物価高が家計を直撃しています。老後の「生命線」とも言える公的年金ですが、その各種手続きは「難解で面倒」「平日に年金事務所へ行く時間がない」というイメージが根強くあります。

しかし近年、年金手続きのデジタル化は急速に進んでおり、今や多くの手続きがスマホとマイナンバーカードだけで24時間いつでも完結するしくみに移行中です。

まさに今月(2026年8月)からも、年金振込口座をマイナンバーに紐づける「公金受取口座登録の意向確認書」の発送が順次開始されるなど、デジタルを活用した新たな行政手続きが身近に迫っています。

一方で、すべての手続きがオンライン化されたわけではありません。今でも「年金事務所の窓口」や「郵送」が絶対に必要な手続き、あるいはスマホ申請を選ぶと損をする盲点も存在します。

本記事では、スマホで完結する年金手続き7選と、窓口や郵送が必須となる5つの重要手続きについて、今まさに届き始めている「意向確認書」への正しい対応や便乗詐欺対策も交えながら、公的資料や一次データをもとに徹底解説します。

1. この記事の3つのポイント

  •  年金の免除等、多くの手続きがスマホで24時間完結可能に。
  •  窓口対応必須:繰下げ受給などの複雑な手続きは窓口や郵送が必要です。
  •  詐欺に要注意:8月以降順次発送の意向確認書は市区町村窓口では対応していません。便乗詐欺に注意しましょう。

 

2. 筆者からのコメント

熊谷 良子

年金の手続きって、私たちの将来や生活を支える大切なものだと分かっていても、どうしても煩雑で分かりにくいですよね。

そのうえ、平日の日中にわざわざ窓口へ出向いたり、なかなかつながらない電話をかけたりして時間を取られるのは、仕事や家事で忙しい現役世代にとっても、体力を消耗しやすいシニア世代にとっても、何かと負担が大きいものです。

でも、今はスマホとマイナポータルで完結する手続きがかなり増えています。

今回は、皆さんの大切な時間と労力を節約するために、「スマホで楽に済ませる手続き」と「窓口に行く必要がある手続き」の境界線を、スッキリ分かりやすくお伝えします。

年金振込口座の公金受取口座登録に関する意向確認書については、こちらの記事で詳しく触れています。ぜひご参考にしてください。

【年金】8月から送付開始「意向確認書」の簡易書留《届く人・届かない人》の条件とは?公金受取口座の登録手続きと注意点を解説
【年金】8月から送付開始「意向確認書」の簡易書留《届く人・届かない人》の条件とは?公金受取口座の登録手続きと注意点を解説

3. スマホ(マイナポータル)で完結する年金手続き7選

マイナポータルと「ねんきんネット」を連携させることで、郵送や役所の窓口が不要となる手続きが数多くあります。

スマホだけで24時間完結する、代表的な7つの手続きをご紹介します。

3.1 国民年金被保険者の資格取得(種別変更)の届出

退職して配偶者の扶養から外れたときや、独立して個人事業主(第1号被保険者)になったときの切り替え手続きは、スマホから電子申請が可能です。

手続きが遅れると未納期間が発生して将来の年金額が減るほか、万が一の際の障害基礎年金などが受け取れなくなるリスクもあるため、退職後には速やかにスマホで申請しましょう。

3.2 国民年金保険料の「免除・納付猶予」「学生納付特例」の申請

経済的な理由で保険料の納付が困難な場合、保険料の「免除・納付猶予」をスマホから申請できます。

20歳以上の学生が対象の「学生納付特例」もスマホで完結可能。承認された期間は将来の受給資格期間(10年以上)にカウントされるため、未納のまま放置せず必ず申請しておきましょう。

3.3 国民年金保険料の「産前産後期間の免除」の届出

国民年金第1号被保険者が出産する場合、出産予定日(または出産日)の属する月の前月から4か月間(※)、保険料が全額免除されます。この免除期間は「全額納付したもの」として将来の年金額に満額反映されます。この届出も、出産予定日の6か月前からスマホで申請できます。

※多胎妊娠の場合は出産予定日または出産日が属する月の3カ月前から6カ月間

3.4 国民年金保険料の「口座振替」の手続き

保険料の支払い口座の新規設定や変更手続きもスマホから行えます。

口座振替を利用すると、払い忘れを防止できるだけでなく、前納制度などを選ぶことで保険料そのものの割引を受けることができるため、手軽な家計防衛策として有効です。

3.5 老齢年金の請求手続き(※一定の条件を満たす場合のみ)

