公的年金は偶数月にまとめて支給されるため、次の支給に向けて家計のやりくりを見直す方も多い時期です。

老後の生活費は年金だけで足りるのか、貯蓄はどのくらい持っておけば安心なのか。数字を見ないまま漠然とした不安を抱えている方は少なくありません。

この記事では、65歳以上・無職夫婦世帯の貯蓄額と家計収支の実態を確認したうえで、貯蓄を現金のまま持つか、一部を運用に回すかによって、月々の赤字にどれだけ差が出るのかを試算します。

奥田 朝
「貯蓄はあるが、運用に残すべきか現金化すべきか判断がつかない」というご相談をよくいただきます。この記事では貯蓄と家計収支の実態に加えて、運用に回した場合の効果を試算します。

なお、65歳以上世帯の貯蓄額や家計収支の実態については、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説
【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説
ココがポイント
  • 65歳以上無職夫婦の平均貯蓄額は2494万円。6年ぶりに前年から減少した
  • 毎月の家計収支は約4万2000円の赤字。年金だけでは足りない構造
  • 貯蓄の一部を年利2%で運用すると、赤字の98%を運用益でカバーできる試算に

1. 65歳以上無職夫婦の平均貯蓄額は2494万円

65歳以上世帯の貯蓄額の実態については【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説でも取り上げられていますが、ここでは最新の内訳を確認します。

総務省統計局の「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-(二人以上の世帯)」によると、世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上の世帯)の平均貯蓄額は2494万円でした。

1.1 世帯主が65歳以上の無職世帯の貯蓄の種類別現在高の推移(二人以上の世帯)

この点について、同記事ではこう述べられています。

この平均貯蓄額は2024年の2560万円から66万円(▲2.6%)減少し、6年ぶりにマイナスに転じました。

貯蓄の種類別に見ると、最も多いのは定期性預貯金で778万円です。次いで通貨性預貯金が766万円、有価証券※1が510万円、生命保険などが426万円、金融機関外※2の貯蓄が13万円となっています。

前年からの増減では、定期性預貯金が-81万円(-9.4%)、通貨性預貯金が-35万円(-4.4%)とそれぞれ減少した一方で、有価証券は+9万円(+1.8%)と伸びを見せています。物価上昇を受けて、現金・預金から運用資産へと少しずつ資産を移す動きがうかがえます。

※1 有価証券:株式、債券、株式投資信託、公社債投資信託、貸付信託、金銭信託など(いずれも時価)
※2 金融機関外:金融機関以外への貯蓄のことで、社内預金、勤め先の共済組合への預金など

奥田 朝
有価証券だけが増えているという内訳は、実務でも実感する動きです。物価上昇のなかで「現金のままでは目減りする」という感覚を持つ方が、少しずつ運用へ資産を移していらっしゃいます。ただし、すべてを一度に動かす必要はありません。

2. 有職世帯を含めると平均2564万円、中央値は1777万円

同じ調査から、有職世帯も含めた世帯主が65歳以上世帯全体の貯蓄額も見てみましょう。

2.1 世帯主が65歳以上の世帯の現在貯蓄高階級別世帯分布(二人以上の世帯)ー2025年ー

65歳以上の二人以上世帯の貯蓄額(平均・中央値)

  • 平均値:2564万円
  • 貯蓄保有世帯の中央値(※):1777万円

有職世帯を含めた65歳以上の二人以上世帯における平均貯蓄額は2564万円ですが、貯蓄が0円の世帯を除いた中央値を見ると1777万円にとどまり、平均値よりも約790万円低い結果となっています。

この差について、同記事は次のように指摘しています。

このことから、一部の貯蓄額が非常に多い世帯が全体の平均値を押し上げている構造がうかがえます。

貯蓄現在高の分布を見ると、2500万円以上の世帯が全体の36.3%(約3分の1)と高い階級に広がっている一方で、300万円未満の世帯も14.9%存在しています。平均値だけを見て安心したり不安になったりせず、中央値や分布まで確認することが実態把握には欠かせません。

※貯蓄保有世帯の中央値とは、貯蓄現在高が「0」の世帯を除いた世帯を貯蓄現在高の少ない方から順番に並べたときに、ちょうど中央に位置する世帯の貯蓄現在高をいいます。

3. 毎月の家計収支は約4万2000円の赤字

老後のお金について具体的にイメージするため、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の家計収支を見てみましょう。

3.1 「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の家計収支

3.2 65歳以上の夫婦のみの無職世帯:毎月の収入

  • 収入合計:25万4395円
  • うち社会保障給付(主に年金):22万8614円

3.3 65歳以上の夫婦のみの無職世帯:毎月の支出

  • 消費支出:26万3979円
  • 非消費支出:3万2850円

支出合計29万6829円

この世帯の場合、ひと月の収入は25万4395円、その約9割の22万8614円を公的年金などの社会保障給付が占めます。

一方で支出の合計は29万6829円。そのうち社会保険料や税などの「非消費支出」が3万2850円、いわゆる「生活費」にあたる消費支出が26万3979円でした。

この夫婦世帯の場合、毎月約4万2000円の赤字となり、貯蓄の取り崩しなどでカバーすることになるでしょう。

奥田 朝
「毎月4万円の赤字」と聞くと不安に思われるかもしれませんが、これは貯蓄で補うことを前提にした平均的な姿です。問題は赤字そのものより、その埋め方を現金の取り崩しだけに頼るか、運用の力も借りるかという選択にあります。

4. 2026年度の年金額は4年連続のプラス改定

公的年金額は、物価や現役世代の賃金を考慮して年度ごとに改定されるルールです。2026年度分は、法律の改定に基づき前年度より国民年金(基礎年金)1.9%、厚生年金(報酬比例部分)2.0%増額され、4年度連続のプラス改定となりました。

