「老後資金は、平均でいくら貯まっているのか」。2026年5月19日に公表された家計調査(貯蓄・負債編)の最新結果では、二人以上の世帯の貯蓄現在高は平均2059万円で、7年連続の増加でした。

貯蓄1000万円前後の人は手が止まり、2000万円を超えている人は安心します。ただ、どちらも同じ落とし穴の前にいます。その平均を下回る世帯が66.1%を占めているからです。

55〜64歳・夫婦二人暮らしで、そろそろ本気で計算を始めた人に向けて、平均値の読み方を整理します。

1. この記事の3つのポイント

  •  平均2059万円に対し、貯蓄保有世帯の中央値は1264万円です。その差は795万円あります
  •  平均値を下回る世帯は66.1%です。平均は「多く持っている側」に引っ張られた数字です
  •  全体の貯蓄は7年連続で増えましたが、65歳以上の無職世帯だけは6年ぶりに減少しています

2. そもそも「老後資金」とは何を指すのか

平均額を比べる前に、言葉の中身をそろえる必要があります。

老後資金には制度上の定義がなく、統計では「貯蓄現在高」という別の指標で測られます。ここがずれると、比較が成立しません。

2.1 老後資金とは「年金で埋まらない分を自分で用意する財源」

公的年金は、老後の生活費すべてを賄う前提の制度ではありません。老後資金とは、受け取る年金額と実際の支出の差を埋めるために自分で用意する財源です。

目標額が人によって違うのは、年金額と生活費の両方が違うためです。

2.2 統計が測っているのは「世帯の貯蓄現在高」

家計調査の数字は個人ではなく世帯単位で、預貯金のほかに生命保険への払込額や有価証券も含みます。

2025年平均の内訳は、通貨性預貯金が710万円(前年比2.6%増)、有価証券が440万円(同16.7%増)でした。

また2059万円は「二人以上の世帯」の平均で、単身世帯は含みません。世帯の定義を確かめずに自分の家計と並べると、比較の土台がずれます。

3. 【執筆者コメント】

「老後資金の平均」を調べた人が、条件の違う世帯の数字と比べて一喜一憂する。これが最も多い入り口のつまずきです。

家計調査の数字には、必ず世帯区分という前提が付きます。二人以上の世帯か、単身世帯か、世帯主が無職の世帯か。この区分を読み飛ばすと、同じ「平均」でも中身が違ってきます。

見落としやすいのは、貯蓄現在高に生命保険への払込額が含まれる点です。通帳の残高だけを見て「平均に届いていない」と落ち込む人がいますが、統計上の貯蓄と、いつでも使える現金は別物です。

逆に統計上2000万円を超えていても、大半が満期前の保険や値動きのある有価証券なら、すぐ動かせる金額はもっと小さくなります。

お勧めするのは、比較より先に自分の老後資金を「年金で埋まる部分」と「取り崩しで埋める部分」に分けることです。前者は日本年金機構の「ねんきんネット」で試算でき、50歳以上ならねんきん定期便にも見込額が載っています。

分けた時点で「平均より上か下か」は意味の薄い問いに変わります。不明点は年金事務所で確認できます。予約制の相談枠を使えば、繰下げ受給を選んだ場合の増額後の見込額も併せて試算してもらえます。

4. 平均2059万円の裏側にある、中央値1264万円という数字

ここからが本題です。家計調査は平均値だけでなく、中央値と世帯の分布も同時に公表しています。3つを並べると、同じ調査から受ける印象が変わります。

4.1 平均と中央値の差は795万円

2025年平均の貯蓄現在高は、平均値が2059万円、貯蓄保有世帯の中央値が1264万円でした。その差は795万円です。

中央値とは、世帯を貯蓄額の順に並べたときに真ん中に来る世帯の金額です。「みんなの真ん中」に近いのは平均値ではなく中央値です。

4.2 平均値を下回る世帯は66.1%

平均値である2059万円を下回る世帯は66.1%を占めます。3世帯に2世帯は平均に届いていない計算です。

調査の不備ではなく、分布が少ない側に偏り、一部の高額な世帯が平均を押し上げる構造のためです。

2025年平均・二人以上の世帯(総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)」2026年5月19日公表より)1/2

