7. 老後を支える公的年金の限界──女性厚生年金「月額11万円」の壁
7.1 男女で開く年金額格差
前半で見た「使い切りたい」という前向きな消費意欲と、実際に受け取れる年金額との間には、見過ごせないギャップがあります。
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
※国民年金の金額を含みます。
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の平均受給額は男女計で月額15万289円です。これを男女別に見ると、男性は女性より月5.8万円ほど高く、女性の平均は月11万円台にとどまります。
月額15万円以上を受け取れている女性は限られており、多くの女性にとって、公的年金だけで推し活や旅行を含むゆとりある暮らしを維持するのは容易ではないでしょう。
結婚や出産、育児といったライフイベントに合わせて、正社員からパートへ、あるいは一時的に離職せざるを得なかった女性は少なくありません。
厚生年金の受給額は、「現役時代の給与水準と加入期間の掛け算」でおおむね決まる仕組みのため、こうした働き方の変化がそのまま将来の年金受給額に跳ね返ってしまいます。
先に見た「50歳代で給与がピークアウトする」という現実は、老後の年金額という形で、もう一段階シビアに追い打ちをかけてくるとも言えるでしょう。
だからこそ、現役時代から定年直後にかけて、「自分でつくる第2の給料」、つまり資産運用によるインカムゲイン(保有している間に継続的に得られる利益。株式の配当金や投資信託の分配金、不動産の家賃収入などがその代表例です)を確立しておくことが、これまで以上に重要になっています。
年金だけでは足りない分を、貯蓄の取り崩しだけに頼るのではなく、資産に「働いてもらう」仕組みを持っておく、という発想です。
◆いまどきシニアの年金事情については、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
8. 減らさずに使い切る「最後はゼロにするマネー術」──資産寿命を延ばすインカムゲイン戦略
8.1 「貯める」から「使いながら育てる」への転換
これまでの老後資金づくりは、「いかに貯めるか」(アキュムレーション)が重視される傾向にありました。
しかし長寿化と物価高が同時に進む今、「いかに運用しながら、長期にわたり計画的に活用するか」という発想、いわゆるデキュムレーション(資産の取り崩し・活用)へと視点を切り替える必要があると、資産運用の専門家の間でも指摘されるようになっています。
通帳の残高が減っていくのを見るのは、誰にとっても心細いもの。だからこそ「減らしながら使う」のではなく「収益を生みながら使う」という発想の転換が助けになります。
8.2 世界的に知られる「4%ルール」というヒント
では、具体的にどうやって「使いながら育てる」のでしょうか。
ここで参考になるのが、資産運用の世界でよく知られている「4%ルール」という考え方です。
4%ルールとは、米国で提唱された「毎年、資産残高の4%を目安に少しずつ取り崩せば、長期間資産が枯渇しにくい」という考え方です。
たとえば、
- 2000万円 → 年80万円(月約6万6000円)
- 3000万円 → 年120万円(月10万円)
程度を取り崩すイメージになります。
これは、「持っている資産を年4%で運用しながら、毎年4%ずつ取り崩して使っていけば、30年経っても資産が減りにくい(むしろ増えている可能性もある)」という理論です。
例えば、手元に2000万円ある場合:単に預貯金として毎月5万円(年間60万円)を取り崩すと約33年持ちますが、ゆとりある生活のために毎月10万円(年間120万円)を取り崩せば、約16年で底を突いてしまいます。
しかし、この2000万円を「つみたて投資枠」などを活用し、世界的な投資信託などで年3〜4%程度で運用していくことができれば、増えた分の範囲(年間60万〜80万円、月約5万〜6.6万円)を切り崩して使うことで、元本をほとんど減らさずに、資産をさらに長持ちさせることができます。
8.3 元手が1000万円ならどう考える?