4.1 2026年度の年金額例

  • 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分※1
  • 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2

※1 昭和31年4月1日以前生まれの老齢基礎年金(満額1人分)は月額7万408円(対前年度比+1300円)
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準

ただし上記はあくまでも「年金例」です。実際に支給される年金額は、現役時代の年金加入状況により個人差が出ます。

なお、年金額自体は国民年金1.9%、厚生年金2.0%増えていますが、「マクロ経済スライド」の発動により、実質的には目減りしている点には注意が必要です。

マクロ経済スライドとは、公的年金被保険者(年金保険料を払う現役世代の数)の変動と平均余命の伸びに基づいて設定される「スライド調整率」を用いて、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除する仕組みです。

5. 国民年金・厚生年金の平均月額と男女差

厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2024年度末現在の平均年金月額は以下の通りです。

※厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されており、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。また、厚生年金の月額には国民年金(老齢基礎年金)部分が含まれています。

5.1 国民年金・厚生年金の平均月額と個人差

国民年金の平均年金月額5/7

国民年金の平均年金月額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

厚生年金の平均年金月額6/7

厚生年金の平均年金月額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

5.2 国民年金(老齢基礎年金):平均年金月額

〈全体〉平均年金月額:5万9310円

  • 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
  • 〈女性〉平均年金月額:5万7582円

5.3 厚生年金(国民年金部分を含む):平均年金月額

〈全体〉平均年金月額:15万289円

  • 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
  • 〈女性〉平均年金月額:11万1413円

※国民年金の金額を含みます

国民年金のみを受給する場合は男性が6万円台、女性が5万円台、厚生年金(国民年金部分を含む)では男性が16万円台、女性が11万円台が平均です。

しかし、グラフから分かるように、受給権者の間で年金額には大きな個人差があります。ご自身の年金見込み額は「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で確認できます。

6. 60歳代の3割超が「日常生活費もまかなうのが難しい」

J-FLEC(金融経済教育推進機構)が2025年12月に公表した「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」では、60歳代・70歳代の二人以上世帯において、60歳代の32.6%、70歳代の30.6%が「日常生活費程度もまかなうのが難しい」と回答しています。

6.1 「年金にゆとりがない」と感じる理由

「年金にゆとりがない」と感じる理由とは?7/7

「年金にゆとりがない」と感じる理由とは?

出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとにLIMO編集部作成

年金にゆとりがないと感じる理由としては、物価上昇や医療費・介護費負担の増加が上位に挙げられます。

完全リタイア後の老齢年金世帯は、現役時代に比べて収入が減少するのが一般的です。そのため、家計への負担感は今後も増していくことが予想されます。

また、現役時代は毎月給料日があったものの、老後の年金は「偶数月に2カ月分まとめて支給」となるため、家計管理のサイクルも変化します。年金支給のサイクルに合わせ、日ごろの生活費のやりくりに工夫を加える必要があるでしょう。

7. 【試算】赤字を現金の取り崩しで補うか、運用益でカバーするか

毎月約4万2000円(年間50万9208円)の赤字を、貯蓄2494万円でどう補うか。現金のまま取り崩す場合と、一部を運用に回す場合とで、どのくらい差が出るのかを試算してみましょう。

【現金のまま取り崩す場合】年間の赤字50万9208円をそのまま貯蓄から取り崩すと、単純計算で貯蓄2494万円は約49年で底をつく計算になります。

次に、貯蓄の一部を運用に回し、その運用益だけで赤字をどこまでカバーできるかを見てみます。

【年利1%で運用】年間の運用益は約24万9400円(月約2万783円)で、赤字の49%をカバーできます。

【年利2%で運用】年間の運用益は約49万8800円(月約4万1567円)で、赤字の98%をカバーできます。

【年利3%で運用】年間の運用益は約74万8200円(月約6万2350円)となり、赤字を上回ります(赤字の147%相当)。

年利2%程度で運用できれば、元本にほとんど手をつけずに毎月の赤字をまかなえる計算になります。同じ2494万円でも、現金のまま持つか運用に残すかで、資産が目減りするペースはまったく異なるということです。

もちろん、運用には価格変動のリスクがあり、想定した利回りが必ず得られるとは限りません。この試算は特定の年に必要な金額を機械的に一定利回りで割った簡易的な計算であり、実際の運用成果や税金・手数料は考慮していません。目安としてご覧ください。

8. 【監修者コメント・安達さやか】試算の前提は貯蓄平均2494万円、中央値は1777万円

安達 さやか

この記事では、65歳以上・無職夫婦世帯の貯蓄額と家計収支、そして赤字の埋め方による差の試算をご紹介しました。世帯主が65歳以上の無職世帯の平均貯蓄額は2494万円で、2024年の2560万円から66万円減り、6年ぶりのマイナスに転じています。

なお、有職世帯を含めた65歳以上の二人以上世帯では、平均2564万円に対して貯蓄保有世帯の中央値は1777万円です。分布を見ると2500万円以上が36.3%、300万円未満が14.9%で、同じ年代のなかで幅があります。試算の前提になっている2494万円は平均額ですので、ご自身の貯蓄額に置き換えて読むとよいでしょう。

また、記事中の試算では、年利2%で運用した場合の運用益が年約49万8800円で、年間の赤字50万9208円の98%にあたるという結果でした。ただし、この利回りが毎年得られるとは限らず、運用には元本割れの可能性があります。数年分の生活費をすぐ使える形で確保したうえで、それ以外の資金にどこまで値動きを許容できるかを整理しておくことが大切です。