2025年平均・二人以上の世帯(総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)」2026年5月19日公表より)

出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果(二人以上の世帯)」2026年5月19日公表

  • 平均値: 2059万円(高額世帯が押し上げる)
  • 貯蓄保有世帯の中央値: 1264万円(真ん中の世帯の金額)
  • 平均値を下回る世帯: 66.1%(3世帯に2世帯)
  • 負債現在高(平均): 675万円(貯蓄から差し引いて見る)

4.3 負債を差し引くと、景色がもう一度変わる

負債現在高は二人以上の世帯の平均で675万円、保有世帯は37.5%、その世帯だけの中央値は1511万円です。

年齢階級別では、純貯蓄(貯蓄−負債)が最も多いのは60〜69歳の2609万円で、50歳未満は負債が貯蓄を上回ります。

ローンが残る世帯は、貯蓄額をそのまま老後資金と考えられません。

5. 【執筆者コメント】

795万円の差と聞くと、統計が実態を映していないように感じるかもしれません。ただ、これは平均値の欠陥ではなく、分布が偏っているという事実です。

貯蓄はゼロが下限で、上には限りがありません。だから分布は右に伸び、平均は真ん中より上に来ます。この形を知っているかで、同じ数字の受け取り方が変わります。

気をつけたいのは、60〜69歳の純貯蓄2609万円という数字の扱いです。全年齢で最も多い水準ですが、これはいまの60代の到達点であって、これから60代になる世代の未来を示す数字ではありません。

退職金の水準やローンが終わる時期は世代によって異なります。年齢階級別のデータは「自分もこうなる」ではなく「この世代はこうだった」と読むのが妥当です。

負債の扱いにも実務上の落とし穴があります。退職金でローンを一括返済すると利息負担は軽くなりますが、手元資金は一気に減ります。返済後に生活費の何か月分が残るかを先に計算しないと、医療費や住宅修繕のような一時的な支出に対応できません。

繰上げ返済の手数料や団体信用生命保険の扱いも金融機関に確認し、返済後の残高で家計が回るか試算してから決めるのが安全です。

6. では、みんなどうしてるのか。65歳以上の無職世帯だけ貯蓄が減っている

老後資金について「みんなどうしてるのか」を知りたいとき参考になるのは、全世帯の平均ではなく、すでに老後に入った世帯の数字です。2025年の調査には明確な変化が表れています。

6.1 全体は7年連続増加、65歳以上の無職世帯は6年ぶりの減少

二人以上の世帯全体は前年比75万円増の2059万円で、7年連続の増加でした。

一方、世帯主が65歳以上の無職世帯は2494万円で、前年から66万円、2.6%の減少でした。減少は6年ぶりです。

65歳以上の二人以上世帯全体は2564万円ですから、無職世帯はそれを下回ります。平均を押し上げているのは、まだ収入のある世帯です。

取り崩しに入った世帯では、平均額そのものが減り始めています。

6.2 月4万2435円の不足という「平均」の読み方

同じ家計調査の家計収支編(2025年平均、2026年2月6日公表)では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の実収入が25万4395円、可処分所得が22万1544円でした。

一方で消費支出は26万3979円です。手取りである可処分所得との差は月4万2435円の不足、年間では約51万円になります。

実収入と可処分所得の差は3万2851円です。これは税金と社会保険料にあたる部分で、年金からあらかじめ差し引かれます。額面の年金額で家計を組むと、この分だけ計算が狂います。

2025年平均・65歳以上の夫婦のみ無職世帯(総務省「家計調査報告(家計収支編)」2026年2月6日公表より)2/2

2025年平均・65歳以上の夫婦のみ無職世帯(総務省「家計調査報告(家計収支編)」2026年2月6日公表より)

出所:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果」2026年2月6日公表

  • 実収入: 25万4395円
  • 可処分所得(手取り): 22万1544円
  • 消費支出: 26万3979円
  • 不足額: 4万2435円
  • 平均消費性向: 119.2%

