投資という強い材料に引っ張られた制御機器と、家庭用の血圧計を主力にするヘルスケアが、同じ四半期にほぼ同じ速度で利益を倍にした。

電気機器という粗い括りでは、この二重構造はまず見えてこない。

血圧計と無人駅システムは、いまの4事業のどこに残っているか

ヘルスケアが第2の柱になった経緯は、有価証券報告書の沿革をたどると輪郭がはっきりする。

沿革には、1973年に「オムロンの血圧計1号機」が登場したことが記されている。半世紀以上前だ。その後2003年7月にヘルスケア事業を分社してオムロンヘルスケアを設立し、2013年10月には京都府向日市に同社の研究開発拠点と本社を開設している。

沿革はさらに、2018年に世界初のウェアラブル血圧計、2019年に世界初の心電計付き血圧計を出したと記す。血圧計という一見地味な製品カテゴリの中で、測る場所と測る項目を増やし続けてきた足跡が残っている。

そして直近の1Qでは、会社が「主力の血圧計」と明記したうえで、日本・アジアのオンライン向け販促施策が奏功して前年同期を大きく上回ったと説明している。1973年の1号機は、いまも収益を生む現役の商品群につながっている。

オムロンのもう一つの顔は、駅にある

沿革の1967年3月の欄には、世界初の無人駅システムが阪急北千里駅で稼動したと記されている。切符を機械が読み取って人を通す仕組みを、この会社が最初に動かした。それが現在の社会システム事業の源流だ。

1Qでも、会社は蓄電システムが低調だった一方で鉄道事業やマネジメント・サービス事業が堅調に推移したとしている。鉄道は撤退した過去の話ではなく、242億円の外部収益を支える一角として現在も残っている。

対照的なのは、手放した事業のほうだ。同社は2004年10月、共同新設分割によってATM(現金自動預払機)等の情報機器事業を日立オムロンターミナルソリューションズへ承継している。紙幣や通帳を読み取る機械は外に出し、体を測る機械と駅を通す機械は内に残した。この選別が、いまの4事業の輪郭を決めている。

4つ目のデータソリューション事業も、無関係ではない。沿革では2013年10月に医療統計データサービス事業のJMDCを子会社化し、2023年12月にデータソリューション事業本部を設立したとある。1Qの営業利益は3億円で、前年同期の営業損失から黒字転換した。まだ小さいが、測って集めたものを売る事業が独立した箱として立ち上がりつつある。

読み取る、測る、判定する。センサーとしての機能を軸に事業を並べ替えると、工場の制御機器と家庭の血圧計と駅の改札は、隣同士に置かれた製品群として理解できるのではないだろうか。

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出所:オムロン株式会社 2027年3月期1Q決算短信をもとに筆者作成

出所:オムロン株式会社 2027年3月期1Q決算短信をもとに筆者作成

1カ月で2割上げた株価が、直近では反落した

市場はこの構造をどう扱ってきたのか。直近1カ月の終値を並べると、動きはかなり大きい。

7月21日の終値5,358円に対し、直近の8月19日は6,436円。約1カ月で2割の上昇だ。7月下旬は5,100円台から5,600円台のレンジにとどまり、方向感は乏しかった。

転換点は8月上旬にある。8月5日の5,931円から8月6日には6,819円へと大きく切り上がり、水準が一段上へ移った。1Qの内容が意識された可能性はあるが、株価の動きには需給や相場全体の地合いも絡むため、単一の要因に寄せて断定はできない。

その後も上値を追い、8月17日には7,043円をつけた。直近1カ月の終値では最も高い水準だ。ただ8月18日は6,850円、直近の8月19日は6,436円と、2営業日で上げ幅の一部を吐き出している。ボラティリティ(株価の日々の値動きの激しさ)は高い。

直近時点のバリュエーションは、PER(株価収益率)が31.25倍、PBR(株価純資産倍率)が1.52倍だ。前営業日はそれぞれ33.26倍・1.62倍だったので、株価の反落とともに倍率も下がった。それでもPERは30倍を超えており、利益の水準に対しては高い位置にある。ここから先は通期の利益が実際に積み上がるかどうかが、この倍率を支える条件になるだろう。

筆者コメント

印象的なのは、この会社の意外性が「過去の逸話」で終わっていないことだ。

血圧計の1号機も世界初の無人駅システムも、半世紀前の出来事である。普通なら社史の1ページで済む。ところがどちらも、いまのセグメント別開示の中に売上と利益として残っている。

ではなぜ、イメージのほうだけが更新されないのか。理由の一つは、事業の見え方の非対称性ではないだろうか。制御機器は設備投資サイクルという分かりやすい物差しで語られ、AIや半導体という強い材料と結びつく。一方、家庭の血圧計は生活財に近く、市場の話題にはなりにくい。同じ会社の中で、光の当たり方がまるで違う。

もう一つは社名の慣性だと考えられる。社名が制御機器の会社という像を先に立ててしまうと、投資家はその像に合う数字だけを拾って読んでしまう。

1カ月の値動きを追うことも大事だが、その会社が何を測り、何を読み取って稼いでいるのかを一度分解してみることをおすすめしたい。