もし元手が1000万円の場合、「月5万円(年間60万円)」を元本を減らさずに生み出そうとすると、年間6%というかなり高い利回りが必要になってしまいます。これは一時的な値下がりリスク(ボラティリティ)も大きくなり、慣れないうちは不安が勝ってしまうでしょう。
そんなときは、無理に高い利回りを狙うのではなく、同じく「年3%」程度で穏やかに運用しながら、「元本も少しずつ、計画的に取り崩していく」という方法が安心です。
1000万円をただ置いておくだけだと、毎月5万円ずつ取り崩せば約16年でなくなってしまいます。しかし、これを年3%で運用しながら毎月5万円ずつ取り崩していった場合、お金自体の寿命は約23年まで延びることになります。
大切なのは、「お金に一度に消えてもらう」のではなく、「お金にも少しずつ働き続けてもらいながら、ゆっくりと付き合っていく」という感覚。これなら、金融の難しい知識がなくても、新NISAなどを活用して今日から始められます。
8.4 新NISAで作る「自分年金」
こうしたインカムゲインづくりの後押しとなるのが、非課税保有期間が無期限化された新NISAです。
「貯蓄を取り崩す」という行為は、通帳の残高が減るたびに「長生きリスク」への不安を強く感じさせます。
一方、「定期的に入ってくる分配金・配当金」を生活費や趣味に充てながら、元本は温存、あるいは緩やかなコントロール下に置くという発想は、精神的なゆとりを持って「最後はゼロにする」ための、ひとつの理想的な資産プランと言えるでしょう。
◆新NISAのしくみや積立シミュレーション結果、「4%ルール」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
9. まとめ:自分のために使い切る、その前に知っておきたいこと
50代は、女性の給与がピークアウトし、単身世帯では資産の二極化が鮮明になる時期であると同時に、「自分の人生のために資産を使い切りたい」という気持ちが強まる時期でもあります。
ただし、女性の厚生年金は平均月11万円台にとどまり、公的年金だけで理想の暮らしを支えるのは容易ではありません。
だからこそ、貯蓄をただ取り崩すのではなく、新NISAなどを活用してインカムゲインという「自分年金」を育てておくことが、最後はゼロにするマネー術を無理なく実現するための土台になります。
すべてを厳密にシミュレーションできなくても構いません。まずはご自身の金融資産の中央値・平均値が、今回ご紹介したデータのどのあたりに位置しているのか、現在地をざっくりと確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。
10. 筆者からのコメント
数字だけを見ると厳しい現実ばかりが並びますが、ミドルエイジの女性たちからは悲壮感よりもむしろ「今を楽しみたい」という清々しさを感じることの方が多くありました。
大切なのは、悲観して縮こまることでも、勢い任せに使い切ることでもなく、自分の資産の現在地を数字で把握したうえで、使う額と守る額のバランスを自分なりに決めていくことだと思います。
インカムゲインという言葉を聞くと難しく感じるかもしれませんが、要は「資産そのものを取り崩すのではなく、資産が生み出す果実の部分だけをいただく」という考え方です。
木を切り倒してしまうのではなく、実った果実だけを収穫し続けるイメージ、と言えば伝わりやすいでしょうか。
次に何か大きな買い物や体験にお金を使うとき、この記事でご紹介した数字を、ほんの少しだけ思い出していただけたら幸いです。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資商品や金融機関を推奨・勧誘するものではありません。金融商品の購入や投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任のもとで行っていただきますようお願いいたします。
投資には元本割れを含む様々なリスクが伴います。記事内で提示している利回りやシミュレーション結果は仮定に基づくものであり、将来の運用成果を約束・保証するものではありません。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査の概況」(第1表:性別賃金、対前年増減率及び男女間賃金格差の推移/第2表:性、年齢階級別賃金)
- 内閣府「高齢社会白書」(令和8年版)第2節 高齢期の暮らしの動向
- 金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査」(2025年、単身世帯調査・二人以上世帯調査/遺産についての考え方<問10>
- 株式会社ハルメクホールディングス『【50代以上女性の「推し」に関する意識・実態調査2026】「推し」にお金をかけている割合が8割に増加』
- 株式会社ハルメクホールディングス「【お金に関する意識・実態調査2026】シニア女性の「お金の使い方」「守り方・増やし方」の満足度は増加傾向 続く物価高で節約意向が高まる一方、年金の補完や趣味・旅行の原資作りに「投資意欲」も拡大」
- 厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」



