2024年のスタートから3年目を迎えた「新NISA」。今年7月3日に金融庁から公表された「NISA口座の利用状況に関する調査結果」によると、 NISAにおける買付額の合計は70兆円を超えており、投資を通じた資産形成の裾野は着実に広がりを見せています。

制度の普及に伴い、ネット上では「毎月コツコツ積立をする」という基本的な使い方だけでなく、「生涯の非課税保有限度額1800万円をいかに『最速』で埋めて、ほったらかしにするか」という議論が活発になっています。

長引く物価高(インフレ)により、銀行に現金を預けたままでは実質的な価値が目減りしてしまうという危機感から、退職金やこれまでの貯蓄を活用し、最短5年でNISA枠を使い切ろうと考える50歳代・60歳代の方もいるのではないでしょうか。

しかし、NISAにおける資産形成は「枠を埋めて終わり」ではありません。本当に重要なのは、老後の生活を支えるために「増えた資産をいつ、どのように取り崩していくか」という『出口戦略』です。

本記事では、金融庁や総務省の公的資料に基づき、1800万円を満額投資した後のシミュレーション【早見表】を公開。

さらに、シニア世代が知っておくべき「資産寿命を延ばすための賢い取り崩し方」を客観的に整理します。

1. この記事の3つのポイント

  •  最速5年+ほったらかし: 年間360万円×5年で枠を埋め、その後放置することで長期的な「複利効果」が働きやすくなる。
  •  10年後・20年後のリアル: 想定利回りで運用できた場合、投資完了後に追加入金しなくても資産が雪だるま式に成長する可能性がある。
  •  出口戦略が鍵: 増やした資産は「定額」または「定率」で運用しながら取り崩すことで、老後の生活費の足しにしつつ資産寿命を延ばすことができる。
齊藤 慧

新NISAのシミュレーション記事では「1800万円が3000万円になる」といった明るい未来ばかりが強調されがちですが「せっかく増えた株や投資信託を、もったいなくて(あるいは暴落が怖くて)売れない」という出口の悩みもあるでしょう。

NISAは非課税期間が無期限であるため、焦って全額を現金化する必要はありません。「運用を続けながら、必要な分だけを計画的に取り崩す」という視点を持つことが、老後の安心感に直結するかもしれません。

※この記事は、編集部が金融庁などの公的資料を基に執筆・検証しています。

2. 1800万円を埋めた後「ほったらかし」にする効果とは?

最短の5年間で1800万円の投資枠を使い切った後、追加の投資を行わずに、そのままNISA口座内で運用を継続(放置)した場合、資産はどのように推移するのでしょうか。具体的な目安を見てみましょう。

2.1 【早見表】5年後・10年後・20年後の資産推移シミュレーション

※以下の計算結果はあくまで一定の想定利回りで複利運用された場合の計算機上の目安であり、将来の運用成果を保証するものではありません。実際の市場では価格変動により元本割れが生じる可能性があります。

【シミュレーションの前提条件】

  • 投資額:毎年360万円×5年間(元本1800万円)
  • 5年経過後は追加投資を行わず、運用のみを継続(放置)
  • 非課税制度を利用するため税金は考慮せず、信託報酬等のコストは控除前とする

【早見表】5年後・10年後・20年後の資産推移シミュレーション1/1

【早見表】5年後・10年後・20年後の資産推移シミュレーション

出所:LIMO編集部作成

2.2 【経過年数ごとの運用シミュレーション】

  • 5年後(投資完了時):元本 1800万円 / 想定利回り3% 約1911万円 / 想定利回り5% 約1988万円
  • 10年後(運用のみ5年経過):元本 1800万円 / 想定利回り3% 約2215万円 / 想定利回り5% 約2538万円
  • 20年後(運用のみ15年経過):元本 1800万円 / 想定利回り3% 約2977万円 / 想定利回り5% 約4266万円

新NISAの大きな強みは「非課税保有期間が無期限」であることです。旧NISA(一般NISA)のように5年で非課税期間が終了して課税口座へ払い出されることがないため、投資枠を使い切った後も、そのまま放置して長期的な成長を待つ戦略が取りやすくなりました。

3. 増えたNISA資産はどう使う?「出口戦略」の考え方

NISAで資産を増やした後は、それを老後の生活費としてどのように使っていくか(取り崩していくか)を考える「出口戦略」が不可欠です。まずは、老後生活にどれくらいのお金が不足するのか、公的データから確認してみましょう。

3.1 「家計調査」から見る、老後の毎月の不足額

総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の無職世帯における毎月の「実収入(主に年金)」と「消費支出等」は以下のようになっています。

  • 実収入:25万4395円(うち社会保障給付:22万8614円)
  • 非消費支出(税金・社会保険料等):3万2850円
  • 可処分所得(手取り額):22万1544円
  • 消費支出(生活費):26万3979円
  • ひと月の赤字:4万2434円

この「毎月約4万円」の不足分、あるいは急な医療費や旅行などのゆとり費を補填するために、NISAで育てた資産を少しずつ現金化していくことになります。

4. 資産寿命を延ばす「取り崩しながら運用」のシミュレーション

NISA口座の投資信託などを売却して現金化する方法には、大きく分けて「定額」と「定率」の2つのアプローチがあります。資産を一括で売却するのではなく、「運用を継続しながら一部を取り崩す」ことで、資産が底をつくまでの期間(資産寿命)を大幅に延ばす効果が期待できます。

4.1 「定額取り崩し」と「定率取り崩し」の違い

仮に、NISAでの運用資産が2500万円まで成長したと仮定し、毎月10万円(年間120万円)相当を取り崩す場合のシミュレーションを比較します。

①定額取り崩し(毎月同じ「金額」を売却する)

