6. 厚生年金は《老後の備えだけじゃない》うつ病や万が一のときにも家計を守る仕組み

厚生年金の保険料は決して安くありません。「その分NISAに回したほうがいい」などと感じる方もいるかもしれません。しかし厚生年金は、老後の年金原資になるだけの制度ではないのです。

6.1 「老齢」「障害」「遺族」 公的年金には3つの給付がある

日本の公的年金は「老齢」「障害」「遺族」という3つのリスクに備える仕組みで、会社員が加入する厚生年金は国民年金よりこの保障が手厚いのが特徴です。

なお保険料率18.3%のうち本人負担は半分の9.15%にとどまり、残りは会社が負担しているため、実質的なコストの半分は会社持ちともいえます。

では、具体的に「障害」「遺族」においてどのような手厚い保障があるのか、そして知っておきたい今後の制度改正について解説します。

障害厚生年金

一つ目の手厚い保障が「障害厚生年金」です。ケガや身体的な障害だけでなく、うつ病や適応障害などの精神疾患も対象になり得る点は見落とされがちです。

幅広いカバー範囲:国民年金(基礎年金)にはない、最も軽度の「3級」や、一時金として受け取れる「障害手当金」までカバーされます。

給付額の目安(2026年度):3級の最低保障は年63万5500円、障害手当金は127万1000円です。

※注意:精神疾患による受給には厳格な認定基準があります。申請には「初診日の証明」や「医師の診断書」が必須となるほか、日常生活や就労にどの程度支障が出ているかが厳しく審査されるため、病気になれば自動的に受給できるわけではない点には留意が必要です。

6.2 遺族厚生年金

もう一つが、残された家族の生活を支える「遺族厚生年金」です。例えば「会社員の夫が死亡し、妻と子1人が残された場合」を想定すると、2026年度は以下の年金が支給されます。

遺族基礎年金

84万7300円+24万3800円=109万1100円

遺族厚生年金(上乗せ)

亡くなった夫の「報酬比例部分の4分の3」が遺族基礎年金に上乗せされます。

ここで知っておきたいのが、現役世代を守る手厚い特例です。若くして亡くなり厚生年金の加入期間が短い(25年・300カ月未満)場合でも、「300カ月(25年)加入していたとみなして計算する(短期要件)」というルール(300月みなし保障)が適用されます。

これにより、加入期間が短く報酬比例部分が少なくなりがちな若い世代の家族も、しっかりと守られる仕組みになっています。

中高齢寡婦加算

末の子どもが18歳(高校卒業)を過ぎた後も、妻が65歳になるまでは年63万5500円の加算が続きます(※夫の厚生年金加入20年以上などの条件あり)。

これらの給付が積み重なることで、条件次第では生涯で数千万円規模の給付になり得ます。

6.3  【重要】2028年度以降の「遺族年金・改正」のポイント

非常に手厚い遺族年金ですが、共働き世帯の増加など社会の変化に合わせて、2028年(令和10年)度から大きな制度改正が実施される予定です。これから備えを考える上で、以下の点に注意が必要です。

「中高齢寡婦加算」の段階的縮小・廃止

末子が18歳を迎えた後などに妻へ支給される中高齢寡婦加算ですが、2028年度以降に新たに加算対象となる世代から段階的に給付額が縮小され、最終的に廃止される予定です(※すでに受給中の方への減額はありません)。

男女差の解消と若年層の「有期給付化」

これまで遺族厚生年金は「妻」に有利な仕組みでしたが、要件が男女一律の方向に見直されます。

「子どものいない40歳未満の妻」は原則5年間の有期給付に移行する一方、「子どものいない60歳未満の夫」は新たに5年間の有期給付の対象に加わります。

夫は現行、原則55歳以上でなければ遺族厚生年金を受け取れないため、今回の改正はむしろ夫にとって受給機会が広がる変更といえます。

なお女性については、施行後20年程度かけて段階的に新ルールへ移行する経過措置が設けられています。

7. まとめ:年金生活の現実に備えるために

夏休みの計画を立てるように、ご自身の「老後の生活設計」についても、早いうちから具体的な見通しを立てておくことが大切です。

今回シミュレーションした「平均年収600万円・40年勤務」のモデルでは、年金の目安は月額約18万円でしたが、税金や社会保険料が天引きされるため、実際に手元に残る金額はそれよりも少なく、月15万~16万円程度になる見込みです。

「思ったより少ない」「保険料をこんなに引かれるのは損では」と感じる方もいるかもしれません。

厚生年金保険料は老後の年金原資になるだけでなく、うつ病などで働けなくなったときの「障害厚生年金」や、万が一のときに家族の生活を支える「遺族厚生年金」という、現役世代を守るための保障機能も兼ね備えています。

給与明細の天引き額を見てため息をつく前に、自分がどのような保障を持っているのかを一度確認してみる価値はあるでしょう。

そのうえで、公的年金だけに頼らず、長く働き続けることで得られる「勤労収入」に加え、お金に働いてもらう「資産収入」というもう一つの柱を築いておくことも、老後の安心につながります。

特に、NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)などを活用し、現役時代から計画的に準備を進めることで、将来への不安をさらに和らげることができるでしょう。

働き方が多様化している現代では、一人ひとりのライフプランに合わせた備えが求められます。この機会に、まずはご自身の年金見込額や保障内容を確認し、できることから始めてみてはいかがでしょうか。

※手取り額についての注意点
年金から天引きされる税金(所得税・住民税)や社会保険料(国民健康保険料・介護保険料など)は、お住まいの自治体や扶養家族の有無によって金額が大きく変動します。上記の手取り額はあくまで目安として捉えてください。

8. 筆者からのコメント

熊谷 良子

「保険料が高い」と感じるとき、つい見落としがちなのが、厚生年金が「今の自分」も守ってくれているという視点。

「もしも」のときに慌てないよう、一度ご自身の障害年金・遺族年金の見込みを、ねんきんネットや年金事務所で確認しておくと安心ですね。

※本記事の年金額等は2026年8月時点で公表されている制度・データに基づく一般的な説明です。実際の受給資格や金額は加入期間・収入・家族構成等により異なり、また制度は改正される可能性があります。正確な内容については日本年金機構や社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

参考資料