検索エンジンや動画共有サイト「YouTube」を通じて、Alphabet(Googleの持株会社)は私たちの日常に深く浸透しています。AI分野でも世界を牽引する同社は、株式市場においても長期的に力強い成長を遂げてきた代表的なビッグテック企業として知られています。
直近で発表された2026年第2四半期(4-6月期)決算において、Alphabetは純利益が前年同期比で約4倍(+298%)に急拡大するという、一見すると驚異的な好業績を発表しました。しかし、この素晴らしいニュースが報じられたにもかかわらず、決算発表後に同社の株価は下落する局面に陥りました。
一体なぜ、これほどまでに利益が成長している好決算の企業が、株式市場から警戒され、売られてしまったのでしょうか。
この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が、損益計算書(PL)の表面的な数字から、現金の動きを示すキャッシュフロー、さらには貸借対照表(バランスシート)にも乗らない「簿外」の数字までを3層構造で分析し、業績好調の裏に隠された本当の理由を解説します。
1. この記事のポイント
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本業の売上と営業利益は好調だが、純利益急増の正体はキャッシュを伴わない投資先株式の評価益である -
巨額のAI設備投資により、四半期ベースのフリーキャッシュフローが開示データ期間で初のマイナスに転落した -
自社株買いが2四半期連続でゼロとなり、社債や株式発行など外部からの資金調達へ大きくシフトしている -
バランスシートに乗らない約8,962億ドルもの巨額な「簿外コミットメント」が存在し、市場の不透明感を強めている
2. 第1章 本業は素直に好調だった
Alphabetの決算を読み解くにあたり、まずは第1層である「本業の成績」、すなわち損益計算書(PL)から確認していきましょう。米国企業の決算書は英文で文字が隙間なく並んでおり、日本の決算短信とはフォーマットが大きく異なりますが、一次情報である決算書を直接確認することが企業分析の基本となります。
2026年第2四半期の本業の業績は、誰が見ても素直に「好調」と言える素晴らしい結果でした。
売上高は前年同期比+24.2%の1,198億ドル(119.8ビリオンドル)に達し、力強い二桁成長を維持しています。本業の儲けを示す営業利益は、前年同期比+30.4%の408億ドル(40.8ビリオンドル)を記録しました。さらに、売上に対する利益の割合を示す営業利益率も、前年の32.4%から2ポイント改善して34.0%へと上昇しています。
図1 2026年第2四半期の本業の結果(売上・営業利益・セグメント別)1/8
出所:Alphabet 決算発表(Form 8-K Exhibit 99.1)およびForm 10-Q(2026年6月30日締め)を基にイズミダイズム作成
この好調さを牽引しているのはどの事業なのでしょうか。セグメント(事業部門)別の売上内訳を見ると、Alphabetの強固なビジネスモデルが浮き彫りになります。
最も規模が大きいのは、私たちが日常的に利用する検索エンジンに連動する「検索広告(Google Search & other)」です。この部門だけで四半期に633億ドルもの売上を上げており、規模が巨大であるにもかかわらず前年同期比+16.8%という高い成長を維持しています。AIの台頭によって検索ビジネスが脅かされるのではないかという懸念が一部で囁かれていましたが、現時点では検索広告が依然として同社の最大の収益源として君臨しています。
それに続くのが、クラウドコンピューティングサービスを提供する「Google Cloud」セグメントです。この部門の売上は前年同期比+81.8%の248億ドルへと急拡大しました。さらに注目すべきは、Google Cloudの営業利益が前年同期の28億ドルから88億ドルへと約3.1倍(+212%)に跳ね上がっている点です。利益率も前年の20.7%から35.6%へと劇的に改善しました。
これまで、クラウド市場においてはAmazonの「AWS」やMicrosoftの「Azure」が先行し、Googleはその後塵を拝しているという評価が一般的でした。しかし、この決算を見る限り、Google CloudがAIインフラとしての強みを発揮し、急速に収益化を進めてライバルに猛追していることがはっきりと確認できます。
他にも、YouTube広告が+12.9%、サブスクリプション等のサービスが+15.3%と、主要なセグメントは総じて好調に推移しています。ここまでのデータを見る限り、Alphabetの決算は文句のつけようがない内容に見えます。
3. 第2章 純利益+298%の正体
本業が好調であることは確認できましたが、それ以上に世間を驚かせたのが「純利益」の異常な伸びです。2026年第2四半期の純利益は、前年同期比+298%(約4倍)となる1,122億ドルに達しました。
営業利益が+30%の成長であったのに対し、なぜ最終的な純利益だけがこれほどまでに爆発的に増えたのでしょうか。そのカラクリは、損益計算書の中にある「Other Income(営業外収益)」という項目に隠されています。
図2 純利益とOther Incomeの比較(2025年10-12月期〜2026年4-6月期)2/8
出所:Alphabet 四半期決算(Form 8-K Exhibit 99.1)連結損益計算書を基にイズミダイズム作成。Net Income ex-Other Income は営業利益に19%の課税を仮定した近似値
グラフを見ると一目瞭然ですが、純利益1,122億ドルのうち、実に980億ドルがこのOther Incomeによってもたらされています。前年同期のOther Incomeが約26億ドルであったことを考えると、極端な膨張ぶりです。