受給開始年齢に到達する3カ月前に届く「年金請求書」。封筒の中に「電子申請のご案内リーフレット」が同封されている等、一定の条件を満たせばスマホからオンラインで請求可能です。

主な利用条件は、未統合の記録や共済組合加入履歴がないこと、単身者または同一世帯の配偶者・子がいること、年金の振込先に「公金受取口座」を指定すること、そして「繰上げ・繰下げ受給を希望しないこと」などです。

3.6 年金生活者支援給付金の請求

所得が一定基準以下の年金受給者に支給される「年金生活者支援給付金」。

「原則請求が必要」ですが、新規受給者へ届くはがき型の請求書を返送するほか、マイナポータルに届くお知らせ文書から直接スマホで電子申請を行うことも可能です。

3.7 「控除証明書・源泉徴収票」のデータ受け取り(e-Tax連携)

保険料の「控除証明書」や年金の「源泉徴収票」の電子データをマイナポータルで受け取れます。

このデータを国税庁のe-Taxと連携させることで、スマホ確定申告の自動入力が可能となり、手入力の手間や計算ミスを完全にゼロにできます。

4. スマホは不可!窓口・郵送手続きが必要な5つの重要手続き

スマホでの申請は大変便利ですが、制度の仕組みや、個人の人生設計に関わる重要な判断を伴う手続きにおいては、依然として「窓口への相談」や「郵送(書面提出)」が必須となっています。

特に注意したい5つのケースを見てみましょう。

4.1 年金の「繰下げ・繰上げ受給」の手続き

老齢年金は受給開始のタイミングを60歳から75歳までの間で自由に選ぶことができます。

例えば「繰下げ受給」を選択すれば、1か月繰り下げるごとに受給額が0.7%(最大84%)増額され、一生涯その高い受給額が維持されます。

しかし、年金請求書のスマホ申請の利用条件には「繰下げ・繰上げ受給を希望していないこと」が含まれています。

将来の増額を狙う方は、スマホで一括請求を行ってはいけません。65歳到達時には、繰下げ意思を示すための「老齢年金の受取方法確認書」を郵送または窓口へ提出する必要があります。

さらに、実際に受け取りを希望する年齢に達した段階で、改めて「支給繰下げ申出書」などの書類を年金事務所へ郵送、または窓口で直接提出する必要があります。

4.2 遺族年金・障害年金などの「他の年金」をすでに受給している場合

すでに遺族年金や障害年金などを受け取っている場合は、初めて老齢年金を請求する際であってもスマホからの電子申請は行えません。

日本の年金制度には、複数の年金からいずれか1つの年金を選択する「併給調整」という複雑なルールがあります。

どちらの年金を受け取る方が手取りが多くなるか、必ず事前に最寄りの年金事務所の窓口で相談のうえ、書面(年金受給選択申出書など)で手続きする必要があります。

4.3 年金加入記録に「空白期間」や「未統合記録」がある場合

転職の谷間などで加入記録に空白期間があったり、旧姓のときの年金記録が現在の基礎年金番号と統合されていなかったり(未統合記録)する場合は、スマホで年金請求書をそのまま提出することはできません。

記録に誤りがあるまま年金を請求すると、年金額が本来より少なくなってしまいます。

まずは年金事務所へ出向き、必要書類を持参・提出し、記録を完璧に「統合」させてから手続きを行う必要があります。

4.4 年金受給者が死亡したときの手続き(受給権者死亡届、未支給年金請求)

年金受給者が亡くなった場合、受給する権利は当然失われます。この権利喪失手続き(受給権者死亡届の提出)の提出は、厚生年金の場合は亡くなってから10日以内、国民年金の場合は14日以内に年金事務所へ、窓口または郵送で行う必要があります。

また、亡くなった方がまだ受け取っていなかった未支給分の年金は、生計を同じくしていた遺族が請求できます。

この「未支給年金請求書」には死亡診断書や戸籍謄本など公的な原本書類を多数添付する必要があるため、電子申請の対象外であり、郵送や窓口でのしっかりと対面審査が行われます。

4.5 海外へ居住する場合の「任意加入」手続きや「脱退一時金」の請求

日本国籍をお持ちの方が海外に転出する際、国民年金へ任意で加入し続ける手続きや、日本で働いていた外国籍の方が帰国する際、これまで納めた保険料の一部を返還してもらう「脱退一時金」の請求はスマホからは電子申請ができません。

任意加入の手続きは最終住所地の市区役所の窓口または年金事務所へ。

外国の方の「脱退一時金」請求は、必要書類を添付したうえで、日本年金機構へ書類を郵送することとなっています。