3. 【不安とジレンマ】9割が「貯蓄だけでは危ない」と知りつつ動けない現実

新NISAが使いやすい制度であると理解しつつも、実際に一歩を踏み出すのには大きな勇気、と感じる人もいるでしょう。

生活者のリアルな意識を覗いてみると、ある「ジレンマ」が浮かび上がってきます。

トラスト社が公表した最新のアンケート調査(2026年8月6日公表)によると、89.1%の人が「とりあえず毎月貯金しているだけでは、将来困ることがあると思う」と回答しています。

実に約9割もの人が、現在の物価高やインフレ環境下で「ただ貯金をしているだけでは資産価値が守れない」と頭では強く自覚しているのです。

しかし、同調査では「何をすればいいか分からず何もできていない」「なんとなく対策しているが不十分」など、大半の人が具体的な行動を起こせていない、あるいは対策不足を自覚している実態も明らかになっています。

3.1 なぜ、わかっているのに動けないのか?

株式会社NEXERが公表した資産形成に関する意識調査によると、一歩を踏み出せない最大のハードルは、「元本割れのリスクが怖い」(36.4%)という心理的不安です。また、「始めた方が良いと思いつつ、まだ始められていない人」が約17%(16.8%)存在し、その背景には「知識がない」「何から始めればよいかわからない」「時間や予算がない」といったハードルが重なっています。

「お金の不安は解消したいが、投資で減るのも怖い」というジレンマに陥り、対策を先延ばしにしてしまう人は少なくありません。

しかし、お金の悩みは年齢を重ねても消えることはなく、「教育費・住宅ローン」から「老後資金・自身の健康・親の介護」へと、ライフステージごとに形を変えながら重なっていくのが現実です。

だからこそ、先延ばしにするのではなく、正しい知識を身につけ、無理のない範囲で早めに動き出すことが将来の最大の後悔を防ぐ自衛策になります。

まずは焦って投資を始める必要はありません。

使っていないサブスクの解約やスマホ料金の見直しなど、家計の収支を「見える化」し、浮いた余裕資金を投資に回すことから「お金の現在地」を把握していきましょう。

4. 【老後資金の出口戦略】資産の取り崩し方と「4%ルール」の賢い活用法

新NISAを活用した資産形成では「どのように資産を増やすか」ばかりに注目が集まりがちですが、老後を迎えた後は「どのように資産を使っていくか(出口戦略)」が極めて重要なテーマになります。

現役を引退した後は、公的年金だけで不足する生活費を、これまで築いてきた資産を取り崩しながら補う「取り崩し期(デキュムレーション)」が始まります。

4.1 75歳以上の後期高齢夫婦:毎月の赤字は約2.7万円

総務省が公表した最新の「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、世帯主が75歳以上の無職二人以上世帯(後期高齢夫婦無職世帯)の平均的な家計状況は以下のようになっています。

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  • 実収入:25万2798円(うち主に公的年金である社会保障給付が21万1289円)
  • 実支出:28万23円
  • 消費支出(生活費):24万8460円(食料:8万33円、保健医療:1万7213円、光熱水道:2万4312円、教養娯楽:2万2322円などを含む)
  • 非消費支出(税金・社会保険料等):3万1563円(直接税:1万1663円、社会保険料:1万9894円)
  • 毎月の収支:▲2万7225円(赤字)

平均的な後期高齢夫婦は、年金収入だけでは生活費をまかなえず、毎月約2.7万円を貯蓄から取り崩して生活を補っているのがリアルな実態です。

さらに、2025年の高齢無職世帯における平均貯蓄現在高は2494万円となり、前年から減少(6年ぶりの減少)に転じました。

これは、マクロ経済スライドによる給付調整などにより年金額の伸びが物価上昇に追いついておらず、生活必需品の価格高騰分をカバーするために、これまでの預貯金を取り崩さざるを得ない厳しいインフレ環境を裏付けています。

4.2 資産寿命を延ばす目安「4%ルール」とは

こうした取り崩し期において、資産をできるだけ長持ちさせるための目安として知られているのが、米国で提唱された**「4%ルール」**です。これは「毎年、資産残高の4%を目安に少しずつ取り崩していけば、長期間にわたって資産が枯渇しにくい」という考え方です。

例えば、築き上げた資産をもとに4%ルールを当てはめると、以下のようなイメージになります。

  • 資産2000万円:年間80万円を取り崩す(月額 約6万6000円)
  • 資産3000万円:年間120万円を取り崩す(月額 10万円)

老後は公的年金が家計の主な収入源となりますが、それに加えて毎月数万円を資産から補う形で考えると、将来の生活設計がより具体的にイメージしやすくなるでしょう。 一括ですべて売却して現金化するのではなく、資産の一部を新NISAなどの非課税枠で運用し続けながら、毎月必要な分だけ「少しずつ切り崩す」ことで、インフレによる現金の価値低下を防ぎ、結果として資産寿命を大幅に延ばす(デキュムレーション)ことが可能になります。

4.3 日本で「4%ルール」を活用する際のリアルな注意点

ただし、4%ルールは米国の右肩上がりの市場データを前提としたものであり、日本でそのまま通用するとは限りません。特に以下の点に注意が必要です。

4.4 持ち家率の高さ

家計調査のデータにおいて住居費が1万6257円と極めて低いのは、対象世帯の**持ち家率が96.0%**と非常に高く、ローン負担がないことを前提としているためです。もし老後も賃貸住まいを続ける場合や住宅ローンが残っている場合は、この住居費分(家賃等)が丸ごと赤字額に上乗せされ、取り崩し額は膨らみます。