この980億ドルの正体は何なのでしょうか。詳細な決算資料(10-Q)を読み解くと、その大半はAlphabetが投資している企業の「株式評価益」であることがわかります。資料において具体的に名前が挙げられているのは、宇宙開発企業の「SpaceX」と「非公開企業1社(社名非開示)」の2社です。同社が保有する非上場株式の評価額が大きく上昇したことが要因です。
ここで投資家が絶対に知っておかなければならない重要な事実があります。それは、この980億ドルの利益が「未実現の評価益」であるということです。
つまり、Alphabetが保有している株式の評価額が帳簿上で上がっただけであり、実際にそれらの株式を売却して現金(キャッシュ)を手に入れたわけではありません。会計上のルールに従って利益として計上されているものの、企業の手元に自由に使えるお金が増えたわけではないのです。
泉田氏はこの点について、キャッシュフローにインパクトを与えない「見せかけの利益みたいな感じになります」と指摘し、実態以上に利益が膨らんで見える状況を「かなり下駄履いてますね」と表現しています。
では、この一時的な評価益という「下駄」を脱いだ場合、Alphabetの「本業の実力」はどう評価すべきでしょうか。
純利益からOther Incomeの影響を取り除くため、営業利益に19%の課税を仮定した近似値(税引後営業利益に相当する数字)を算出してみましょう。この基準で計算すると、2026年第2四半期の本業相当の利益は330億ドル(33.0ビリオンドル)となります。
この330億ドルという数字を時間軸で比較すると、見え方が大きく変わってきます。前年同期(2025年第2四半期)の253億ドルと比較すれば+30%の成長となり、立派な実績です。しかし、直近の前四半期(2026年1-3月期)の322億ドルと比較すると、前四半期比(QoQ)では+2.7%と、ほぼ横ばいにとどまっていることがわかります。
売上が前四半期比でも伸びているにもかかわらず、利益の伸びが横ばいになっている背景には、AI関連の設備投資に伴う減価償却費(設備投資額を耐用年数にわたって分割して費用計上する会計処理)の増加など、コストの増大が利益を圧迫していることが推測されます(なお、売上に対する営業利益率は前年の32.4%から34.0%へと改善しているため、本業の稼ぐ力が衰えたわけではありません)。
株式市場のプロたちは、表面的な「純利益4倍」という見出しに踊らされることはありません。彼らは決算書を深く読み込み、一時的な評価益を除いた本業の利益の伸びが、直近の四半期ベースで見ると勢い(モメンタム)を失いつつあることを冷静に織り込んでいるのです。
4. 第3章 キャッシュフローは逆を向いていた
損益計算書(PL)の次に確認すべき第2層が、現金の実際の出入りを示す「キャッシュフロー計算書」です。実は、株式市場が今回の決算で最も警戒したのは、このキャッシュフローの悪化でした。
企業がビジネスを通じて手に入れた現金を「営業キャッシュフロー」と呼びます。ここから、将来の成長のために工場やデータセンターなどを建設・購入した「設備投資(Capex:Capital Expenditure)」の金額を差し引いたものが、企業が自由に使える現金である「フリーキャッシュフロー(FCF)」となります。フリーキャッシュフローが豊富であれば、借金を返済したり、株主に還元したり、新たな事業に投資したりする余裕があることを意味します。
図3 キャッシュフロー分解(直近12ヶ月・TTM)3/8
出所:SEC EDGAR(XBRL)およびAlphabet 2026年第2四半期決算を基にイズミダイズム作成。FCF=営業CF−有形固定資産の購入額(グロス)、TTMは直近4四半期の合計
まずは、直近12ヶ月の移動合計(TTM:Trailing Twelve Months)の推移を見てみましょう。TTMは過去1年間の合計値を毎四半期ごとにずらしながら見ていく手法で、季節要因などのブレを平滑化して長期的なトレンドを把握するのに適しています。
グラフを見ると、本業で稼ぐ現金である営業キャッシュフロー(濃い折れ線)は順調に右肩上がりで伸びています。しかし、それ以上に設備投資(Capex:薄いオレンジの棒)の金額が急増しているため、結果として手元に残るフリーキャッシュフロー(青い面)は頭打ちとなり、直近では低下傾向を示しています。
これだけでも警戒すべきサインですが、さらに四半期単体(3ヶ月間)のデータで切り出すと、より重大な事実が浮かび上がってきます。
図4 キャッシュフロー分解(四半期・フリーキャッシュフローのマイナス転落)4/8
出所:SEC EDGAR(XBRL)およびAlphabet 2026年第2四半期決算を基にイズミダイズム作成。図中の「上場来初」は、SEC提出データで四半期を再構成できる2007年10-12月期以降で初、の意
2026年第2四半期単体のフリーキャッシュフローは、なんとマイナス約59億ドル(−5.9ビリオンドル)に転落してしまいました。
本業の営業キャッシュフローは391億ドルのプラスでしたが、AIインフラを構築するための設備投資(Capex)が前年同期比約2.0倍となる449億ドルへと急激なペースで膨れ上がり、稼いだ現金を完全に食いつぶしてしまったのです。
SEC(米国証券取引委員会)に提出されたデータをもとに四半期を再構成できる2007年10-12月期以降において、Alphabetの四半期フリーキャッシュフローがマイナスになったのはこれが初めてのことです。
TTMのような直近12ヶ月の移動合計では変化が滑らかになるため実態が見えにくいですが、四半期単体で切り出すことで、Alphabetがいかに急速に現金の持ち出し状態(キャッシュアウト)に陥っているかが浮き彫りになります。市場は、AI投資競争の激化によって、潤沢なキャッシュフローを生み出してきたAlphabetでさえ、本業で稼ぐ現金だけでは投資を賄えなくなっている点を重く受け止めたと考えられます。