「毎月10万円ずつ売却する」というように、必要な金額を指定して取り崩す方法です。生活費の計算が立てやすいメリットがありますが、相場が下落している時(基準価額が安い時)に売却口数が多くなってしまうため、資産の減りが早くなるリスクがあります。

②定率取り崩し(毎月同じ「割合」を売却する)

「毎月資産残高の0.4%を売却する」というように、割合を指定して取り崩す方法です。

相場が高い時には多く、安い時には少なく売却することになるため、定額よりも資産が長持ちしやすいのが特徴です。

ただし、相場によって毎月受け取れる金額が変動するため、生活費のコントロールが必要になります。

4.2 【執筆者の一言メモ】

「定率取り崩し」は理論上とても理にかなっているのですが、相場が悪い月は受け取れる金額が減ってしまうのが難点です。個人的には、毎月の基本の生活費は年金でやりくりし、足りない部分や「孫へのプレゼント代」「旅行代」といった『ゆとり費』としてNISAを取り崩すスタイルが、相場の上下に振り回されずストレスがないと感じています。

5. 50代・60代がNISA運用で失敗しないための注意点

最速で1800万円を投資する戦略は、資金効率が良い反面、購入直後に「リーマンショック」のような歴史的な暴落が起きた場合、一時的な含み損(マイナス)の金額が数百万円規模に膨らむ可能性があります。

5.1 暴落時にパニックにならず「放置」できるか

投資経験が少ないシニア世代によくある失敗が、この一時的なマイナスに恐怖を感じ、底値付近で慌ててすべて売却(狼狽売り)して損失を確定させてしまうことです。

NISAはあくまで余裕資金で行うものです。いざという時のための「生活防衛資金」や「数年以内に使う予定が決まっているお金」は必ず銀行預金などで手元に残し、相場が下落しても「NISAのお金は当面使わないから、そのままほったらかしにしておこう」とやり過ごせるメンタルを保つことが、長期投資を成功させるポイントです。

6. 執筆者からのコメント

NISAの制度改正によって非課税期間が無期限になったことは、「いつ売るか」という焦りから私たちを解放してくれた側面もあるでしょう。特に50代・60代の方にとって、現役時代のように「ひたすら増やす」フェーズから、「上手に使いながら楽しむ」フェーズへの切り替えは戸惑うことも多いと思います。

この記事でご紹介した「取り崩しながらの運用」をひとつのヒントにしていただき、豊かな老後生活の足しにしていただければ幸いです。

7. まとめ

新NISAの1800万円の枠を使ったシミュレーションと出口戦略のポイントは以下の通りです。

  1. 最短5年(年間360万円)で枠を埋め、その後放置することで、長期的な複利効果が期待できる。
  2. 非課税期間が無期限であるため、目標金額に達した後も急いで売却する必要はない。
  3. 老後の不足額(月数万円程度)を補うため、「運用を継続しながら定額・定率で取り崩す」ことで資産寿命を延ばせる。
  4. 暴落時にパニックになって手放さないよう、手元の現預金(生活防衛資金)とのバランスを保つことが重要。

ネット上のシミュレーションは、あくまで相場が一直線に右肩上がりで成長したと仮定した理想の数値です。現実の市場は常に上下動を繰り返すため、想定通りに増えない期間も必ず訪れます。「最速で埋めなければ損をする」と焦るのではなく、ご自身の年齢や保有資産全体のバランスを見極め、心に余裕を持ったペースで制度を活用してみてはどうでしょうか。

8. よくある質問

8.1 Q1. 新NISAで1800万円の枠を使い切った後、商品を売却したら枠はどうなりますか?

A. 新NISAでは、保有している商品を売却した場合、その商品を購入した際の「元本分の非課税枠」が、翌年以降に復活(再利用)します。そのため、老後資金として取り崩しを行った後、手元に余裕資金ができた場合には、復活した枠を使って再び年間上限枠まで非課税で投資することが可能です。

8.2 Q2. 2023年までの「旧NISA」で投資した分は、1800万円の枠に含まれますか?

A. 含まれません。2023年までの「一般NISA」や「つみたてNISA」で投資した残高は、新NISAの1800万円の生涯枠とは「完全に別枠」として扱われます。そのため、旧NISAの非課税期間が終了するまでそのまま保有しつつ、新NISAで新たに1800万円の枠を利用することができます。

8.3 Q3. 「最速5年での一括投資」と「10年以上の積立投資」はどちらが有利ですか?

A. 理論上は、市場が長期的に右肩上がりで成長した場合、早く多くの資金を市場に置く「最速投資」の方が最終的なリターンが大きくなる傾向があります。ただし、購入直後に相場が下落した場合の心理的負担は最速投資の方が大きいため、ご自身のリスク許容度(どれくらいのマイナスに耐えられるか)によって適した方法は異なります。

8.4 Q4. 暴落が起きてマイナスになったら、取り崩しはどうすればいいですか?

A. 相場が大きく下落している時に「定額」で取り崩すと、安い価格で多くの口数を手放すことになり、資産の減りが早まります。そのため、暴落時は一時的にNISAからの取り崩しを停止し、手元にある銀行預金(生活防衛資金)を取り崩して生活費に充てるなど、柔軟に対応することが資産寿命を延ばすコツです。

8.5 Q5. ほったらかしにしている間、商品の入れ替え(スイッチング)は必要ですか?

A. 全世界株式や米国株式の株価指数に連動する、低コストな「インデックス型の投資信託」を選んでいる場合、商品の中で自動的に銘柄の入れ替えが行われるため、投資家自身が頻繁に商品を乗り換える必要は薄いとされています。長期保有を前提とするなら、日々の値動きを気にしすぎないことが大切です。

参考資料

齊藤 慧