4.5 医療・介護費用の未想定

この平均支出には、将来的に必要となる可能性が高い医療費の増加や、有料老人ホームへの入居一時金・訪問介護費用といった重い「介護費用」は原則として想定されていません。

老人ホーム検索サイト『LIFULL介護』の試算によると、生涯で介護に必要な金額はおよそ「2300万円」にのぼるとされており、これらはいざという時のための別枠の備えが必要です。

4.6 ゆとり生活費の不足

平均的な消費支出(24万8460円)はあくまで「最低限の日常生活」を送るための支出です。

旅行やレジャー、趣味を楽しんだり、身内との交際を充実させたりする「ゆとりある老後生活」を送るためには、最低生活費に加えて月額約14.8万円の上乗せが必要との調査結果もあり、理想のライフスタイルに応じた不足額を正しく算出しておく必要があります。

4%ルールを「年間4%なら絶対に安心」と鵜呑みにするのではなく、自分の家計で毎月いくらのお金が不足するのかを把握し、ご自身の「現在地」と「目的地」を把握することが何よりも重要です。

5. 【新NISAの注意点】始める前に知っておきたいリスクと制度の落とし穴

新NISAを活用する際は、制度のメリットだけでなく、事前に理解しておきたい注意点にも目を向けることが大切です。

新NISAは、年間投資枠の拡大や非課税期間の恒久化によって、従来よりも使いやすい制度になりました。

その一方で、長期間の運用が前提となるため、ご自身のリスク許容度を把握し、将来どのタイミングで資産を取り崩すのかも考えておく必要があります。

積立投資を続けていれば、相場が大きく下落する局面に直面することもあるでしょう。株式市場は長期的に見れば成長を続けてきましたが、その過程では何度も急落を経験しています。

そのため、積立投資の仕組みや価格変動リスクを理解したうえで、「値下がりしたときにどう行動するか」をあらかじめ決めておくことが大切です。

また、商品選びも重要なポイントです。金融庁が公表している「つみたて投資枠対象商品届出一覧」によると、対象商品は継続的に見直されており、現在は300本を超える商品から選べます。

選択肢が豊富だからこそ、「人気ランキング上位だから」といった理由だけで選ぶのではなく、長期間安心して保有できるか、ご自身の投資方針や目的に合っているかをしっかり確認することが重要です。

さらに、NISA口座には税制上の特有のルールもあります。その一つが、他の課税口座との「損益通算」ができない点です。例えば、ある口座で得た利益と、NISA口座内で発生した損失を相殺して税金の負担を軽くすることはできません。

加えて、損失を翌年以降に持ち越して将来の利益と相殺できる「繰越控除」も利用できないため、こうした制度上の特徴も理解したうえで活用することが大切です。

6. まとめ:資産形成で最も大切なのは「無理なく続けること」

毎月10万円を比較的短期間で積み立てて非課税枠を埋める方法も、毎月3万円を長期間かけてじっくり積み立てていく方法も、新NISAを活用した積立投資は、時間を味方につけながら将来の資産を築くための有力な手段となります。

一方で、投資では「始めること」と同じくらい、「無理なく長く続けること」が重要です。

最初から積立額を高く設定しすぎると、世界情勢や市場の急な下落局面(元本割れ)に直面した際に精神的な負担が大きくなり、パニックになって途中で売却してしまう原因にもなりかねません。

日々の生活費や、いざという時のための預貯金(生活費数ヶ月分〜の安全資産)をしっかり確保したうえで、「余裕資金の範囲内」で取り組むことが、長く続けるための最大のポイントです。

もちろん、「投資はせず、すべて現金で保有する」という選択肢もあります。しかし、2026年8月現在の物価上昇が続く現在の環境下では、預貯金だけで資産の実質的な価値を維持していくことは容易ではありません。

新NISAのような税制優遇制度について基本的な知識を身につけ、ご自身の将来の選択肢を広げるための判断材料としてみてはいかがでしょうか。まずはご自身の家計の収支を把握し、無理のない少額から、一歩を踏み出してみましょう。

7. 筆者からのコメント

熊谷 良子

資産形成を始める段階では、「どの商品を買って、いかに効率よく増やすか」に関心が集まりがちです。しかし、人生100年時代、より重要になるのは「増やした資産をいかに長持ちさせ、安心して使い切るか」という出口の視点です。

新NISAは資産を増やすときだけでなく、取り崩すときにも強力な武器になります。

iDeCoとは異なり、NISAは必要な時にいつでも一部を売却して現金化できる極めて高い流動性(使い勝手の良さ)を備えているからです。

資産の全額を金利のつかない預金口座に置いてインフレによる実質的な価値低下に直面させるのではなく、全体の2割〜3割程度を新NISAで運用し続けながら、年金で不足する分だけを賢く取り崩していくこと。

この「使いながら守る」出口へのロードマップを頭の片隅に置いておくだけで、現在の投資に対する不安もずっと和らぎ、心豊かで現実的なライフプランを描くことができるはずです。

※免責事項
本記事は情報提供を目的としており、投資の推奨や勧誘を行うものではありません。投資には元本割れのリスクが伴うため、最終的な投資判断は必ずご自身の責任で行ってください。また、記事内のシミュレーション結果は将来の運用成果を保証するものではありません。執筆時点(2026年8月)の情報を基に作成しておりますが、本記事の情報を利用したことによるいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。

参考資料