なお家計収支編には、より新しい2026年4〜6月期平均と2026年6月分(いずれも2026年8月7日公表)もあります。ただし月単位の数字は季節によって振れるため、老後の家計を考えるうえでは年平均のほうが実態に近くなります。

この不足が続けば、年に約51万円が貯蓄から出ていきます。ただ、これは平均的な年金額を受け取り、平均的な支出をしている世帯の姿です。年金額が少ない世帯や家賃を払い続ける世帯では、不足額はさらに大きくなります。

加えてこの収支には、住宅修繕費や介護の初期費用のように毎月は発生しない支出が、平均として薄く均されています。実際の家計では、ある年に一度で押し寄せます。

7. 【執筆者コメント】

この章で最も重い数字は、不足額ではなく平均消費性向119.2%だと考えています。手取りの1.2倍を使っている状態が、平均的な高齢夫婦世帯の姿だということです。

月4万2435円という言い方をすると小さく感じますが、年に約51万円、10年で約510万円が貯蓄から抜けていきます。貯蓄額の話と生活費の話は、この速度でつながっています。

そして老後の家計を崩すのは、毎月の赤字よりも一時的にまとまって出ていく支出です。入院、介護の初期費用、給湯器や屋根の修繕。どれも予定表には載りません。

ここで効くのが、申請しなければ使えない制度です。高額療養費は後から払い戻される仕組みですが、事前に「限度額適用認定証」を用意すれば、窓口の支払いを自己負担限度額までに抑えられます(マイナ保険証を利用する場合は不要なケースもあります)。

窓口は、国民健康保険なら市区町村、後期高齢者医療制度なら都道府県の広域連合です。介護も、要介護認定を受けなければ軽減は始まりません。

制度は本人の申請が起点のため、待っていても通知が届かないものがあります。

もうひとつ、公表資料で世帯属性別に確認できるのは平均値だけで、65歳以上世帯の中央値は示されていません。全体で795万円の差があるのですから、2494万円も実際の真ん中より高い位置にあると考えるのが自然です。

測るべきは平均額との距離ではなく、年金見込額と生活費の差が毎月いくらかです。差額を出し、何年分用意するかを決める。見込額は年金事務所、医療や介護の自己負担は市区町村の窓口で確認できます。

8. まとめ

  • 2025年平均の貯蓄現在高は平均値2059万円、貯蓄保有世帯の中央値は1264万円です。差は795万円あり、平均値を下回る世帯が66.1%を占めます
  • 全体は7年連続で増加しましたが、65歳以上の無職世帯は2494万円で6年ぶりに減少しました。夫婦のみの無職世帯は月4万2435円の不足で、年に約51万円を取り崩しています
  • 比べるべきは平均額ではなく、自分の年金見込額と生活費の差です

平均2059万円という数字は、たしかに事実です。ただ、その平均には持っている世帯と持っていない世帯の差が畳み込まれていて、自分がどちら側にいるのかは教えてくれません。

数字を見て安心するか不安になるかを決める前に、年金見込額と毎月の生活費という自分の2つの数字を出してみてください。そこから先は、平均との距離ではなく、自分の不足額をどう埋めるかという話に変わります。

9. よくある質問

検索されることの多い疑問を、この記事で用いた数字にもとづいて整理します。

9.1 Q. 老後資金とは、具体的に何を含むのですか

A. 制度上の定義はありません。年金額では埋まらない生活費の差を自分で用意する財源を指します。

統計では「貯蓄現在高」として測られ、預貯金のほか生命保険への払込額や有価証券も含みます。

9.2 Q. 老後資金の平均はいくらですか

A. 家計調査(2025年平均)では、二人以上の世帯で平均2059万円です。

ただし貯蓄保有世帯の中央値は1264万円で、平均値を下回る世帯が66.1%を占めます。単身世帯は含みません。

9.3 Q. 老後資金について、みんなどうしてるのか知る方法はありますか

A. すでに老後に入った世帯の数字が近道です。世帯主が65歳以上の無職世帯は2494万円で、前年から66万円減少しました。

取り崩しが始まった世帯の実態として参考になります。

参考資料

齊藤 慧